第14話

 こうして俺達は魔王の城へと向かう。

 俺はもちろん、ビキニアーマーでは無く、あの防具屋で一番防御力の高い装備に身を包んでいた。


「先に仕掛けはすべて解除してあります。あとは奥に進むだけです」

「分かった」


 魔王の城は薄気味悪く、闇に包まれていた。

 ゴクッと固唾を飲んで奥へと進む。

 大丈夫、オーランが居る。


 ――数分進むが確かに罠も何もない。

 階段を上ると、赤い大きな扉が目の前に現れる。


「この先に魔王が居ます。準備は宜しいですか?」

「あぁ、俺はいつでも」


 オーランが重そうな扉をゆっくり開ける。

 そこには玉座に魔王が一人、座っていた。

 俺達が魔王に近づくと「よく来たな」

 と、魔王は重圧感のある低い声でそう言った。


「お前の野望もこれまでだ」

 

 オーランが鞘から剣を抜く。


「クックックッ。たった二人で我に挑もうと?」

「いや、相手は僕一人だ!」

「ハッハッハッハッ。面白い! 相手をしてやろう!」


 ゲームの中では良くありそうなセリフだ。

 だがこうして目の前にして聞いていると、緊張してしまう。

 魔王がスッと玉座から立ち上がり、オーランは剣を構えた。


「トモナリさん。隠れていて」

「分かった」


 俺は返事をすると、邪魔にならない様に直ぐに離れて、柱の陰に隠れる。

 ――魔法と剣の凄まじい攻防が始まる。

 オーランは魔王相手に引けを取らない――いや、それ以上の戦いで魔王を追い詰めていった。

 オーランの渾身の一撃で、魔王の剣が弾き飛び、魔王は膝をつく。


「こいつでトドメだ!」


 オーランは両手を天にかざし、呪文を唱え始める。

 いける!

 そう思ったが、魔王の様子が何だかおかしい。

 なんだあの黒いオーラは?


「ライトニング……スパーク!!!」


 オーランが魔王に向かって魔法を放つ――が黒いオーラにかき消されてしまう。


「なに!?」


 オーランが驚いている隙に魔王は立ち上がる。


「よくもこいつを使わせよったな!」


 魔王は怒りを露わにし、オーランを睨みつけた。


「ダーク・ボール!」


 その名の通り、野球のボールぐらいの黒いボールがオーランに向かって飛んで行く。

 その速さは一瞬で、オーランはかわす事が出来ずに、腹にくらってしまい、膝をついた。


「くそっ! こうなったら……」

 と、オーランは布の袋を開け、手を突っ込む。

 取り出したのは微かに光っている玉だった。

 

 オーランが立ち上がり、かざそうとした瞬間、魔王は一気に距離を詰め、オーランを蹴り飛ばす。


「させると思ったか、小僧」


 オーランは今の一撃が効いたのか、倒れこんでしまった。

 魔王がトドメを刺そうとオーランにジワリ……ジワリ……と近づいていく。

 俺が何とかしなくちゃ……でも、足が竦んで動かない!

 

 そこへオーランが取り出した光の玉が俺の直ぐ側まで転がって来る。

 魔王はそれに気付き、俺の方を見てニヤァっと笑った。


「おら、どうした? チャンスだぞ?」


 こいつは足が竦んで動けない事を知って、言っているに違いない。

 悔しい……。

 だが俺はただのオッサン。

 死ぬのは怖いし、何もすることは出来ない。


「ふッ、雑魚が」


 魔王は嘲笑うかのように、そう吐き捨てると、オーランに向かって再び歩き出した。

 オーランの横に立つと、魔王はサッカーボールを蹴るかのように、いたぶり始める。


「ぐあぁぁ……」


 オーランの悲痛の叫びが城内に響き渡る。

 ごめん、オーラン……俺はどうしようもない奴だ。


 現実世界でも嫌な事から逃げてきた俺。

 そのせいなのか、いまも逃げ出したい気持ちに駆られてしまう。


「トモナリさん……逃げて」

 と、微かにオーランの声が聞こえてきた。


 あいつは神の加護があるから生き返る。

 きっと大丈夫だ。

 俺はオーランから視線を離し、なけなしの勇気を振り絞り駆けだした。

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