第十五話 10023条と料理
▽
「申し訳ございません。 実はボク、かわいいものには目がなくて……」
「いや、かわいいものというかラタス、お前の場合はなんていうか知っているか? 」
「はい! ロリコンです! 」
「なんでも正直に話せばいいってわけじゃないぞ! 」
めっちゃ目輝いてる。 なんてことを堂々と言いやがるんだ……本人の前で。 あっさり認めちゃったし。 もう少し渋れよ!
「お、お兄ちゃん。 この犯罪者はいったい誰なの? 」
ラタスによる犯罪行為(抱き着き行為)によって福は最大限の危険信号を出していた。 ぎゅっと僕の足を掴んで後ろに隠れている。 そんな行為さへもラタスには好意なようで、
「な、なんですかあの生き物は……。 つ、捕まえたいですね」
はぁ、はぁ、と息を荒げていた。 拉致しようとしている……ほんとに犯罪じゃねえか。 まあでも、悪魔だし犯罪者と言っても差し支えはないのかもしれない。
「大丈夫だ福。 あいつはお前のお花パンチかなんかでイチコロだからね」
「お花パンチじゃなくてフラワー殴り! ちゃんと覚えてっていっつもいってるでしょ! 」
いや、まだお花パンチのほうが可愛くないか? 子供に見せてもいいアニメなのだろうか……。
「取り敢えず何でもいいからあの敵を倒してこい」
「もう! 次はちゃんと覚えてよね……。 ふぅ」
と、福は一呼吸。 どうやら頭の中お花畑のラタスにお花パンチが炸裂するらしい。
「フラワー王国10023条、プリンセスの敵は全員処刑にのっとって、お前を裁く! くらえ、フラワー殴り! 」
攻撃の際、必ず呪文詠唱のようにフラワー王国とやらの憲法にのっとるらしいが、いまだに慣れない。 10023条って。 何条あるんだよ!! 子供向けアニメのはずなのに……。 逆に興味が湧くぜ。
果たして、犯罪者もといラタスにはポカっとお腹あたりにパンチが繰り出されるという制裁が下った。
「尊死ッ! 」
と、スタントマン顔負けの吹っ飛び。 普通に殴られてもあんなには飛んでいかないだろう。
▽
福とラタスが一緒にいると話が進まないぜ……。
距離をとるため、福にはキッチンで準備中だったらしいお昼ご飯の続きを作ってもらうことにした。
僕とラタスはテーブルのある部屋で席についていた。
「おい、もう少しちゃんとしろ、ラタス」
「はい、申し訳ございません。 今度はちゃんと飛距離もつけて飛びます」
「そこじゃないよ」
「ああ、分かりました、福ちゃんじゃなくて福様って呼ぶことですね」
「そこでもないよ!? 」
分かりましたって言った後に続く言葉だとは考えにくい。
悪魔には純粋無垢な攻撃が一番効くんですよ、とわけのわからない設定を言い訳にするラタス。
本当に大丈夫だろうか。 よし、今後の福の教育のためにもあまり近づけないようにしよう。
「取り敢えず、ラタスが今後僕たちの家に住んでいいかどうかは僕の母さん次第だ。 家族の中で一番偉いのは母さんだからね。 僕たちの家ではたったひとつ。 第零条、母の言うことが絶対」
「それは独裁なのでは……? 」
国民の意思が反映されていないですね、とラタス。
「だからラタスには母さんを説得できるような材料がないといけないわけだけれど、大丈夫? 」
「ええ、大丈夫です。 その辺はうまくやります。 大問題です」
「
本当の本当に大丈夫だろうか……。 ま、でもうちの母さんは大抵のことは認めてくれるからな。 問題無いだろう。 多分。 きっと。 おそらく。 maybe。
「料理ができたわよー。 運ぶの手伝って」
キッチンの方から福の声がした。 さて、取りに行きますか。 そう思って立ち上がろうとしたとき、
「きゃー!! 」
という福の叫び声が聞こえてきた。 いったい何事だ? ほんの数秒前は無事な声が聞こえていたというのに。
足音が聞こえてくる……。 誰だ? 福……の足音ではない……。
果たして、僕の前に現れたのは料理を持った少し涙ぐんでいる福……を持った満面の笑みのラタスだった。
福の声が聞こえるや否や、多分瞬間移動でもしたんだろう。 なんて犯罪じみた行動力だ。 お巡りさん、ここに変態がいます。
「福じゃなくて料理をもってこいよ。 二度手間じゃないか」
「いえいえ、料理も持ってこれるし、福ちゃんを抱っこできるしで一石二鳥ですよ」
「わ、私は料理じゃないよ……」
「食べちゃいたいですけどね……ぐふふ」
「意味、違うだろ。 おーい、お巡りさん」
いや、でも悪魔なら人を物理的に食べることもあるのだろうか。 もしそうなら福は非常に危ない状況になるわけだが……。
「福ちゃん、かわいいですねぇー……」
「お、お兄ちゃん、助けてぇー……」
いや、あの犯罪者もとい悪魔に限ってはないな。 すりすりと福の頬に頬を擦り付けるラタス。 そろそろ助けてやらないと福のトラウマになりかねないからな。 おなかもすいたし。
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