第十四話 3階とプリンセス
▽
しばらくお互いに黙って歩いていた。 目指すは僕の家。
その間、僕はラタスのことについて考える。
やったあ! こんな美少女とひとつ屋根の下で暮らせるなんて! 夢にも思っていなかったぜ!
なんてのんきなことも勿論健全な高校生男子なので考えてはいるが、もうひとつ。
あの時折見せる絶望の顔。
僕にとっては普通の返答がラタスにとってはとても重く、苦しいものになっていることには違いない。
なにが彼女をそこまで追い詰めるのだろうか。 ラタスが両親の話をしているときに見せる、楽しそうで、どこか悲しそうに見せる表情。 あれに関係あるのだろうか。 うーむ。
おっと、そうこう考えているともう家に着いたようだ。
「本当に大きなマンションですねー。 家は何階でしたっけ? 」
のーん、と首を伸ばして上を見上げるラタス。 なんだ、そののーんって表現は。
「3階だよ」
オートロック式のエントランスでカードを使って中へ入る。
するとラタスは食い入るようにカードと、それに反応した自動ドアを見る。
「なんですか、そのカードは!? この扉が自動で開きましたけれど……。 まさかあなたも魔法が使えるのですか」
「いや、使えないけど。 そっちの世界では自動ドア、なかったのか? 」
「じ、児童ドア……。 まさかこの二ホンという国は子供を奴隷にしてドアの開け閉めをさせているのですか……。 なんと非道な」
「なんだその奇跡的な漢字変換と解釈は。 そんなわけないだろう? 児童じゃなくて自動な」
しかし、まさかこのお約束のひとつである違う世界線から来た者による名物、自動にビックリがみれるとは。 漫画ではやっぱりテレビが鉄板だよな。 「は、箱の中に人がっ……! 」 的な。
そういえばラタスが朝テレビを見たとき、特に驚いていなかったな。
「あっちの世界ではテレビはあるのか? ほら、朝薄い板に人が映っていたものがあっただろう? あんな感じのやつ」
「はい、ありましたよ。 魔法で人を小さくして箱の中で劇をするんです。 とてもおもしろいですよ」
「は、箱の中に人がっ……! 」
まさか、僕がこれを言う羽目になるとは。 流石魔法といったところ。
とかいう会話をしているとエレベーターは3階に到着していた。
ラタスの「巨大な男がこの箱をもってスクワットをしているんですね……」という自動にビックリは置いといて。 ってかどんな発想をしたらそうなるんだよ。 せめて魔法をからめたビックリの仕方にしろよ。
エレベーターを出、僕たちは玄関の前に立つ。
「あれ、ここでしたっけ? もうひとつ隣の玄関では? 」
朝はコッチでしたよね? とラタスは右隣の玄関を指さす。
「ああ、そうだよ。 でも僕の部屋はここだからね」
「え、いや、部屋というよりそれだと家になるのでは? 」
「何をいっているんだ? 僕の家は3階だと言っただろう? そっちは寝室」
全く、人の話はちゃんと聞いてもらいたいものだ。
「3階ってそういう意味だったんですね……」
絶対ボクは少数派じゃない、というラタス。 どういう勘違いをしていたのやら。
「ちょっと荷物を置いてくるから、玄関でまってて」
「どこかへ出かけるんですか? 」
「いや、リビングの部屋に向かうからね。 そこに大体の食べ物があるから。 じゃ」
「リビングの部屋というより、家では……」
▽
リビングの部屋に行くと鍵はすでに開いていた。 僕たちより早く帰宅していた福がいたのだ。
「おかえりお兄ちゃん……と、ラタスさんも一緒なんですね」
「ああ、うん、ラタスも一緒」
「福ちゃん! ただいまですぅー」
福の姿を確認するや否や、ラタスは福に飛びついた。
「キャーっ!! な、何するんですか! 抱き着かないでください! 泣かしますよ! 」
「かわいいーですぅ! というかもう泣いていますぅ! 」
このお団子頭が最高ゥ……。 とラタスは尚、福への抱き着き行為は止まらない。
グワーッ! と、しびれをきらした福は
「く、くらえ! プリンセスアッパー! 」
と、福の大好き、プリンセスフラワーというアニメの中で出てくる攻撃のひとつを繰り出した。 作品の中でもただのアッパーなのだが、技の名前にプリンセスをつけることによって中和されているようだ。 ……できてんのか、これ?
「尊死っっ! 」
と悪魔はどうやら力尽きたようだ。 へにゃっと床に崩れるラタス。
あれ、ラタスってこんなキャラだっけ。
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