第13話 ボッコボコよ? 俺が!

 ギルバート、バルバロトの両名から体術、剣術を指南してもらうようになってレオルドはゼアトに来てから一月が経過していた。


 朝にギルバートから体術を学び、昼からバルバロトに剣術を学び、夜に一人で魔法書を読み漁る毎日が続いている。


 おかげでレオルドは才能があってか体術、剣術はメキメキと腕を上げている。ただし、二人から一本を取れた事はない。


 魔法については他二つよりも成長は凄まじい。ゲームと違って数値が無いから分かり難いが、レオルドは雷以外の魔法を鍛えている。そして、現在土魔法は強力なものになりつつある。


 そんなレオルドも魔法を使えば二人から一本取れるのではないかと考えて挑戦してみたが、伝説の暗殺者とゼアト一の騎士は伊達ではなかった。

 ゲームではないので相手が魔法の発動を待ってくれるはずは無い。詠唱している所に拳を打ち込まれて敗北。同じように詠唱している所に剣を叩き込まれて敗北。


 ならば、詠唱破棄で魔法名を唱えるが威力が足りない、精度に欠ける、範囲が狭いといった弱点だらけで思うようには戦えない。現実とゲームの違いに打ちのめされるレオルド。


「地道な努力あるのみか……」


 運命48の戦闘シーンでは詠唱破棄や無詠唱は存在した。しかし、それはゲームであって現実ではない。


 ゲームの場合だと詠唱破棄をすれば魔力の消費量が1.25倍となり威力も落ちる仕様になっている。ただし、スキルに詠唱破棄というものが存在しておりスキル持ちならデメリットが無くなる。

 そして、無詠唱は詠唱破棄よりも魔力消費量が1.5倍と多い。尚且つ威力も半減と言ったデメリットが存在する。当然、無詠唱もスキルにされているのでデメリットは無くなる。


 ちなみに詠唱破棄のスキル持ちは六十四人もいるヒロインに一人しかいない。そして、無詠唱のスキル持ちもヒロインに一人しかいない。

 しかし、主人公であるジークフリートはいずれ二つとも使えるようになる。


 スキルは本来一人につき一つしか無いのが一般的であるが、稀に例外が存在する。マルチスキルと言われて複数のスキル持ちが現れる事もあるのだ。

 過去最高は五つのスキルを持っていた者もいる。それら全てが優秀なスキルかどうかは定かではなかったが。


 さて、スキルについてだが勿論レオルドも所持している。レオルドがとあるルートでラスボスになれるのも所持しているスキルのおかげと言っても良い。


 レオルドが持つスキルの名は魔力共有。名前の通り任意の相手と魔力を共有が出来ると言うもの。

 名前だけ聞けばパッとしないが能力は魔法使いにとっては破格である。何せ、魔法を使う為に消費する魔力を余所から持ってこれるのだから。


 例えば、レオルドとギルバートの二人が魔力を共有したとしよう。

 レオルドが80の魔力、ギルバートが120の魔力を保有していた場合、共有すると200になる。

 そして、レオルドが自身の魔力量を超える魔法を放った場合、消費されるのは二人の合計した魔力である。


 このスキルを駆使してレオルドはラスボスにまで上り詰めた。多くの配下を持ってジークフリートを追い詰めるほどに。

 ただ、配下を全滅させると魔力共有が切れてレオルドの魔力はどんどん減っていき、最後はただのサンドバッグと化す。

 悲しき運命さだめの男である。


 スキルの有用性は理解しているレオルドだが今は使い所がない。なので、今はスキルよりも体術や剣術、魔法と言った基礎を伸ばした方が身の為である。


 そして、今日もレオルドはギルバートに殴り飛ばされ、バルバロトに叩き伏せられる。


「っ……まだまだぁ!」


 全身泥だらけで露出している肌の部分は青あざだらけなレオルドは、どれだけ倒れても果敢に立ち向かっていく。


「その意気や良し! ですが、それだけでは足りませんぞ!」


「ぐほぉっ!?」


 ギルバートに腹部を打ち上げられて宙を舞うレオルドは背中から地面に落ちる。強烈な痛みがレオルドを襲う。

 しかし、レオルドは歯を食いしばって耐えると身体を起こしてギルバートに向かっていく。


「ふぅふぅ……」


 一ヶ月毎日同じ事を繰り返したおかげでレオルドは心身共に成長していた。残念な事に体重はあまり変化が見られなかったが。

 それでも、最初の頃に比べればお粗末だった体術、剣術は目を見張るものになっているのだから賞賛に値する。


「では、休憩といたしましょう」


「はあ~~~……」


 どさっとその場に寝転がるレオルドを横目にギルバートとバルバロトは離れていく。

 レオルドに話し声が届かない場所まで移動すると二人は話し込む。


「一ヶ月みっちりと鍛錬を積んだ成果は出ていますね」


「ええ。私から見てもレオルド様の体術は目を見張るものになっていますね」


「それでしたら剣術の方もでしょう。元々、武術に関しては才能がお有りでしたから」


「それにしては最初の頃は酷かったものですが」


「坊ちゃまが剣の稽古をサボり始めたのが十二歳の頃からですから、三年のブランクは大きいでしょう」


「確かに。三年も鍛錬を怠れば錆びるのも当然ですな」


「ええ。実際、今よりも真面目に鍛錬を続けていた十歳の時の方が強かったのですから」


「ですが、今のような鍛錬を積めば将来は間違いなく大陸に名前を轟かす程の実力者になりましょう」


「そうですな。ただ、残念な事に坊ちゃまが再び表舞台に立つ事は難しいでしょう。もっと早く改心なさってくれれば良かったのですがね」


 ギルバートの言うとおり、レオルドの処罰は辺境の地へ幽閉。つまり、表立った舞台へ出て行く事はない。

 仮にレオルドが功績を挙げるならば、騎士団でも討伐できない魔物を討伐するか、隣国と戦争になった場合にゼアトを守りきるといった功績を挙げるしかない。


「遅すぎましたね……」


「ええ。本当に……」


 二人は知らないが、レオルドは悲観してはいない。レオルドは自身の死を覆せればいいので功績など全く必要ないと思っている。


 休憩が終わり、レオルドが木剣を持って二人の帰りを待っていた。やがて、二人が帰ってきて剣術の稽古が始まる。


「ふっ!」


「甘い! もっと鋭く、丁寧に!」


「しぃっ!」


「勢いで誤魔化すな!」


「ぐあっ!」


 バルバロトの木剣がレオルドの手首に打ち込まれる。何の装備もしていないレオルドはあまりの痛みに握っていた木剣を落としてしまう。


「く……っ……!」


「いつまで痛みに悶えている! 早く拾って、打ち込んで来い!」


「は……はいっ!」


 手首を押さえて痛みに苦しんでいるとバルバロトの怒声がレオルドの耳に響く。ギリッと歯を食いしばり落ちた木剣を拾い上げる。


 レオルドの眼前には鋭い目付きで睨み付けるバルバロトがいる。レオルドはバルバロトに睨みつけられても、臆することなく踏み込んだ。


「せいやあああ!!!」


「気合だけは一丁前だな!」


「あぐぅ……!」


 大声を出しながらバルバロトへと攻めるレオルドだが、呆気なく一蹴される。胴を打ち込まれて片膝を着くレオルド。


「今日はこの辺りで終わりましょうか?」


「いいや。まだだ!」


 立ち上がるレオルドを見てバルバロトに笑みが零れる。どこまで強くなれるのだろうかと未来を期待して。

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