第4話
そもそも真の美形って奴は、自分の美を経験で自覚していても、本質的には見慣れた顔面だから言うほど美形だと思っていない可能性はある。
自分の顔面の価値は分かっても、十二分に活かしきっていない筆頭が、自分の幼馴染だと真莉は思っていた。
まだ高校生になって一ヶ月そこらのクソガキなのに、完成されたような端正な顔は黙っていればノーブルな顔立で、涼やかな形の良い瞳に烟るような長いまつげ、苛立ちからシワを寄せた高い鼻まで美しい。
黙っていれば物憂げな王子様である。
黙っていれば。
フランスと日本のダブルである母親譲りの色素の薄い瞳や金茶のサラサラの髪は、指輪を捨てに行く大作映画の某耳長の一族の王子様めいてる。
ひたと、見据える瞳は深い海のように神秘的な輝きであり、心の中まで見透かしているかのようだ。
そう見えるだけだが。
「えーと、私約束してたっけ?よっちゃん」
「いい加減、人を酢漬けのイカみたいな名前で呼ぶな。カーチャンが今日は遅くなるから俺の家で夕飯食ってけだと」
中身は、普通の男子高校生だ。
なんて残念な男だろうか。物語のキーマンになりそうな美形なのに、本人はいまいちわかっていない。
嫌味な長い脚を放り出して、ふてぶてしい目付きでトークアプリの画面を見せる馴染に真莉はため息をついた。
画面で、自分の母親が幼馴染によろしくと立て札掲げたフクフクした丸いねこのスタンプを送っていた。
肩をガックリと落とした真莉に、幼馴染は形の良い鼻孔からフシューと鼻息を出してドヤッて見せた。
あんまりではないか。
王子様は鼻を膨らませてその穴から鼻息を荒々しく出さない。
先程まで自分を取囲み、キャンキャン言ってた量産型の少女達に見せてやりたい。そして、乙女の夢を踏みにじった事を謝ってほしいと真莉は理不尽な苛立ちを覚えた。
『ど~こが、静寂の貴公子よ!!』
真莉は記憶の中の少女達に心の中で叫んだ。
少女達は外見のみで、この男を認識してるのだろう。
ちなみに静寂とはしじま、物音もせず、静かな佇まいの意味で使っているらしい。
頭湧いてるとしか思えない。普通の男子高校生が物言わず、じっと佇んで居ることがあるだろうか。
「なんで、よっちゃんにうちのお母さんが連絡してんのよ」
「お前が、ボケボケしてるからだろが、ボケ大福」
もっと優しい言葉を掛けてほしい。こっちはお前のせいで時間取られて、わけわかんない言いがかりされたのに。
そうだ、生き様が弛んでるとまで言われたのだ。
『生き様が弛んでるって何なのよ』
「夕飯食ってけって、アンジェリカさんお仕事は?」
「あーうちのおふくろも居ないから、飯作ってくれ」
「それが、人に物を頼む態度か!」
思わず反射で叫んだ真莉、悪くない。
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