第19話 全滅って三割程度の損耗で全滅なんですよ

 レオルドが餓狼の牙を討伐する為に編成されていた騎士隊が敗北をしたと知ったのは、バルバロトが任務に赴いた事を聞いた二週間後の事だった。


「騎士隊が全滅? バルバロトは無事なのか!?」


「落ち着いてください。坊ちゃま」


「落ち着いていられるか! バルバロトは今どこにいる!」


「バルバロト殿は現在療養中です。どうやら、戦闘の際に腕を折られた様で」


「馬鹿な! バルバロトはゼアト一の騎士だったのだろう!? そのバルバロトを倒すなんて……」


(いや、待てよ? よく考えれば餓狼の牙は大事なイベントに出てくる敵だから補正でもかかってるのかも……そう考えたら納得するが)


「坊ちゃま?」


「ギル。バルバロトに会いたい。面会は可能か?」


「可能でございます。療養中といっても本人は今ゼアトの兵舎にいますから」


「なら、手配を頼む」


「仰せのままに」


 いつものように組み手を行っていたレオルドはギルバートにバルバロトとの面会を頼む。ギルバートは胸に手を添えてお辞儀をしたら、一瞬で姿を消した。


(ふう……やっぱりゲームと同じでジークが倒すようになってるのか……?)


 胸中を不安がよぎる。レオルドは未来を知っており、運命には抗えないのかと暗い気持ちになる。


(弱気になるな。俺は何の為にギルやバルバロトと訓練をしてるんだ。生き残るんだ、必ず。どんな手を使ってでも!)


 だからと言って、ただ何もせず諦めて死ぬよりは泥水をすする事になろうとも汚名を浴びようとも、レオルドは生き残る事を誓う。


「坊ちゃま。馬車の準備が出来ました」


「ご苦労。すぐに向かうとしようか」


 バルバロトの見舞いにレオルドは赴く。ギルバートが用意した馬車に乗り込み、バルバロトが療養している兵舎へと向かう。


(思えば、俺がこの屋敷から出るのは初めてだったな。ずっと、屋敷でダイエットと魔法の勉強ばかりしてたから、ちょっと楽しみ)


 レオルドはゼアトに来てから一月以上が経過していた。その間、レオルドは一度も街を訪れてはいない。

 ダイエットを決意してギルバートに毎日扱かれてクタクタになっているから、外へ出かけようという気が一切起きなかったからだ。さらにはバルバロトとの剣術の鍛錬も加わったので余計に街へと出掛ける気が起きなかった。


 その為、今回バルバロトの見舞いという名目で街を見ることが出来てレオルドは楽しそうに景色を眺めていた。


(うひょー! ゲームじゃ砦しか細かく描写されてなかったから分からなかったけど、ずいぶんと活気のある街だな~)


 ゼアトは辺境とは言っても国境にある砦の為、重要な役割がある。過去にあった戦争では防衛拠点として有名になっている。

 隣国からの出入り口となっているので、多くの商人が行き来している。なので、珍しい商品が出たりするので王都にも負けない賑わいだ。


 ただし、運命48ではレオルドが来た事により活気付いていた街は瞬く間に衰退していった。何の権力も持っていないレオルドだが、やはり公爵家という人間なだけあって逆らう者はいなかったのだ。


(う~ん! やっぱ屑だよね、俺って!)


 しかし、今はレオルドは真人の記憶が宿っているので運命48とは違う歴史になるかもしれない。


 馬車は進みゼアトの騎士が寝泊りしている兵舎へと着いた。レオルドは馬車から降りると、兵舎の中へと足を進める。

 ゼアトの兵舎で門番をしている騎士はレオルドを見るなり、敬礼して中へと通す。ギルバートと共に兵舎の中へと入っていくレオルドを見送った門番は呟く。


「あれが金色の豚ね~。頼むから何もせずに帰ってくれよ」


 彼の声は誰かに届くわけでもなく風が吹くように消えた。


 レオルドは兵舎の中を進んでいくが、バルバロトがどこにいるかわかっていない。ゲームの知識にはないから、適当に進んでいるのだ。

 やがて、ピタリと止まり後ろにいるギルバートへと振り返る。


「ギル。バルバロトのところまで案内してくれ」


「どんどん先へ進まれるものですから分かっていたのかと思いましたが」


(くっ! 探査の魔法を使ったけど、バルバロトがどこにいるか分からん! くそ! ミニマップでもあれば!)


 そんなものはない。ゲームなら話は別であっただろうが、ここは現実である。探査の魔法でバルバロトを探し出したとしても、兵舎のどこにいるかまではわからない。


 それならば、最初から知っているギルバートに聞いたほうが早いのだ。その事に気がついたレオルドはギルバートに呆れられてしまったが。


 ギルバートに案内されてバルバロトが休んでいる部屋まで行くと、ベッドの上で本を読んでいるバルバロトがいた。

 バルバロトは見舞いに来た二人に気が付くと、本を閉じて二人に顔を向ける。


「久しいな。バルバロト」


「わざわざ来てくれたんですか、レオルド様?」


「まあな。それより怪我の具合はどうだ?」


「見ての通りです。腕以外は治りましたから、いつでも稽古は再開できますよ」


「それは頼もしい限りだが、今は治療に専念しておけ」


「医者みたいな事を言いますね~」


「ふ……それよりもだ。餓狼の牙は強かったのか?」


「……何故、そのような事をお聞きに?」


「気になるからだ。それだけではダメか?」


「いえ、構いませんよ。機密事項でもありませんから。餓狼の牙は全体的には強くはありません。ただ、リーダーであるジェックスという男は強いです。間違いなく俺よりも」


「お前よりもか? 冗談ではと言いたいが結果が語っているか……」


「ええ。私は一騎打ちで敗れましたからね。油断はしていなかったつもりですが、相手の方が一枚上手でした」


「ふむ……ジェックスは何か持っていなかったか?」


「何かとはなんです?」


「あー、その、魔剣とか」


「どうしてその事を知っているのですか!? あれは戦った騎士以外は知らないはずですよ? 国には報告しましたがレオルド様にはまだ届いていないはずです」


(しまったー! ゲームの知識だから、どうやって誤魔化そう……ええい!)


「独自に調べていたんだ。魔剣については確証はなかったが、餓狼の牙が奪った金品の中には珍しいものがあると聞いていてな。ならば、魔剣の一つや二つあってもおかしくはないだろう?」


 咄嗟な言い訳ではあるが、自分にしては上出来だとレオルドは内心で自画自賛をしていた。


「それは凄いですね。私達も餓狼の牙討伐の為に情報は集めましたが、そこまでの情報は入手できませんでしたよ」


「ま、まあ公爵家の力を以ってすればな」


 このままではボロが出ると判断したレオルドは強制的に話を終えて、兵舎から逃げるように屋敷へと帰った。


「所で、いつ餓狼の牙をお調べに?」


 帰った後にギルバートから質問攻めに遭ったが、必死に誤魔化す事で難を逃れた。

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