第3話
真莉は自覚のない面食いで、物心つく前から側にいた幼馴染の顔面に馴れすぎて美形に対する免疫力が高い。そのため美形へのハードルが高いのだが、女神ー梓澤涼華は顔貌のみならずスタイルからその表情迄もが真莉を打ちのめす美しさを感じさせた。
『は、初めてアイツに張り合う美形見た!』
真莉はひっそりと興奮していたが、はたと不自然な状況に気が付いた。
『柊木もそうだけど、梓澤さんも何でこんな人が居ないような場所に、こんな時間に来てるのかな。一人になりたいのなら放課後なんだし学校に残ってなくてもいいよね』
降臨した涼華ヘ、ガルガル唸りながら逃げ腰の小型犬のような反応を見せるカースト上位のはずの少女たちを意識の外に追いやって、ひとり考えに耽る真莉。マイペースすぎる。
『学校で、人気がない場所にわざわざ出てくる。ん~~』
この場所にある特別なもの?と周りを見渡すが、使われなくなった焼却炉以外に花壇も無ければ、オブジェがあるわけでもない。
焼却炉脇の雑木、手入れされてない地面…。
『何も無い』
何もなくて人も滅多にこないからこそ、放課後に‘’忠告‘’するために呼び出される舞台となったのだ。
「あ、そうか!よびだしね!」
ピンときた!と真莉はスチャッと右手をあげて梓澤を見る。
こちらを振り返る少女たちの後ろで、梓澤の肩がビクリと動き、その斜め後ろに立つ葵がコクンと頷いた。
「お誘い合わせの上で、お二人ともここに来たの?」
ムチっと小首をかしげる真莉を見て、意外と反応がよいセンターの少女が嘲笑った。
「ばっかじゃないの、こんな場所なんて制裁以外に来るわけないじゃない」
「えー、だって二人共美人さんだから、告白とか」
「ありえない!告白するならこんな汚い場所じゃなくて、中庭の‘’約束の樹‘’でしょ」
「約束の樹って?」
「あんた、そんなことも知らないの?」
「もともと、うちの初代理事長が子供のころに旦那と出会った場所にあった木で……」
少女たちが口々に告げるには、ここの初代理事長が幼いころに出会った男の子と将来の約束をし、引越だのなんだの紆余曲折して告白、再開の約束、プロポーズ等々の場所だったこの付近を買い上げ、学校を設立したとかなんとか逸話があるらしい。
そして、この学校の生徒がその木の下で告白等を行うと結ばれて、結婚するとかしないとかのパワースポット化しているそうだ。
いかにも少女たちが好みそうなエピだ。
しかし、少女たちのそんな話を聞き流しながら、真莉は梓澤と葵の表情をそっと確認していた。
葵は『そうなんだー』とばかりに、興味深くふんふんと話を聞いているが、梓澤は不機嫌そうに眉を顰めつつも、若干その瞳が所在なくウロウロとさ迷って落ち着かなく、口元も僅かに引き攣っている。
真莉は、その表情に覚えがある。
幼馴染が何かヤラカシて、彼の母親が真莉に状況確認している時に見せる顔だ。自分は関係ない振りを突き通そうとしているが、バレそうなときにやせ我慢している顔。
『て、事は梓澤さんは呼び出した方?』
「でも、俺もここに呼び出されたんだけど…制裁なのかな」
少女たちの『告白はありえない!』『もしそうなら嫌がらせ!』という‘’告白で呼び出した人‘’への全否定を聞いて、葵が不安そうに述べると梓澤の肩の位置が一瞬だけ上がり、眉間に力が入った。
形の良いアーモンド形の瞳でジワっと潤みが見える。
スカートの横の手は力が入りすぎて、指先がピクピクと動いている。
『あ、そうなのね』
真莉は唐突に悟り、葵と梓澤を交互に見る。
その視線に気付いた梓澤と目があい、真莉は重々しく頷いて見せた。
真莉が自分の状況に気付いたと悟り、梓澤の顔に怯えが走る。
「告白でも、嫌がらせでもいいから解散しよう」
真莉は慌てて、葵を呼び出した相手を誰何し始めた少女たちを呼び止めた。
「はぁ?!何他人事みたいに」
「だって、梓澤さんたちを呼び出した人たちもこんなに大勢いたら出てこないで逃げてるよ」
真莉は腕を組んで、ウンウンと自己満足的に頷きながら言葉を続ける。
「だいたい告白だったとしても、私にも、あなた達にも関係ない事だし、告白を何処で誰がしようとも自由じゃない」
「だから何よ」
「関係ない事に首突っ込まないで解散しましょうと提案してるの。てか、私帰るから」
お疲れさまでした~と真莉は少女たちに手を振り、校舎へと向かう。
「ちょ、待ちなさいよ!」
「柊木も梓澤さんと帰れば?」
「え、梓澤さん?」
引き留めようとする少女たちをよそに、真莉は葵へ声をかける。
「どっちにしろ今日は呼び出した人現れなさそうだし、梓澤さんが万が一嫌がらせの呼び出しだったら一人で帰るの怖いじゃない。男の子と一緒なら安心だよ」
「おとこのこ…」
「だよ~、女の子には優しくね」
真莉の男の子発言に、パアッと葵の顔が明るくなり、キラキラと擬音がつきそうな瞳の輝きで真莉と梓澤を交互に見て、頬を桜色に染めた。
「梓澤さん!俺、送っていくよ!」
「あ、え、うん」
さぁ、とばかりに腕を差し出す柊木に、梓澤はぎこち無く返事をし、スッとすました顔になった。
が、真莉はその目元と耳の先が赤く色付いて居るのを見逃さなかった。
『おおー、カワイイなぁ~』
真莉がトテトテと歩き出すと、呼び出した少女たちが慌ててその腕を掴む。
「何勝手に帰ろうとしてんのよ」
「えー、まだ続けるつもり?頑張り屋さんだな~」
「馬鹿にしてんの!」
「違う、違う。あなた達の頑張り、ほめてるの。ただ、頑張る方向性が違うと思うよ。幼馴染の私にどうこうするよりアイツに直接どうこうしなよ、こんだけ頑張れて、集結できるんならさ」
「何が言いたいの」
「だからさあ、アイツに直接、あなたには相応しく無いから幼馴染一家とは縁を切った方が良いです、今後は私達にその時間を使ってくださいって言ってよ。私に言ってもどうにもできないんだから、アイツに頑張って」
「ちょっと、自分が親しいと思って、何偉そうに言ってるの!!」
「偉そうとかじゃないよ、私に言っても時間の無駄だって。私とアイツは幼馴染意外の何でも無いし、私がアイツをどうこう出来るわけナイ」
真莉はそう言い捨てて、掴まれた腕を振り払い、そそくさと退散したのだった。
『まあ、あの子達も途中からグダグダだったし、あれ以上話を聞いてもどうにもできないしね。それより梓澤さんはうまく告白できたかね』
真莉は女神の如く迫力ある美人の恋の行方を案じた。
『あんなに神々しいのに、ちょっと抜けてて、好きな人には臆病なんて…ギャップ萌えます。んでもって、好きな人があの美少女に見える柊木って所もイイね!』
梓澤と葵の並んで帰る姿を想像し、ニヤニヤしながら教室のドアを開ける。
「てめぇ、何処ほっつき歩いてたんだよ」
誰も居ないと思った教室には、超絶機嫌悪い幼馴染が真莉の席に座り、長い脚を投げ出してこちらを睨みつけていた。
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