第4話 一杯付き合えよぅ!

 さて、レオルドがダイエットを決意している頃、物語が進行していた。


 レオルドの父ことベルーガは国王からの呼び出しにより、王城へと赴いていた。既に、レオルドの決闘騒ぎは王国中に広がっており、城内を歩くベルーガにもその噂が耳に入っていた。


 様々な噂が飛び交っている。曰く、婚約者を無下に扱い、部下に襲わせた。

 曰く、公爵家という身分を笠に教師を脅して成績を改竄した。

 曰く、決闘に敗北した時、豚のように鳴いたとか。


 ベルーガの耳に入ってくる噂には、頭を抱えたくなるが一部を除いてほぼ事実である。とは言っても、ベルーガも何もしていないわけではない。諜報員を使って噂を確かめて、真実と知っている。


 故に噂を聞いた馬鹿な貴族がどれだけベルーガへ皮肉を言おうともベルーガは動じなかった。


 そうして、ついに謁見の時が訪れる。ベルーガは呼び出された理由を理解しており、どういう対処をするかを決めている。この謁見は言うなれば意思確認と言ってもいい。


 豪華絢爛と言う言葉が相応しい玉座の間。その玉座に腰を下ろすのは、アルガベイン王国六十四代目国王アルベリオン・アルガベイン。齢四十にして尚老いる事のない端整な顔をしている。


 流石は四十八人のイラストレーターが手掛けた人物と言える容姿の持ち主だ。ただ、見た目と政治に極振りなので、戦闘面では紙装甲であり一撃で死ぬ。


 ただし、懐刀とされている近衛騎士がいる。ここでは、名前を挙げる事はないがアルガベイン王国最強とだけ言っておこう。


 国王の眼前に辿り着いたベルーガは片膝を着いて、忠義の姿勢を見せる。


「面を上げよ」


「はっ!」


 下を向いていたベルーガは国王の言うとおりに顔を上げる。ベルーガが顔を上げたところで、此度の謁見についての理由が述べられる。


「ベルーガ・ハーヴェスト。この度呼び立てたのは他でもない、汝が息子レオルド・ハーヴェストが王国法の下、決闘にて敗れた件についてである。既にこの件については当事者達、レオルド・ハーヴェスト、ジークフリート・ゼクシアにて解決されている。勝利者であるジークフリート・ゼクシアはレオルド・ハーヴェストに対して二つの要求をした。一つ目は、レオルド・ハーヴェストと婚約関係にあったクラリス・ヴァネッサとの接触禁止。二つ目は、先に述べた二人との接触禁止により学園を退学。以上、ここまでよろしいか?」


「はい。間違いないかと」


 玉座の間にいた宰相が声高らかに説明した。既に一部の者を除いて知られている情報なので、玉座の間に集められた貴族はあまり動揺しない。


 全てを把握しているベルーガは慌てることなく、淡白な返事をした。宰相はベルーガの言葉を聞いてから、一歩下がる。


 ここから先は国王の仕事だ。ここは王国であり、王制であるので、国王が全ての裁決を下す。今回の件についてはベルーガに責任はない。親なのだから責任を負うべきではと思われるのだが、決闘は当事者達の間でしか責任が発生しない。


 なぜならば、勝てば全てを手に入れ、負ければ全てを失うのが決闘だからだ。


 だが、それでもベルーガは公爵でありレオルドも同じ家系である為、格下であるゼクシア男爵家の嫡男に負けたのは見過ごす事はできない。


 貴族社会の上下関係はとても厳しい。それに亀裂を入れるような真似を晒すわけにはいかないのでレオルドには罰が必要なのだ。


 つまり、これからベルーガは親として、そして公爵家の人間としてレオルドに罰を下さねばならない。それをこの場で示すのが、今回ベルーガが呼ばれた理由であり責務でもある。


「ハーヴェストよ。此度、お前の息子が仕出かした罪は重い。どう責任を取るつもりだ?」


 国王の重たい言葉がベルーガに圧し掛かる。しかし、ベルーガは最初から答えを用意している。なので、後は多くの貴族が見詰める謁見の場で大々的に宣言するのみ。


「我が不肖の息子、レオルドには次期当主の資格を剥奪及びに辺境の地へと幽閉する事を罰とします」


 この決定は実質、公爵家からの追放という意味を成す。これがどれだけ重たい罰なのかをレオルドは分かっていないが、貴族からすれば死よりも重い恥辱である。


 名誉や栄光、名声に富といったものが全て無くなるのだ。すなわち、貴族にとっての社会的な死を意味する。


「そうか。では、次期当主をどうする?」


「その点についてはご心配に及びません。次男であるレグルスに決めています」


「ほう。噂は聞いておる。愚兄に似ず、優秀な弟だと。して、それは真なのだろうか?」


「親の欲目抜きにしても、とだけ」


「であるか。しかし、残念よな。お前の息子は武勇に優れた神童と持てはやされておったのに、このような結末を迎えようとは……」


「恥ずかしい限りです。私の教育が間違っていたのでしょう」


「どうであろうか。お前の息子レグルスはレオルドとは違うのであろう? ならば、レオルドに原因があったのだろう」


「それならば、尚更恥ずかしい限りです。息子の本性を見抜けなかったのですから」


「人間、誰しも間違いはある。さて、レオルドの処罰についてはこれにて終いとしよう。最後にハーヴェストよ、二度は無いぞ?」


「はっ! 陛下の温情に感謝を!!」


 これにて謁見は終了である。集まっていた貴族も解散して、用意されていた部屋へと戻っていく。同じく、ベルーガも自室へと戻り、椅子に腰掛けて休む。


 しばらく休んでいるところに客人が訪れる。ベルーガも予想していたのか、控えていたメイドに指示を出して扉を開けさせる。


「先程ぶりだな、ベルーガよ」


 訪れてきたのは国王本人であった。

 プライベートな訪問なので、ベルーガはメイドを下がらせてアルベリオンと二人きりになってから口を開いた。


「今回は手間を掛けさせてすまなかった」


「気にするな。私とお前の仲だ。それよりも、お前こそ平気か?」


「気が気じゃなかったさ。決闘で負けたと聞いたときは髪の毛が抜け落ちた程さ。ああ、息子は死んだんだって」


「それに関しては運がよかったな。ジークフリートが死ねと命じていたら、その時は本当に終わっていたぞ」


「本当に感謝しかないよ、彼には」


「その事についてはこれで終わりにしよう。少し、愚痴に付き合ってくれ」


「いくらでも付き合おう」


 プライベートで仲の良い二人は、時間を忘れるほど仕事や政治についての愚痴を言い合った。だけど、その顔は晴れやかな笑顔であった。


 久方ぶりに会う友人との話は愚痴だとしても楽しいものなのだ。

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