第十八話 秘密と迂闊

 「それで、こちらの女性とキヤベさんの関係は……? 」




 「……そうね。 コッチから一方的に聞く形になったから私からも自己紹介をしないといけないわよね。 私は己々共 琴乃。 ヤベとは小学校のころからの付き合いで、今に至るわけ」




 ヤベの親戚……ってことにしておくわ。 よろしく。 と、ラタスと握手を交わす琴乃。




 「そういえば、琴乃はどうして僕の家に来たの? なんか用事あった? 」




 「ああ、えーっと。 まあ用事……ってほどでもないけれど。 朝電車で会った時、ラタスさんの話をしていたでしょ? その出来事について聞きに行こうと思って」




 「……なんで琴乃はいつも男女の関係にそう敏感なんだ? 」




 「そ、それ、は……。 そ、そう、女の子との関係に経験が薄いラタスが騙されないようにと……」




 急にもじもじとしだす琴乃。 大体いつもこの質問をするとこんな反応を見せる。 どういう意味だろうか……。 かと思ったら一変。




 「……そう思ったら、案の定、良くない状況になっていたわけだからね。 ……私が来なかったらいったいどうなっていたことか」




 ぎろりと目を剝く琴乃。 怖い怖い!




 『「すみません……」』




 チョコン、と小さくなる僕とラタス。




 「あと、もうひとつ理由はあるんだけれど……」




 琴乃はさっきとは違う意味でもじもじとしだす。 この反応については……どういう意味かは分かる。




 「ああ、いつものってことでいい? 」




 「うん……いつもごめんね」




 ノープロブレム、と僕は答える。




 「いつもの……というのは? 」




 当然、ぼかしている部分に疑問を持つラタス。 僕は琴乃に視線をおくる。 あんまり人にべらべらというような内容ではないからな。 話すかどうかは本人が決めることだ。 果たして琴乃は、




 「……言わないで」




 と、首を横に振りながらそう答えた。


 琴乃の反応にラタスは、




 「わかりました。 無理には聞きません。 誰にだって言えない秘密のひとつやふたつ、ありますしね。 」




 と、あっさりと引き返した。 まあ、ラタスにも自分自身が悪魔だってこと、言えないしな。




 「ありがと。 ……今回の2人の出来事を無視するってことでチャラにしといて」




 「ぐうっ……。 も、もちろんです」




 嫌味っぽく言った琴乃に対し、ぐうの音で反応するラタス。 それを引き合いに出されると弱い……。




 ▽




 「それはそうと、ずっと気になっていたんですが」




 お菓子とお茶を用意して再度お喋り会を始めようとしたとき。 開始のゴングはラタスの質問からだった。




 「お2人はお付き合いをされているのですか? 」




 「ばっ! な、ま、な、ななな何を言っているのよ、ラタスさん!? 」




 これまでに無いくらいの慌てようの琴乃。 勢いあまって席から立ちあがっちゃってるし。

 全く、某大河といい、なんでそうすぐにくっつかされるようなことをするのだろうか。 琴乃は突然の質問に対し、というかさっきの質問の時もそうだが男女間の話題に対し正常通りの運転は難しいので僕が対処してやるか。




 「全く、ラタスも大河も……そんなんじゃないって。 男一人と女ひとり、一緒にいるだけでそういう関係だって見るのはめいわイッテ!! な、なにすんだよ琴乃! 」




 琴乃が急に竹刀の成れの果て棒で僕を叩いてきた!! 何か癇に障るようなこと言ったか?




 「ヤベは黙ってて。 でもまあ、そんな関係じゃないっていうのは本当よ、ラタスさん」




 人を攻撃すると冷静になるって……どんな性格だよ!!


 とにもかくにも、ラタスの誤解、というか質問には答えられたわけだ。 しかし、この話題はこれだけでは終わらなかった。 それはラタスの質問の回答を聞いた時の反応から始まる……。 これはガチで。




 「そーなんですね! いやー、良かったー」




 「……良かった、とはどういう意味かしら、ラタスさん? 」




 お菓子を口へ運ぶ手を止める琴乃。 あれ、この流れまずいので




 「いやだって、ボクはキヤベさんのこと、好きになる予定なので」




 ……遅かったぁー---!! 迂闊―――――ッッ!!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る