第七話 二回目


 ▽




 「いやー、すみません。 朝ごはんご一緒にさせてもらって」




 一連の騒動の後、なんやかんやあって(誤解も解けて)僕、ラタス、福そしてこの時間帯にはいないはずの母とで朝ごはんを頂いていた。 


 最初、福の報告を受けた母さんはお玉(という名の凶器)を携えて鬼の形相で『オンナノコヲナカセタダト!? 』と飛んできた。 マジで怖かった……。 普段母さんは優しいのだが自分の子供が人様に迷惑をかけたときは女神から鬼へと転生する。 0か100しかないというわけだ。 というか、なんでいるの? ラタスも母上も。 




 「全然いいのよー。 はぁ……。 あのヤベちゃんが女の子を家に連れてくるなんて……。 もうあの頃の純粋無垢なヤベちゃんはいないのね」




 うるうると涙ぐむ母さん。 あれ、誤解解けてない? 




 「だからそんなんじゃないって……」




 とは言うものの、何を言っても聞かなそうなのでここで引いておくことにした。 これ以上は不毛、無意味というわけだ。




 「ああ、そういえば。 お兄ちゃん、新しいクラスは大丈夫なの? 」




 福がトーストを頬張りながら聞いてくる。

 ちゃんと口の中からにしてからしゃべりなさい、という母さんの注意を聞きながら、




 「うん、大丈夫だったよ。 今年も琴乃と大河、それに千里と一緒だった。 ふはは、これで敵は三人も減ったというわけだ……」




 と答えた。 福は、僕が田舎者だと馬鹿にされると恐れていることを知っている。 だから、こんな感じで気にかけてくれるのだ。 全く、よくできた妹だ。 兄の顔が見てみたい。

 しかし、福は、僕の最後のふざけが気に入らなかったのかいまいちの反応を見せる。




 「……何言っているの、お兄ちゃん? 夢の中の話をされても困るんだけれど」




 と、呆れたと言わんばかりの表情。 小6でこんな顔できるのか? ってくらい大人びていた。 しかし、夢の中と言われても困るんだけれど……。 現実だし。




 「ヤベちゃん、まだ田舎者は~とか言っているの? 大丈夫よ、もし馬鹿にされたら私がその子のところに訪問しに行くから」




 任せて! と調理器具でグッとする母さん。 拷問の間違いなのでは……? 実をいうと、田舎者だと馬鹿にされることも嫌だけれど、そうなることで被害を受ける人(母さんによって)が出てくるからいやだという理由もある。 この方は、本当にしかねないからな。 拷問しに訪問に。




 「ああ、そういえば福。 お前は新しいクラスどうだったんだ? 」




 特に話すこともなかったため、他愛のない話を振った。 しかし福は予想外の言葉を口にする。




 「何言ってるの? お兄ちゃん。 まだクラス分けしてるわけないでしょ? 」




 やれやれ、と首を振る福。 ん、まだしていないのか。 何か事情があったのだろうか。 始業式の日にすることと言えば、式典と、クラス分けぐらいじゃないか? 他に何をしたのだろう。




 「まだクラス分けしてなかったのか。 じゃあ、昨日の始業式は何をしたんだ? 」




 全く予想外の答えだったため、今度は気になったことを聞いた。 しかし福はさらに予想の斜め上の言葉を並べる。




 「だから、お兄ちゃん。 本当に夢の中の話をしないでくれる? 始業式は今日よ」




 「あら、まだ寝ぼけているの、ヤベちゃん。 ラタスちゃんと一緒に寝たからって舞い上がり過ぎよ」




 福に続いて母さんも僕をおかしなものとして捉える。 


 え。 2人とも、何を言っているんだ? 始業式が今日? それは昨日やったではないか……。




 「な、何を言っているんだ、2人とも。 始業式は、4月1日は昨日だよ? 」




 困惑しきっている僕を2人は本気で心配そうに見ている。 そして福が決定的な証拠の確認を僕に指示する。




 「ほら見てお兄ちゃん。 テレビ、4月1日でしょ? 」




 恐る恐る僕は後ろにあるテレビを確認する。


 いつものようにニュースを伝えるキャスターの映る画面の右上にはしっかりと4月1日と提示されていた。


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