第十二話 帰路
▽
果たして、僕はラタスと共に再度帰路に着くことになった。
一緒に住まわせてくださいという彼女の希望がかなったせいか、やけに上機嫌に前を歩くラタス。 スキップしながら鼻歌まで歌っている……。 どれほどうれしかったのだろうか。
ああ、でも。 たった一人で見知らぬ土地にたどり着いた先に自分の帰る家が見つかるということ。 それはとてもうれしくて安心できる出来事なのかもしれない。 今、彼女はどんな心情なのだろうか。 僕を惚れさせると、恋を知りたいと言っていた彼女はそれだけのためにこの世界に飛んできたということになる。
そうこう考えていると、ラタスは振り返って尋ねてきた。
「そういえば、キヤベさんの家庭ってどんな構成なのですか」
「キヤベで良いよ。 僕と妹の福、母さんとそして父さんの四人家族」
「福ちゃん!! かわいらしい方でしたね~。 おいくつですか? 」
「今年で小6になるね」
「小6……? 6歳ですか? 」
首を傾げるラタス。 伝わらないのか……ってああ、そうか。 ラタスの居た世界では小6という表現はないのか。 同じこの世界においても国ごとで違うって聞くし……。 今後は気を付けて話さないと。
「11歳。 今年で12になるよ」
「最高じゃないですか!! 」
と、歓喜の声を上げるラタス。 なんか変質者じみた反応だな……あんまり福には近づけさせないようにしないと。
「お母様もきれいな方でしたね~。 お仕事は何かされているのですか? 」
「うん、どっかの会社の事務員らしいけれど。 日中は出払っているから今は家にいないんじゃないかな」
何故か今日の朝はいたけれど。 そういえばどうしていたのだろうか。 いつもならあの時間帯いないはずだったのに……。 今日に限っていたということは……あれ。
そういえば、一回目の今日、つまり僕の記憶の中でラタスと初めて会った日は母さん朝いなかったよな……。 いつも通り僕と福が起きる前から仕事に行っていたはずだ。
でも二回目の今日の朝、母さんは家にいた。 それ以外の出来事は全て一回目の今日と一緒だったのに。 その点だけが違うのはなぜ?
「なあ、ラタス」
「はい、なんでしょうか」
「一回目の今日の朝、母さんいつも通り会社に出勤してたんだよね」
「はい、それがどうかされましたか? 」
「でも二回目の今日はいたじゃないか」
「はあ。 そうですね、お母様いらっしゃいましたね」
「二回目の今日、母さんが朝家にいたこと以外は全く同じ会話と出来事が起こっているんだ。 なぜ母さんだけ一回目と二回目とで違う行動をしているんだ? 」
今までピンと来ていなかった様子のラタスが、僕が最後まで言い終わると、なんだそんなことですか、と説明をしてくれた。 というか僕の勘違いを正してくれた。
「一回目の時、福ちゃんとボクについての会話、しましたか」
「いや、するわけないだろう。 ラタスと僕、出会ってもないんだから」
「はい、それが答えです」
え、いや、そんな、分かりましたか? っていう顔で見られても……。
悩んでいると、つまりこういうことです、と話してくれた。 初めからそうしてくれ。
「一回目の朝はボクという『ながれ』がなかったから、福ちゃんとの会話の中でボクは出てこなかった。 さらに言うと、お母様もいつも通りいなかった。 でも、二回目はボクという『ながれ』が生じたからキヤベや福ちゃん、お母様の『ながれ』が変わった、ただそれだけです」
「それだけですって言われても……。 っていうか、さっきから出てきていた『ながれ』ってなんだ? 」
「ああ、それはですね。 ボクの能力です」
「は? 能力? 」
「はい、能力です。 ボクは万物の『ながれ』を見ることができるんです」
急にあっちの世界っぽい話になってきたな。 能力、ながれ……。 中二病が発動しちまうぜ。
「ざっくりいうと、ある観測できる対象のすべてが見えるって感じです。 状態とか未来とか過去とか」
「フーン……って未来、過去!? 」
「はい、そうです」
さらっとすごいこと言ってるよこの人。 あらゆるものの未来とか過去が見えるってチートじゃないか。 まあでも、ここでは飲み込むしかないよな。 いや、口に含むだけで飲み込めないびっくり情報だけれど。
「そ、そんなこともできるのか……。 ということはそのながれが変わったから母さんもいたと」
「そんな難しく考えなくても、単にボクという存在がいたから周囲の行動が変わったと認識してもらえればいいかと」
随分と分かりやすくなったな。 最初からそういえよって思うけれど、まあこれは飲み込むとして。
バタフライエフェクトみたいなものか? ……この言葉、使ってみたかっただけです。 すいません。
「しかし、未来とか過去とかが見れるってすごいな。 僕のも見えるの? 」
「ええ、その気になれば見れますけれど普段はそんなことしません」
「えーなんで? 便利なのに」
「魔力を使いますし、それに……便利なものは不便だったものを奪うことと同じですからね」
「ん? それって当たり前のことじゃないの? というか便利の本来の目的がそれなんじゃないの」
「ふふ、キヤベには分からないでしょうね。 一生」
意味深長な笑みでこちらを見てくるラタス。 ラタスの言う通り、僕はその言葉の意味を理解できなかった。 琴乃あたりはわかってたけど、わかってないとか言ってくるんだろうなと思いながら僕は帰路でラタスとの会話を続ける。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます