第二十二話 学校と毒キノコ
二十分くらい経っただろうか。 部屋を簡単に片づけていると2人が帰ってきた。
「只今帰りました」
「あれ、部屋が片付いている」
「2人とも、ひどいよ。 僕を蚊帳の外にしてどこ行ってたんだよ。 挙句の果てに片付けまで押し付けておいて……」
「蚊帳の外というより、渦中って感じだったけれどね」
「べつに部屋を片付けておいてって頼んだわけじゃないですもんね」
ねー、と顔を合わせる2人。 謎の団結力を感じる……。 何言っているかよくわからないけれど、2人して僕を標的にしているような感じ。 さっきまで言い争っていた仲なのに……昨日の敵は今日の友というやつだろうか。 にしても、早すぎだろ!
「2人して何を話していたんだよ」
「それは……」 「えっとですね……」
果たして二人の回答は、
『「秘密」です』
▽
「さっきは泣いていたみたいだけれど、大丈夫だった? 」
残りの片づけを終えて、キッチン貸して、と琴乃。 どうやら晩御飯をつくってくれるそうだ。 マジでおいしいからありがたいことこの上なし。 母上もさぞ喜びになるだろう。
さっきの雰囲気とは打って変わって、穏やかな時間が過ぎる。 ラタスと僕はテーブルに座り、特に話すこともないので琴乃に話題を振った次第である。
開口一番、琴乃の口からはあきれられた声がこぼれる。
「はぁ。 ほんっとにわかってたけど、分かってない、ヤベは。 誰のせいだと……」
「え、僕なの!? 」
僕何かしたっけ?
「もういいわ。 しーらない」
規則正しい包丁の音が止まったかと思えば、ボトボトっと鍋に何かを大量に入れる琴乃。 ……ム? この匂いは!?
「何をお入れに!? 」
「どうやらシイタケを入れているみたいですね。 しかも結構多めに」
琴乃め、僕がシイタケを嫌いなことを知っておいて晩御飯に大量に入れやがった!
「何てことしてくれるんだ、琴乃! 」
「あら、愛たっぷりの私の作ったカレーを食べられないと? 」
「愛に〝く〟が足りないんじゃないのか!? 」
「あいにくだけど、〝悪意〟なんて入れてるわけないじゃない」
「あ、悪魔め……。 食べ物の恨みはこわいんだぞ! 」
「ちょっとキヤベさん! ボクの正体ばらさないでくださいよ! 」
「違うわ! ラタスのことをいってるわけじゃねえ! 」
もう、しっちゃかめっちゃかだった。
▽
「で? ラタスは学校、どうするの? 〝設定〟としては、とーおい海外から来たって聞いたけれど? 」
「え、そうなの? 」
あ、しまった! 忘れていて素の反応をしてしまった……。
「設定じゃないです! 本当ですよ! 」
「……ヤベの反応をみるかぎり、そうでもなさそうなんだけれど。 まあいいわ。 話が進まないからそういうことで。 で? 学校は? 」
確かに、どうしようか。 ラタスの年齢(詳しい年齢は知らないが……悪魔とかだから200歳とか? )は、まあ16,7歳といったところだろうか。 見た目だけれど。 兎に角、それくらいの年の子は大体、高校に行く。 ただでさえ、容姿端麗で悪魔なラタスはこの世界で目立つわけにはいかない。 そういう意味も込めて。
「行った方がいいだろうね」
僕はそう答えた。 すると琴乃が、
「どうして行った方がいいのかしら? 」
と、間髪入れずに質問を押し付けてきた。 いや怖い怖い!!
「取り敢えず琴乃さん、その右手に持っている包丁を下ろしてくださいませんでしょうか……っていうか、なんでそんな噛みついてくるんだ? 別にいいじゃないか、学校くらい」
「そんなにラタスと一緒に学校に行きたいならいいわよ、別に! 私なんておいて二人で仲良く行ったらいいじゃない……」
うぅ……と、泣き出す琴乃。
「ちょ、な、なんで泣くんだよ。 ラタスと僕が一緒に学校に行くってことが確定しているのはおかしい……って泣きまねしながらしめじを入れるのやめてもらえませんか!? 」
うつむきながら切っていたのは僕の嫌いな、しめじだった。 また毒キノコを入れようとしていたのか、こいつ!
「ちっ、バレたか」
「キノコ類全般ダメなんですね、キヤベさん」
下手に出ればすぐこれだからな……侮れない。
「取り敢えず、学校についてですがもう少し検討してみます。 正直、どのようなところなのかよく知りませんから」
「そうよね。 とおーい海外から来たラタスさんは、日本の学校についてはまだよく知らないわよね」
「そ、そうなんですよ」
わざとらしく〝とおーい〟という琴乃と設定にめげないラタス。 正直あの偉大な悪魔がこんな一平民に馬鹿にされている姿は見ていられなかった。 どっちが悪魔なのやら。
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