第14話 指一本! じゃあ、次は拳だね!!!
「むっ!!!」
朝、いつものように着替えようとしたらレオルドは違和感を覚えた。
「ウエストが減っている……!」
急激に痩せたわけではない。ここ最近ずっと減量はしていた。そして、ついにオーダーメイドで作らせたレオルド用のズボンに隙間が生まれたのだ。
ずっとピチピチで今にも張り裂けそうだったウエスト部分に指一本分の隙間が生まれたのだ。
喜ばないはずがない。
柄にもなく腹の底から歓喜の咆哮を上げた。
「うぅぅぅぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
小さな進歩ではあるがレオルドにとっては大きな進歩であった。
この後、レオルドの咆哮を聞いて慌てたギルバートが部屋に飛び込んできたのは語るまでも無いことであった。
朝食を済ませたレオルドは、日課となっているギルバートとの組み手の為、庭に出るとストレッチを始める。
ストレッチが終わる頃にギルバートが顔を出した。
「ん? 今日はバルバロトはいないのか?」
「はい。今日は仕事があるそうなので」
「ほう。バルバロトまで召集するほどの仕事か。ギルは知っているのか?」
「勿論ですとも。どうやら餓狼の牙が近隣に出没したと言うので討伐に向かったそうです」
「餓狼の牙だと!?」
レオルドが驚く理由は、餓狼の牙がどういうものかを知っているからだ。
(餓狼の牙、義賊で悪人からしか金を奪わない信条で運命48では負けイベの相手。初めて負けたジークフリートは二度目の戦闘で覚醒する大事なイベントボスだ。でも、なんで今頃討伐? あ、ここゲームじゃないや。現実だった。でも、今のところゲームのシナリオ通りに世界は進んでる。だったら、討伐は失敗するんじゃないか? いや、そんなことよりも重要な事を思い出した。餓狼の牙はゲームだと三つしか存在しない蘇生アイテムを持ってるんだった! これは是が非でも手に入れておかねばならない!!!)
運命48では餓狼の牙は義賊で悪人からしか金品を奪わないので、被害者の中には悪事を働いた貴族も含まれている。なので、被害に遭った貴族から目の敵にされており、賞金を懸けられている。
ゲームだと主人公のジークフリートと一度戦い、勝利するほどの実力を持っている。二度目の戦闘では覚醒したジークフリートに負ける踏み台のような敵。
そして、レオルドと同じように全ヒロインのルートに存在しており必ず敵対する相手なのだ。踏み台としては当たり前なのだが、それ以上に餓狼の牙が所有しているアイテムこそが重要になっている。
それは、不死鳥の尾羽と言う蘇生アイテムだ。
他にも存在しているが、レオルドが手に入れられるとしたら、不死鳥の尾羽しかない。残りの二つはジークフリートがいずれかのヒロインルートで特殊なイベントを通して手に入れるようになっている。
ただし、ハーレムルートなら蘇生アイテム三つ全部を手に入れることが出来る。
運命48の世界には蘇生魔法というものは存在しない。しかし、蘇生方法はある。その方法は特殊なアイテムの使用というもの。
だから、運命48では戦闘で味方キャラクターが死ぬと死亡イベントが発生してムービーを見る事が出来る。
コンプリートしたい場合は事前にセーブしておく事だ。セーブしておかないと、死亡したキャラは復活しないので酷い目に遭ってしまうので要注意だ。攻略中のヒロインが死ねばバッドエンドである。
つまるところ、レオルドが死を回避するにはどうしても入手しておかなければいけないアイテムなのである。
「ギル。俺も餓狼の牙討伐に参加した――」
「なりませんぞ」
「ひえっ……!」
ずずいとギルバートはレオルドに詰め寄った。あまりの迫力に腰が抜けてしまうレオルドは小さく悲鳴を零す。
「既に騎士団が向かわれましたし、坊ちゃまがいては作戦に支障が出るだけです」
「ひ、酷い言い様だな」
「最近、多少動けるようになったからといって自惚れているのではありませんか?」
「そんな事はない! 俺はただ――」
「ただ? なんです?」
ぐっと顔を近づけるギルバートにレオルドは何も言えなくなる。ギルバートの冷たい眼光に怯んでしまうレオルドは結局何一つ言い返せないままであった。
一日が終わり、自室で魔法書を読みふけるレオルドはなんとかして不死鳥の尾羽を入手出来ないかと考える。
そもそも、不死鳥の尾羽は運命48においても唯一無二のアイテムである。ただし、それはゲームの中の話。
今、レオルドは現実に運命48の世界にいるのだ。もしかすれば、不死鳥が存在して尾羽を簡単に入手出来るかもしれない。
「よし! 早速調べるとしよう!」
そうと決まれば話は早い。レオルドは、早速不死鳥について調べる事にした。幸い、貴族であるため高価な本もそれなりの量を所持している。ただ、不死鳥関連の本があるかどうかは分からない。
ちなみに運命48の知識を持っているレオルドも不死鳥については詳しく知らない。知っているのは伝説の生き物という記述だけ。だから、必死こいて調べなければならないのだ。
「不死鳥についての本が無い……仕方が無い。明日、ギルバートに聞いてみよう」
レオルドの自室には不死鳥に関する本が置いていなかった。なので、ベッドに寝転がり明日調べようと眠りに就いた。
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