第10話 ぶひぶひ言うのはどうにかならんのかね?
「ぐぼふぉっ!」
レオルドの分厚い脂肪に覆われた腹部にギルバートの鋭い蹴りがめり込む。堪らず、レオルドは後ろに倒れて腹部を押さえながら痛みに苦しむ。
(違う! 俺が求めてたものと全然違う!)
呼吸もままならず息苦しさに涙目なレオルド。
心の中で不満を言うが、現状が改善される事はない。
元々、レオルドは真人であった頃の現代知識と経験を元にダイエットを試みようとしていた。故に食生活の改善、適度な運動で痩せるだろうと軽く見積もっていた。
なにせ、レオルドは何と言っても育ち盛りの十五歳なのだから新陳代謝がいいのだ。
なので、暴飲暴食を控えて適度な運動さえしていれば痩せるに違いないと甘く考えていた。
しかし、ここで大きな誤算が生まれる。適度な運動をギルバートに任せてしまった事だ。
これによってレオルドとギルバートとの適度な運動という名の地獄の鍛錬が始まってしまった。おかげで、今はギルバートと組み手を行っている最中だ。
「休んでる暇はありませんぞ。さあ、早く立って構えるのです」
(鬼かっ!!! まだまともに呼吸も出来ないんだぞ!)
レオルドの心情など知らず、ギルバートはレオルドに立ち上がるよう促す。だが、やはりレオルドは立ち上がらない。
「この程度で音を上げるには早いですぞ」
そんな風に言われたらレオルドとしては立ち上がるしかない。プライドだけは一丁前にあるのだから。
「ぐ……っ!」
「さあ、続きを始めましょうか」
再び構えるギルバートに釣られてレオルドも構える。そうして、またレオルドにとっては地獄のダイエットが始まる。
二人の組み手を屋敷の中から見守り続けるシェリアは呆れるように愚痴を零す。
「ここに来て一週間もよく続けるよね~。最初は一日で音を上げるんじゃないかと思っていたけど、案外根性あるのかな? まあ、私もデブなままのご主人様より痩せたイケメンのご主人様が断然良いから頑張って欲しいな。最近、ちゃんと顔を見るようになったから分かったけどレオルド様も痩せたらイケメンなの間違いないから応援したくなっちゃう」
途中からは願望丸出しではあるが、シェリアからの評価は変わりつつあった。
喜ばしい変化ではあるがレオルドが知ることはない。やはり、使用人と主人という立場なのでシェリアが直接伝える事はしないから。
されど、シェリアの評価が上がれば自ずと他の使用人達からの評価も上がる。
既にシェリアの話を聞いて警戒していた使用人達も、ここ一週間のレオルドを見て認識を変えている。
噂とは違う、と。
レオルドにとって大変喜ばしい事なのではあるが、やはりレオルドの耳に届きはしない。
それでもレオルドの努力は実を結んでいる事だけは確かである。
「ぶひいいいっ!!!」
「その叫び声はどうにかならんのですか……」
ギルバートとの組み手で大きく吹き飛んでいくレオルドは豚のように叫ぶ。こればっかりは、どうしようもないのでギルバートも困ったように溜息を吐いてしまう。
この一週間、レオルドのダイエットを行っているが毎回豚のように鳴いている。なんとか改善できないものだろうかとギルバートは毎日頭を悩ませている。
しかし、一向に改善しないレオルドを見ていると無理なのではないのだろうかと不安になってしまう。だが、それでも廃嫡されたとは言えハーヴェスト公爵家の長男であるのだから恥を晒すような真似は出来ない。ならば、ここは恨まれたとしても矯正しなければとギルバートは心を鬼にする。
「いつまで寝転がっているつもりです。まだまだ行きますよ!」
(勘弁して! もう意識が飛びそう!)
どれだけレオルドが悲鳴を上げようとギルバートが許すはずもなくレオルドとの組み手は続いていく。
何度も、地面に倒れるレオルドにギルバートは容赦なく叱咤する。
「まだです! まだ立ち上がれるはずです!」
「く……こ……のぉ……」
「そうです! その意気です!!!」
立ち上がるのは出来ても組み手を行う事は出来ないレオルド。既に傷だらけで着用している服も穴だらけ。
それでもギルバートは許してくれずレオルドへと近付き拳を振るう。
構えていないレオルドはそのまま殴られると思いきや、ギルバートの拳を避けて一歩踏み込んでみせる。
ただ、それだけでは足りない。ブヨブヨの腕を伸ばしてギルバートに拳を叩き込もうとするが届く事はない。
レオルドの腕を軽く払うギルバートは、豚のような巨躯であるレオルドを吹き飛ばすほどの回し蹴りを叩き込んだ。
「ぶっひいいいい!!!」
ライフルから放たれた弾丸の如く回転しながらレオルドは吹き飛ぶ。ズザザッと頭から地面に突っ込んで止まると、完全に意識を失ってしまう。
この一週間で毎日のように見られる光景である。最後はギルバートの強烈な一撃でレオルドが意識を失って幕を閉じるというものだ。
「また……か」
目を覚ますレオルドはいつものようにベッドに寝かされていた。
ギルバートとの組み手が終わると、いつもこうだった。最初は今着ている服から下着まで履き替えさせられている事に羞恥心を抱いたが、もう慣れてしまった。
貴族とはこういうものなのだと。
辺境の街ゼアトに来てから一週間。あっという間に過ぎたが、レオルドにとっては濃厚な毎日となっている。
ただし、今のところギルバートと組み手を行うだけで他には何もしていないのだが。
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