第2話 親父ェ……

 レオルドになった真人が一大決心をしている頃に、ハーヴェスト公爵家にレオルドが決闘に敗北したとの一報が届いていた。


「それはまことか?」


「はい。学園の方には確認を取っています。さらに言えば大衆の面前で決闘騒ぎを起こし、闘技場を占拠して大観衆の下で行われたと」


「……わかった。学園には私が直接出向く。至急、連絡を取ってくれ」


「は!」


 現ハーヴェスト家当主、ベルーガ・ハーヴェストは、レオルドが決闘に敗北したという報告をした男を下がらせると、頭を抱えた。

 ベルーガが頭を抱えるのも仕方がない。決闘とは王国法で存在しているのだが、負ければ生殺与奪の権を勝者が握る事になる。幸いな事に今回は相手がレオルドの死を望んでない。

 もしもレオルドに死ぬよう命じられたら、ベルーガは何も出来ずに息子を殺されるしかなかった。


「はあ……学園に行けば少しは落ち着くだろうと思ったが見当違いだったか。いや、私が甘やかし過ぎたのが原因だな。いずれは立派になってくれると信じていたが……」


 ベルーガは最初の子供だという事で蝶よ花よと甘やかしてきた。そのおかげで、現在のレオルドが誕生してしまったのだから、責任を感じてもおかしくはない。

 自分の息子なら、いずれ自身の過ちに気が付き更生するだろうという希望を抱いていたが、今回の件で身に染みるほど分かった。

 今後は厳しく躾なければならないと。


 ベルーガは手元にある呼び鈴を鳴らす。すると、ベルーガの仕事部屋に一人の老執事が訪ねてくる。


「お呼びでしょうか、旦那様」


「ああ。実は頼みたいことが出来た」


「坊ちゃんのことでございましょうか?」


「察しがいいな。その通りだ、ギルバート。頼めるか?」


「断る理由がございません」


「いつも助かる」


「とんでもございません。私はハーヴェスト家に仕える執事ですから」


 老執事が部屋を出て行くと、入れ替わるようにして女性が入ってくる。ベルーガの妻であるオリビアだ。


「あなた。先程、耳に挟んだ事なのだけれど」


「ああ。わかっている。レオルドの決闘についてだろう」


「はい……レオルドはどうなるのでしょうか?」


「幸いな事に決闘した相手が求めた事は二つだ。一つはレオルドの婚約者であるクラリス嬢と関わらない事、それから決闘した相手ジークフリート君の前から消えることだ。だから、レオルドには学園を自主退学させる」


「よかった……それだけで済んだのですね」


「本当にな……すまないな、オリビア。私がもっと厳しく教育しておけばこうはならなかったのに」


「そう仰らないで。私も甘やかしてばかりでしたから、二人の責任ですわ」


 二人して謝るが、二人にとっては初めての子供だったという事もあり沢山の愛情を注いで育てたのだ。

 だから、甘やかしてしまった。そのせいで、破綻したような性格になってしまったが、二人だけが悪いわけじゃない。

 甘やかしてくれるという状況に甘んじていたレオルドにも非はある。


「それで、レオルドを自主退学させた後はどうするおつもりですか?」


「うむ。そのことなんだが、我が領地にある辺境の都市ゼアトに向かわせる」


「大丈夫なのですか? 今は魔物も大人しく隣国も友好を結んではいますが、ゼアトは辺境の要ですよ? レオルドに統治が出来るのでしょうか?」


「その点は心配ない。ギルバートをお供につけるからな」


「まあ! ギルが一緒なら安心ですわ」


 安心だと言うが、レオルドは死ぬ。確定事項なので、いくら優秀な部下がいようが防げない。もちろん、二人はそんな事知るわけがない。


「後日、学園にレオルドを迎えに行く。これから、しばらく大変になるだろうが手伝って欲しい」


「私たちは夫婦なのですから手伝うのは当然です」


「ありがとう。君と結婚できてよかった」


「私もです、あなた」


 しばらく、いちゃついていたが扉をノックする音が聞こえて気を取り直す。


「すまない。仕事のようだ」


「ええ。わかりました」


 オリビアが退室して、入れ替わるように部下が入室する。


「報告があります!」


「聞こう。なにかね?」


「国王陛下より至急王城に顔を出すようにと……」


「情報が出回るのは早いか。まあ、レオルドが仕出かしたことを考えれば当然か」


「べ、ベルーガ様……」


「大至急、王城に連絡せよ! 急ぎ、陛下にお目通りする!」


「はっ!」


 敬礼をした部下が出て行くと、ベルーガは背もたれに体重を預けて天井を仰ぐ。


「ふう。次から次へと……クラリス嬢へのお詫びに伯爵家への謝罪。ジークフリート君にもお礼をしなければな。そして、今回仕出かしたレオルドへの罰。問題が山積みだな」


 思わず愚痴を零してしまうが、今は誰もいない。仮にいたとしても公爵家の当主を面と向かって叱れるのは片手で数えるくらいしかいないだろう。


 ベルーガはレオルドの尻を拭く為、書類を纏めるのであった。

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