第11話 無能な上司は何もしないでくれ……

「時に聞くのだが、俺はギルとダイエットしかしていないがそれでいいのか?」


 食事中に、ふと気になった事をなんとなく聞いてみるレオルド。ダイエットの為に考案された食事を取りつつ、側に控えているギルバートに問いかけた。


「坊ちゃまは何の役割もありませんので、特に仕事はありません」


「そ、そうか……」


(グサッと心に刺さる一言だな、おい! 何の役割もないって……でも、よく考えれば面倒くさい仕事をしなくていいって事だよな。それはそれでラッキーか)


 実際、レオルドは公爵家の嫡男ではあるが既に次期当主の座を剥奪されており、何の権力も持っていない。ただ、公爵家の一員なので庶民に比べたら違いはある。

 しかし、ゼアトでレオルドが出来ることはない。領主である父親ベルーガが政務を仕切っているのでレオルドが手を出せる事は一切ない。


 だから、現世でいうニートといっても過言ではない。


 さらにゼアトは辺境の要なだけあって駐屯している騎士団も屈強な者ばかりが揃っている。魔物の駆除や、盗賊、山賊といった対処も完璧にこなしているので治安も良い。


 故にレオルドが出来る事は何もない。

 一応、現代知識で内政に経済などで革命を起こそうかと考えたが、そもそもここは現代日本が作り上げたエロゲの世界なのでレオルドが持つ現代知識はあまり役立たない。

 せいぜい、使えると言っていいのはエロゲの攻略知識くらいだろう。


 しかし、ここはゲームの世界とは言っても現実である。既にゲームと現実の区別は実証済みで、ステータス画面は存在しない。

 パラメータは分からないけど、キャラの特性は覚えているのでレオルドは自分がどのように鍛錬を積めばいいかわかっている。


 レオルドは雷、水、土の三つの属性を扱える優秀な能力の持ち主だ。大抵は一つしか扱えない属性をレオルドは三つも扱える。

 ちなみにジークフリートは火属性しか扱えないが、彼が持つ特殊なスキルのおかげで全ての属性を扱えると言う規格外っぷり。


 そして、全属性を扱えるのは運命48に出てくるキャラでは三人のみ。その内の一人がジークフリートである。


 運命48では総人口について約十億人もいると明言されている。その中で全属性が扱えるのは、たった三人のみとなっているのだからジークフリートの異常さが際立つ事だろう。


 という訳なのでレオルドは食事を終えると自室に篭り、魔法書を熱心に読んでいく。真人の現代知識が邪魔をするかと思われたが、レオルドの記憶と相まって魔法の知識は向上している。


 だからと言って強くなったわけではない。ゲームならば知能のあたりの数値が上がっているのかもしれないが、ここは現実なので確かめようにも確かめられない。


 なので、魔法書片手に庭で試し撃ちをしたりする。基本的には水と土を伸ばそうとしている。この二つはゲームの時にはパッとしない扱いだったが、やはり現実となると利便性が高い。


 土などは大地の上で生活している人間にとっては身近にあるものだ。おかげで、魔法のイメージも簡単である。


「うーん。でも、俺って雷ばっかりなんだよな。ラスボスになった時なんか広範囲殲滅魔法とかでフィールド全体に雷を落としてたし」


 レオルドの言うとおり、運命48でのレオルドは基本的に使う魔法は雷ばかりであった。恐らく理由は単純に水と土は格好悪いからだ。ド派手なイメージと言えば火か雷の方だろう。


「しかし、地味に思われた土魔法がこんなにも便利だとはな~。雷魔法に比べたら派手さはないけど、使い勝手はいいし魔力の消費量も段違いだ。まあ、土なんて足元にあるものを使うだけだからなんだけど。頑張れば、建築とかに使えるんじゃないか? 俺に建築の知識があればよかったけど……いや、製造業の開発、設計で身に付けた知識を使えばいけるか? 科学と魔法の融合でチートだ! 悪くない考えだけど、俺何の権限も無いんだよな~」


 色々と考えるが、レオルドには何の権限もないので実行に移すことは出来ない。がっくりと肩を落として落胆してしまう。


「だからと言って諦めてたまるかよ!」


「何を諦めないのですか?」


「ひえっ!?」


 意気揚々と顔を上げた途端、背後からギルバートが声を掛けた。突然の事だったので、思わず悲鳴を上げてしまうレオルド。


「な、なんでもない! それより、何の用だ?」


「はい。本日は午後からの組み手なのですが私は用事がありますので代わりを用意しました」


「代わり? 誰だ?」


 ギルバートが後ろに顔を向けると、そこにはラフな格好をして腰に剣を差している男が立っていた。


「彼の名はバルバロト・ドグルム。ゼアトに駐屯している騎士の一人です」


「ほう。強いのか?」


 レオルドは初めて聞く名前に思わず聞き返してしまう。失礼かもしれないが、レオルドに宿った真人の記憶には刻まれていない名前だったからだ。


「その点に付きましては御安心を。ゼアトに駐屯している騎士の中で一番の剣の使い手でございます」


「ほう……」


(嫌な予感しかしない……!)


「彼には坊ちゃまの剣の稽古を任せました。言って聞かせておりますので、どうか御安心ください」


(……なら、大丈夫か?)


 ギルバートは用事があるということで、バルバロトにレオルドを任せて屋敷から出て行く。


 残ったレオルドとバルバロト。二人きりにされてしまったレオルドは、どのように声を掛ければいいか困っていたらバルバロトの方からレオルドに声を掛けた。


「えー、レオルド様。ギルバート殿から頼まれましたので、早速始めましょうか」


 バルバロトがそう言うと、木剣を二本取り出してきた。木剣を手渡されるレオルドは、戸惑いながらもバルバロトを真似て構える。


(ふむ……構えは出来ている。まあ、過去に王都で開かれた武術大会少年の部で最年少ながら優勝したと聞いてはいるが。しかし、噂に聞く限りだと落ちぶれて今に至るって話だ。一目見たら丸分かりな体型だから、噂どおりなんだろう)


「さあ、好きなように打ってください」


「う、うおおおおおお!」


 気合一閃とばかりに雄叫びを上げながら、バルバロト目掛けて木剣を振り下ろすレオルド。

 しかし、大振りなレオルドの木剣はバルバロトからすれば避けるのは造作もないことだった。


 ブオンッと音が鳴ってレオルドの木剣は地面を叩いた。すぐさま、二撃目をとレオルドが反転しようとしたがバルバロトに木剣を突きつけられる。


「うっ……」


「振りかぶりすぎです。それでは避けてくださいと言っている様なものですよ。とりあえず、レオルド様の実力は分かりましたので、まずは素振りから始めましょうか」


(こりゃ、酷いな。見た時から思ってたが、体力が無さすぎる。一振りしただけで息を切らすなんて……。給料が出るからって安請け合いしちまったかな。まあ、いつまで続くか分からんが給料分の働きはしますかね)


 既に息も絶え絶えなレオルドに呆れているバルバロトは、今回の仕事を引き受けた事に少し後悔する。


 対して、レオルドは悪評のある自分を見放さないバルバロトに好感を持ち始めた。

 もしかしたら、きちんとした教えをしてくれるかもしれないと。

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