第十三話 帰路Ⅱ

 


 「ラタスはその、僕のことを惚れさせるためにこの世界に来たって言ったよね」




 「はい、そうですよ。 まあ、厳密にいうと恋を知るためですけれど」




 「ああ、そうか。 確かそういってたね。 ……どうしてって理由聞いてもいい? 」




 とても気になっていたことのひとつを聞いた。 正直、恋を知るためだけに、この世界に飛んできたという話も怪しいが、仮にそうだとして。 ちゃんとした理由があるのなら言ってほしい。 それがあると、世界線を飛ぶという大仰を納得できるからね。




 「んー、そうですね……。 まあ、これは言ってもいいでしょう」




 と、ラタスは少し話すことを渋ったようだが、最終的には話してくれた。 




 「ボクのお父様とお母様は種族が違うんです。 それも二つの種族とも相容れない関係だったのです。 でもそれは種族間の話でして、お2人の個々の間は違いました。 お2人は種族とか関係なしに、いち生物として見ていらっしゃったのですね。 結婚するってなった時はもちろん周りの反対はあったみたいですけれど、それを押し切ってでも結婚したかったそうなんです」




 そんな話をしてくれているラタスの顔は、本当に楽しそうに語っていた。 僕は黙ってその話の続きを聞く。




 「ボクもお2人の種族の歴史は知っているので、常識で考えたらあり得ないことだと思います。 けれど、お2人は……恋をしてしまったのです。 たったひとつの感情。 この小さな感情は一万年という大きな歴史をも乗り越えることができるんだそうです。 お母様からよくその話を聞かされていました。 それはとても素晴らしいことだと思いませんか? ボクはそんな神秘的な感情、恋をするというものを是非経験したいと願ったのです」




 これが理由です、とラタスはひと呼吸間を置いていった。


 なるほど。 恋をすることがラタスにとって一種の憧れ、願いになっているのか。 ひとつの理由でひとつの疑問が晴れたということだ。 続けて質問をする。




 「そのー、ラタスの父さんと母さんの種族って何なんだ? 」




 ラタスの話の中で出てきたラタスの両親の種族の話。 流れ的に2人の種族はそれぞれ違っている、ということだが。 一万年という長い歴史の中で相容れないふたつ。 いったい……。




 「言ってもビックリしないでくださいよ」




 おっと、そう来たか。 全く、びっくりだなんて。




 「何を今さらって感じだよ。 未来とか過去がみれるとか、別世界の存在とか、これ以上の驚きポイントなんてないだろ。 僕はこの経験のせいで今後の人生における大抵のビックリは無くなったといってもいいね」




 これからの僕へのサプライズによって生まれたはずの驚きを返してほしいくらいだよ。




 「はあ、そうですか。 まあいいです、言います」




 あれ、軽いノリが流されてしまった。 びっくりした。


 そんな僕を置いて、ラタスは2人の種族の正体を明かす。




 「……ボクのお母様は天使族で、お父様は……悪魔族です」




 驚きすぎて声が出なかった。 


 ほんとに相容れない二者じゃないか!! 天使と悪魔って……。 


 僕でもよく知っているぞ……。 正直、こんな分かりやすいものが来るとは思っていなかったな……。 世界線が違うのだから、僕の世界線には存在しないものが来ると思っていた……。


 ああでも、そうか。 


 ラタス自身は悪魔だと名乗っていたから一方は悪魔族でないといけないのか。




 「アレ、でもラタスって悪魔族なんじゃないのか? もしかして天使族も入っているの? 」




 「いえ、入っていません。 ボクの種族の定義としては悪魔族になりますが、普通の悪魔族よりその性質が弱いですね。 一応天使の血も流れているので」




 というか、めっちゃびっくりしてたじゃないですか、とつっこむラタス。 


 ちゃんと僕のノリ聞いててくれたんだ。 嬉しい。


 それは置いといて。




 少し気になっていたことがある。 話の内容は少しどころじゃないが、そうじゃなくてラタスの話す態度についてだ。


 何故かラタスの両親の話をしているとき、とても楽しそうだけれど……どこか悲しい表情に見える。 ホームシック……とはまた違う感じ。 もっと深い、海の底のように未知の感じが漂っている。


 そんな表情を見せられると話を続けずらいな……。 ええっと。




 「その、ラタスは……家出なの? それともちゃんと許可を取っているの? 」




 話す内容が見つからなかったので僕はどうにか続けようと試みた。 思い付きだけれど、よくよく考えれば結構気になる内容。




 「ええ……。 ちゃんと許可を取っていますよ。 心からの、願いでしたよ」




 ラタスはさっきの反応よりもさらに深い感情に浸っているように見えた。 あれ、明るくしようとしたのに逆効果だったか……。


 果たして、会話はそこで途絶えてしまった。 学校では常に周りの都会人エネミー達からの攻撃に備えている僕は、他人との会話に慣れていない。 こんなところでコミュ力が必要になるとは……。 もっと寛容にならなければならないのか。

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