第三話 二年目


 「……ん? あれ? ねぇ、ヤベ」


 「んー? なーに? 」


 唐突に何かに気づいたかのように琴乃は僕に話しかけてきた。 僕は窓の外の風景を見たまま反応する。


 「朝、誰かと会った? ……それも女の子の」


 ビクッとした。 琴乃はいつも鋭い……超能力者かなにかかよ! って思うくらい。 しかし……朝、朝か……。 『あなたの願いを叶えましょう』というあの時の少年の言葉と、忘れもしない出来事を琴乃の話で思い出す。 本当に何だったんだろうか。 あの謎の美少年。 確かに整った顔立ちをしていたが、女の子ではなかったよな。 


 「ああ、うん。 会ったよ。 でも、女の子ではなかったな」


 というか、性別まで当てに来てたのか……怖い。


 「……ふーん。 で、だれと会ったの? 」


 僕の言葉を半分信じていないような言葉と反応をし、さらに琴乃は質問を続ける。 ……なんだか尋問されているようなかんじだ。


 「そういえば名前聞いてなかったな……。 いや、なんかすっごい変な奴だった。 初対面の相手に『あなたの願いを叶えます』って開口一番聞いてくるんだよ」


 ちょっとあいつの声に似せた感じで言ってみる。 中性的な声だったため、少し高めに声を出したが、ふざけていると思われたのか琴乃は軽蔑の眼差しで僕を刺してきた……痛い痛い。


 「へー、何それ……。 新手の詐欺かなんかかな? 」


 「いや分かんないけど。 そういうのいいですって言ったらどっか行っちゃった」


 「気をつけなさいよ、最近そういうの多いんだから」


 「琴乃は僕の母親か。 わかってるよ」


 「どうだかね……分かってたけど、分かってないからなーヤベは」


 意味ありげな笑みをする琴乃。 すべてを見透かされているようでぞっとした……。


 ▽


 朝から変な奴と会ったり、琴乃からは尋問を受けたりと大分体力を削られた僕。 だがしかし、ここからが本番、本命の闘いなのだ。 いうなればここまではボスをお守りする部下たちからの足止め。 へばっているわけにはいかない……!


 高校の最寄り駅から降りて、琴乃と僕は他愛のない話をしながら学校の校門へと足を運んでいた。 桜咲いたら一年生という歌があったはずだが、大体の桜はこの時期になると散っているものだ。 足元に散らばる桜の花びらをうしろめたさを感じながら踏み進めていると前から、


 「おおー! おはよう! キャベー、コトー! 今日もお2人さんなのですなー」


 と何にも考えてなさそうな挨拶が飛んできた。


 「だから、キャベっていうなと何回も言っているだろう? それに琴乃とは全然、全く、そういうのじゃない……ってイッテ! な、何するんだよ、琴乃! 」


 いつの間にか琴乃の手には例の棒が持たれていた。 また理由の分からない攻撃を喰らってしまった。 今度のは普通に痛かったし!


 「べつにー。 おはよう、大河君」


 僕のことは軽く流して、角田井かくたい 大河たいがのあいさつに応える琴乃。 名前を呼ばれた大河は自身のアイデンティティである眼鏡を軽く押さえてはきはきとした言葉で言った。


 「おう! 二年もよろしくなー! それはそうとキャベは懲りないなー。 もういいだろ、キャベで! 」


 「それはこっちのセリフだ。 お前がやめてくれればそれでこの話は終わるんだからなー」


 「さぁーて、新しいクラスはどうなっているのかなっと」


 「無視するな!! 」


 僕の抗議は空しく、大河と琴乃と3人で校内へ足を運んだ。


 ▽


 「いやー、まさかまた一緒だとはなっはっは! 」


 「はぁ、またお前と一緒になるのか……」


 「なんだ、どうしたキャベ。 俺たち友達だろう? そう冷たい溜息をだすなよ」


 「その確認がいる時点で僕とお前との関係は終わりだ」


 「寂しいこと言うなよー。 第一、俺が何をすると思う? 」


 「なんで何かする前提の疑問なんだよ、確信犯だよな? またお前が僕のことをキャベって呼ぶことであだ名がキャベツになるだろ!? うう、田舎者だからキャベツなのか……」


 「いや、あんまりそれは関係ないと思うよ、ヤベ」


 「……とりあえず、敵は2人減ったというわけか」


 「また言ってる。 そんなこと思う人いないって。 まあ、よかったわね」


 2年3組に振り分けられた僕たちは教室に入って教室は違えど、いつものように話していた。 実はいつメンにはもうひとり足りないのだが。


 「そういえば、千里はどうだったんだろうな」


 大河が言った千里という人。 彼女がもうひとりのいつメンの財前ざいぜん 千里せんりだ。 ちょっとというかだいぶ癖のあるやつなのだが……。 と、噂をすれば。


 「あ、アンタたち! なんで私を置いていくのよ! 」


 勢いよく僕たちの輪に入ってきたのは千里だった。


 「おおー! 千里、おはようー! お前も一緒のクラスになったのか! いやー一緒でうれしいな」


 うんうん、と頷いている大河。


 「あ、おはよー大河。 うん、また……一緒だ」


 さっきの温度が急激に下がったかのようにチョコンとなる千里。 言いかけた言葉は琴乃によって強制終了させられた。


 「おはよー! セン~、また一緒でうれしい~。 かわいいな~」


 千里を見るや否や、琴乃は普段からは想像もつかないほどのだらけきった表情で千里の頭をなでなでと撫で回していた。 千里の背の低さもあって、光景は小さい子供をあやしているようだった。


 「ガーッッ! や、やめろ琴乃! だからいつも頭をなでるなと言っているだろーッ! 」


 対する千里は必死に抵抗を試みるが、相手は普段から剣道の稽古によって鍛えられている身。 そう簡単には逃げることはできないようだった。


 「いいじゃん別にー、どうせもう伸びないんだし」


 「聞き捨てならんぞその言葉! まだ、成長期なんだからな! 琴乃なんかすぐに抜いて」


 「あれ~? 私まだ身長なんて言ってないけれど~? 」


 「まだって言葉がもうすべてを語っているだろ! 」


 とまあ、こんな感じでいつメンで話しているのだ。 変わらない日常は、朝の出来事を除き止まることなく流れていくのだった。

 と、ナレーションっぽくしたら何か始まりそうだからそうしてみたけど、ないな。 うん。

 とにかく僕は今からはじまる戦場を勝ち抜いていかなければならない。 取り敢えず敵は3人減ったからな。 ……いや、2人か。 大河は敵だったな、そういえば。

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