第5話 原作通りにしちゃダメじゃん!

 王城での謁見から戻ったベルーガはレオルドを学園から呼び戻し、レオルドの処分を本人に下す。


「お前の追放処分が決まった」


「え……!?」


 驚いているがレオルドは、この後の展開を知っているので演技をしている。


「お、お待ちください、父上! 何故、私が追放処分なのです!」


「お前は自分が何をしたのかすら理解できていないのか?」


(分かってます。公爵家にあるまじき失態を晒したからです。他にもたくさん悪いことしてるからな~……救いようがない屑なのだから当然の判断だわ)


「仰る意味が分かりません。私は何も問題など――」


(ここまでは原作通りの展開です! 知ってます! この後、パパンがブチ切れるんですよね!)


「愚か者めがぁっ! どれだけ私を失望させるつもりだ! お前は決闘に負けた上に恥を晒したのだぞ! それだけではない。これまでお前は何をして来た? ああ、言い訳は結構だ。既に調べはついている。お前がこれまで行ってきた悪行の数々についてはな。息子だからと言って甘やかしてきた私にも非はあろう。だがしかし、それを差し引いてもお前の所業は見過ごせん。故にお前は次期当主としての座を剥奪し、辺境の地へ幽閉する。二度と私の前に現れるな!」


「そ、そんな父上……」


 踵を返してレオルドの前から去ろうとするベルーガ。しかし、ここで簡単に帰さないのがレオルドなのだ。


 去り行くベルーガを慌てて追いかけるレオルド。その後ろ手を掴もうと手を伸ばすが、普段運動していないレオルドに機敏な動きは厳しすぎた。


 転げたのだ。盛大に、そして情けなく。


「ぷぎぃっ!?」


 ベルーガの耳に届いたのは豚の鳴き声に似たレオルドの声。何かあったのかとベルーガは振り返ると、そこには豚が一匹寝転がっている。


「……お前という奴はどれだけ、どれだけ私を怒らせれば気が済むのだ」


 声が震えている。ベルーガはワナワナと震えて怒りを抑えているが、いつ爆発してもおかしくはない。


(確か、この後起きようとして後ろに転ぶんだよな。まあ、この体型に体重ならあり得る話だ)


 レオルドは原作を再現する為に、ベルーガの怒りが頂点に達する前に慌てて立ち上がろうとして後ろに転ぶ。コロリと可愛らしく転ぶレオルドを見たベルーガは怒り爆発。


「ふざけているのかっ! 追放処分では生温い! この場で切り捨ててくれるわ!」


(ひえ~~! ガチ切れしたパパンめっちゃ怖い!)


「気を確かに、旦那様。なんの為にこれまで耐えて来たのですか」


 怒りの頂点を迎えて暴れ出すベルーガを執事のギルバートが止める。


(ギルバートもめちゃくちゃ強いんだよな。ただ、レオルドに殺されたけど)


 今にも殺されそうだと言うのに呑気な事をレオルドは考えていた。


 ギルバートは原作だと、レオルドに殺される。実力で言えば、ギルバートの方が強いのだがレオルドはギルバートの孫娘を人質に取り殺害するのだ。


 流石は屑。やることが外道である。


 ちなみにギルバートの孫娘は運命48のヒロインではない。所謂、サブヒロインである。だが、ビジュアルが良いので人気キャラの一人でもある。


 目の前で暴れ出しそうなベルーガを必死に抑えるギルバート。それを見て、レオルドはリアルで動いてると感心していた。


(はっ! しまった。呆けてる場合じゃないな。喚き散らしながら、無様に逃げないと)


 二人のやり取りに気を取られて自身の役割を忘れていたレオルドはようやく我に返る。


 普段、温厚な父親が歯を剥き出しにして憤怒に顔を染めている様子を見てレオルドは怯えて声を荒げる。


「う、うわああぁあぁああぁぁぁああ!?」


 醜く太った身体のどこにそんな力があるのかと聞かれるくらいに、二人の前から脱兎の如く逃げ去る。


 無様に喚き散らしながらレオルドが二人の前からいなくなった。二人は演技を止めて、先程の情けない姿をこれでもかというくらい見せ付けてきたレオルドについて話す。


「我が息子ながら、本当に情けない……」


「流石に今のは擁護できませんな。私の息子だったのなら、首を刎ねていたところです」


「恐ろしい事を言うな。ギル、本当に更生できそうか?」


「我が人生最後の大仕事となりましょうが、必ずや」


「寂しくなるな。私が引退するまでいてくれるものだと思っていたのに」


「こればかりは仕方がありません。では、レオルド様を捕獲した後、お会いしましょう」


「ああ、頼んだ」


 ベルーガが最後の一言を発した瞬間、ギルバートが消える。


 かつて、大陸に名を轟かせた伝説の暗殺者アサシンだったギルバート。歳を重ねて老体になれど、その技は未だ衰えず。


 自室へと戻っているレオルドは部屋の隅に布団を被って隠れている。


「このあと、ギルが迎えに来るんだよな~。そんで強制的に荷物を纏められて、あれよあれよと辺境の地へ強制連行。せめて! せめて、双子の弟と妹に会いたかった!」


 レオルドは心情を曝け出すものの、それが叶わないと知っているので嘆く以外出来ない。しかし、今は会えずともいずれ会うことになるだろうと手早く切り替える。


「……来たか」


 地味にではあるがレオルドは魔法の鍛錬を励んでいた。たった三日ではあるが、探査の魔法を習得していた。


 かつて神童と呼ばれていたレオルドに真人の現代知識が加わったのだから、鬼に金棒である。


「失礼します。レオルド様」


 ギルバートがレオルドの部屋に来訪する。

 ここから、生き残る為の戦いが始まろうとしている。


 それはそうとしてお腹が空いたので何か食べ物を下さいませんか、と言いたいレオルドは必死に空腹に耐えていた。

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