第8話 おお、ちょっとチョロすぎじゃありませんかね?

 運命に抗い、生き延びる事を誓ったのに以前までの屑人間であったレオルドの真似をしていたのは間違いだったと頭を抱えるレオルド。


 しかし、凹たれてはいけない。必ず、死亡フラグをへし折る為にも、真人の記憶を使いレオルドの本来持つ力を取り戻すのだと奮起する。


「レオルド様。ゼアトに到着しました」


「ん、わかった」


 馬車が止まり、目的地であるゼアトに辿り着いた事をギルバートがレオルドに報告する。

 レオルドは素直に返事を返して、馬車の戸を開けてゼアトを見詰める。


(ふぉおおおおおお!!! 画面の向こう側に見た光景が今目の前に! なんて素晴らしいんだ。シェリアの時とはまた違う感動だ)


 レオルドはエロゲでプレイしていた頃の記憶を思い出し、目の前の光景に感動していた。

 ゼアトは運命48の説明だと国境付近に建造された砦と小さな町といった場所だ。


 特にこれと言った名産はなく、砦以外は注目するものはない。真人の記憶でもゼアトは砦以外見るものは無かったそうだ。

 イベントで砦に訪れたりしたが、町は素通りしていたので詳しくは知らないレオルドはどのような町並みなのか楽しみにしている。


 早速、町を見て回ろうとするレオルドだがギルバートに止められる。


「レオルド様。どこへ行かれるつもりですか?」


「町を見て回ろうと思うのだが、なにかあるのか?」


「これから、我々が過ごす屋敷へと向かいます。馬車が止まったのは、我々が今後生活していく町を一度見ておく為です」


「わかった。なら、屋敷に案内してくれ」


 相変わらず素直に言う事を聞くレオルドに不審な気持ちが拭えないギルバート。

 一方でレオルドは今後どのようにギルバートやシェリアと接したらいいかを悩んでいた。


 町から少しだけ離れた場所にある大きな屋敷。馬車から降りたレオルドは屋敷を見上げて、真っ青に顔を染める。


(ここは!? レオルドが何度か最期を迎えた場所だっ!)


 レオルドは運命48の全ルートで死亡している。ラスボスになる事もあるが、ラスボスになると別の場所でジークフリートと雌雄を決するようになっている。


 しかし、今レオルドが見上げている屋敷は多くのルートでレオルドが最期を迎えている場所なのだ。

 暗殺、毒殺、謀殺と多岐に渡るレオルド死亡のオンパレード。

 その現場が目の前にあるのだから、未来を知っているレオルドが真っ青になるのも仕方が無い事であった。


「どうかしましたか、レオルド様?」


「い、いや、なんでもない。それより早く屋敷の中を見せろ」


「どうぞ、こちらです」


 ギルバートに中へと案内されるレオルドだが、やはり自分が最期を迎えるかもしれない屋敷に入るだけあってギクシャクとした動きになっている。

 おかしな様子のレオルドを見たギルバートは、首を傾げてしまうが逃げ出さない所を見る限り大丈夫だろうと判断した。


 さらに後ろではシェリアがおかしな動きをするレオルドを見て必死に笑いを堪えているところだった。


 レオルドはギルバートとシェリア二人に案内されて自室へと入る。既に服や下着といったものは取り揃えられており、いつでも生活が出来そうに整えられている。

 豪勢なベッドに寝転がり、天井を見上げてレオルドは今後の方針を立てる。


(まずはダイエットから始めよう。幸いにも前世でダイエットを成功させている事だし。次に魔術についての勉強と武術の鍛錬だな。レオルドの記憶もあるから、二つについては特に苦労しなさそうだ。まあ、ギルバートに頼めばなんとかしてくれるだろうな)


 やる事は沢山あるが、ここから先は未知の領域である。

 未来で死ぬ事は分かっていても、その道程は不明なのだから。


 それでも必ず生き残ってやると誓ったのだから、まずはギルバートやシェリア達に協力を仰ごうとするレオルド。


(しかし、いきなりダイエットしたいから手伝ってくれなんて言ったら怪しまれるかな? でも、食生活とか見直そうとしたらメイドや執事に頼ったほうが貴族らしいよね! 怪しまれたら、ジークに殴られた影響ですとかいって押し切ろう!)


 原作を再現した今となっては今更感が凄まじいのだが、原作通りに進ませない為には実行しなければならない事だ。


 善は急げとレオルドは呼び鈴でギルバートを呼び出す。


 呼び鈴が鳴って一秒も経たないのにギルバートはレオルドの部屋を訪れた。


「お呼びでしょうか?」


(早いな、おい! 呼び鈴鳴らして一秒経ったか経たない程度で来たぞ! 伝説の暗殺者アサシン凄すぎ!)


「ああ。ギルバートよ、俺は痩せたい。だから、手を貸してほしい」


「……今なんと仰られましたか?」


「歳で聞こえなかったか? 痩せたいと俺は言ったのだ」


「坊ちゃま……」


(えええええええ!? なんで泣くの! しかも、坊ちゃまって昔の呼び方やん! なにか感動する要素あった!?)


 レオルドには到底理解できないが、ギルバートはレオルドの更生を命じられていた。

 きっと、生涯最後の大仕事になるだろうとギルバートは覚悟をしていた。なのに、まさかの転生で人格が変わっていた。ギルバートの覚悟は無駄に終わったが、嬉しい事に変わりは無かった。


 かつて神童と呼ばれていた頃のレオルドが帰ってきてくれたのだと盛大に勘違いしているギルバートは感動に涙が堪えきれなかったのだ。


「手を……貸してくれるな?」


「勿論ですとも。このギルバート、坊ちゃまが理想のお身体を手に入れるまで身命を賭しましょう」


(重ーーーい! 重たいよ、ギル! この数秒で何があったの! 貴方に何があったって言うのおおおお!)


「そうか。ならば、付き合ってもらうとしようか」


「はっ!」


 突然の心変わりにギルバートは何の疑問も抱くことなくレオルドに協力する事になった。

 そんなギルバートに若干引きつつも心強い味方を手に入れることが出来て喜ぶレオルドであった。

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