第十九話 聞き間違いと涙


 「ラタスさん、私の聞き間違いじゃなければ、あなた今ヤベのことを好きだ、そう言ったの? 」




 ぐわっ、っと目を見開く琴乃。 まずい、これは非常にまずい……!




 「(キヤベさん、キヤベさん!! ボク今何かまずいこと言いましたかね!? 心なしか、琴乃さんの機嫌が悪くなった感じがしたんですが……)」




 「(こうして話し合いができている以上、まだ心はあるようだけれど……とにかく非常にまずいぞ! さっき男女の関係について琴乃は敏感だとそう言ったじゃないか!! )」




 「(男女の関係、ってコイバナ的なこともダメなんですか!? )」




 「(何故かはわからないけれど、そうみたいなんだ……!! とにかく、きちんと答えてやってくれ!! )」




 「(わかりました! )」




 ラタスよ、頼むぞ……。 お前の答え次第では人生が終わってしまうかもしれないんだからな……。 ここで下手に僕が助け船を出そうとすれば、きっと琴乃は助け船ごと海に沈めかねない。 迂闊に手を出せない。 手を出してくるのは、琴乃の方だ。 




 「琴乃さん、今のは聞き間違いですよ」




 ……大丈夫か? その受け答え。 結構挑戦的な感じだが……。




 「あら、そうだったかしら。 ごめんなさい、もう一度言ってもらえる? 」




 「ボクはキヤベさんのことが好きだと言ったのではなくて、好きになる予定だと言ったんです」




 なにを認めるようなことを言っとるんじゃぁぁぁ!!


 当のラタスは、どうですか! きちんと答えたでしょう! とでも言いたげないい表情をこっちに向けてきた。 きちんとって間違いを正せっていうことじゃない……!!




 「どっちにしろ……」




 と、プルプルと震えている琴乃。 ああ、もうだめだ……。 お父さん、お母さん、福。 今までありが




 「変わらないでしょう!! 」




 おっしゃる通りですー-!!


 バシン!! とテーブルを竹刀の成れの果て棒で叩く琴乃にもう心はなかった。 




 「私はそんなこと認めない。 これから好きになる予定ですって!? そ、そんなあやふやな関係、認めないっ!! 」




 「ギャーッ! ご、ごめんなさい! ボク、何か悪いこと言いましたか!? 」




 慌てて後ずさる僕とラタス。 2人してしりもちをついた状態だった。 


 ブン! と振り下ろされて竹刀の成れの果て棒は僕の目と鼻の先にあった。 




 「大体ヤベ、ラタスさんとは親戚って言っていたよね?? 」




 「は、はい……それが何か……」




 「ヤベ、朝の電車ではラタスさんとは初めて会ったようなこと言ってたじゃない!! 設定ががばがばなのよ!! 」




 やってしまったー-!! 嘘をつくことはよくないことだと改めて身に染みた今日この頃ぉ! 過去の自分から託された現状は最悪だった……。 恨むぞ、過去の僕……!




 「あなたたち、私に隠していることがあるでしょ。 はきなさい! 」




 ぎゃー!! ころされ……あれ。 


 どうしてだろうか。 目と鼻の先にある例の棒がプルプルと震えている。 恐る恐る琴乃へと目を移すと……。




 「なんで、隠し事しているの……。 話してよ……」




 と、涙目になっていた。 


 な、ど、どうしてだ? 泣きたいのは僕の方なのに……。




 「(な、なあ、ラタス。 琴乃が……)」




 言いかけた言葉は、ラタスには伝わらなかった。 なぜなら、さっきまで隣で一緒に琴乃からの圧によってしりもちをついていた状態のラタスが立ち上がっていたからだ。




 「な、なに? 急に立ち上がったりして……ってうわ、ちょっと」




 「キヤベさん、すこし待っていてください」




 起こった状況はというと、急にラタスが立ち上がったかと思ったら真面目な顔をして琴乃の手を取り、多少強引に部屋の外へ引っ張っていった。


 


 かくして、嵐は部屋を荒らすだけ荒らして去っていったわけだが。


 僕、ひとり蚊帳の外というわけだ。 一体、2人とも急に涙目になったかと思えば、真面目な顔をしたりして……どうしたというのだろうか。


 


 まさか、ひとりで部屋をかたずけておけってこと!? ヒドイ……。

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