第二十話 春風と見る目
▽▽▽
「な、何するのよ! 放してよ! 」
私はラタスさんと言う今日あったばかりの人から無理やり手を引っ張られている……。
何なんだ、この人は。 急に私たちの前に現れたかと思ったらヤベのことを好きになる予定とかわけのわからないことを言って、挙句の果てにこういう状況になっているなんて……。 正直怖い。
なぜだろうか。 顔が整い過ぎてて、美しすぎて怖い。 何故かまとっている雰囲気が人間じゃない感じで怖い。
結局連れていかれた先は玄関を出てすぐのところだった。 周りの人の心配……は不幸なのか幸なのか分からないが必要ない。 ここ三階は全ての部屋がヤベの家だから。
彼女は、ラタスさんは何を語るのだろうか。
「ごめんなさい。 強引に手を引っ張ったりして。 少し気になったことがあって」
「……何? 」
「あなた……琴乃さん。 さっき泣いていましたよね? 」
「え……」
な、泣いていた……? 私が? 慌ててスマホのカメラ機能で自分の顔を確認する。
……本当だ。 少し目が赤くなっている……。
「気づいてらっしゃらなかったんですね」
「それが何だっていうのよ……」
「キヤベさんは琴乃さんのことを男女の関係に敏感な人だとおっしゃっていました。 最初、あなたの反応を見るにその通りだと感じていましたけれど……」
……そうなのか。 ヤベから私はそういう風に見られていたのか。 わかっていたけれど……
「わかっていませんよね。 キヤベさん」
ドキッとした。 思っていたことを、先に言われた。 偶然……だと思うけれど。
「わかっていないって……。 じゃあ、ラタスさんはわかっているとでもいうの? 」
「ええ、憶測ですが……あなた」
急に生暖かい春の風がマンションの外廊下に吹き抜ける。 私のポニーテールと共にラタスさんの闇のようなショートカットの髪が揺れる。 春の風と聞けば聞こえはいいが、そういうものではない。 果たして彼女から発せられた言葉は、
「キヤベさんのこと、好きですよね」
「……っ!! そ、そんなわけないじゃない!! 」
な、何を急に言ってくるのだこの人は!! まさか……いや、そんなはずはない! 私は今まで誰にも……。
「へぇー。 あくまでも、誤魔化すつもりですか。 では、ここで証拠を提示していきましょう! 」
なんか、とっても楽しそう……。 すごいうきうきしているし。
「まず、さっきも言った通り、キヤベさん曰くあなたは男女の関係に敏感だそうですね。 ふむう。 それに関しては、まあ取り敢えずそういうことにしておきましょう」
「うぅ……」
「次に、先ほどボクがキヤベさんのことを好きになる予定だと言った時……あなた、泣いていましたよね? 」
「うぅっ……! 」
「最後に! あなたは棒のようなものを持っている!! 」
「ううっ! ……ん? 」
最後のは関係ないのでは?
「つまりあなたはキヤベさんのことが好きで、それに気づかない鈍っ感なキヤベさんに感情がこみあげて泣いてしまった……。 男女の関係に敏感なのはキヤベさんに限って、ということですよね! 」
すっごいドヤ顔でこっちを見てくる……!
ぐわぁ、恥ずかしい……。 今まで誰にも気づかれたことがなかったのに、こんな今日あったばかりの人に気づかれるなんて……。 穴があったら入りたい……!
「まあ、この感じですときっと他の人にも気づかれているとは思いますけれどね」
「嘘ッ!? 」
「ええ。 だって初対面のボクでもわかったことですよ。 あなたの友達なんかはきっと気づいていると思いますよ」
多分本人だけですね。 気づいていないのは。 とラタスさん。
う、嘘だぁ。 だって、いつも一緒にいるセンにも何も言われていないし……。 何故かヤベと一緒にいるとき、頑張りなさいよ、と言ってくることはあるけれど。 どうしてだろうか。
「はぁ。 もうラタスさんに何を言っても無駄のようね……。 ええ、そう。 私は……」
言葉が詰まる。 でもこの人は、同機はよくわからないけれどヤベを好きになろうとしている人。 ここではっきり言っておかないと。
「私は、ヤベが……好き」
私は何を言っているのだろう。 あって一時間程度の相手にこうしてペラペラと自分のことを話してしまう……。 まるで何かの魔法にかかっているようだ……。 このままやられっぱなしではいられない。
「そういうあなたは、ヤベを好きになる予定ってどういうことよ」
こんなふざけた考えを持っている人なんかに絶対負けない。 一体どんな文句が出てくるのか。
「ボクは恋について知りたいのです」
嫌味なのか? こんなにきれいな人に男が寄り付かないわけないじゃないか!
とはならなかった。 そう言っている彼女の表情は……そういう遊びとか、そんな安いものではなかった。 これにまるで……命を懸けているかのような、そんな感じ。
「恋について……。 それでヤベを選んだというわけ? 」
「ええ、そういうことになります。 ダメですか? 」
普通の人だったら、きっとこの竹刀の成れの果て棒で制裁していただろう。 ヤベのことを好きになる予定とか言っている奴に、ヤベは渡さない、と。 そんな生半可な気持ちで近寄ってほしくない、と。 でも、彼女からはそんな風には見ることができない。 見て取ることができなかった。 だから。
「見る目、あるじゃない」
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