第13話

 傷が治った俺達は町を出ようと出口に向かって歩いていた。

 結局、メイドさんと仲良くなれなかったのが心残りだ。


「ねぇ、トモナリさん。次はどこに行きます?」

「あ、その事なんだけど」

 と、俺が言うと、オーランは立ち止まり不思議そうに首を傾げる。


「どうかしました?」

「えっと――俺、この町に残るよ」

 

 オーランの表情がみるみる曇り始める。


「え? どうして?」

「それは……俺が足手まといだから」

「それなら大丈夫ですよ。僕が守りますって」

「それじゃ、お前が傷つくだろ? 俺、それが嫌なんだ。それに俺は死んだら生き返らないんだろ? それが怖くて……」


 オーランはうつむき、黙り込む。


「ごめん……」

「いえ……僕の方こそ、トモナリさんのこと、考えてなくてスミマセン。分かりました、これから先は僕一人で行きます!」

 と、オーランは言って苦笑いを浮かべる。


「すまない」

「それじゃ、僕は行きますね。またこの町に来た時は、トモナリさんに会いに行きますから」

「あぁ」


 オーランは手を振ると、俺に背を向け去っていく。

 その背中はとても悲しげで、俺の胸はズキッと痛んだ。

 本当にごめんな……もっと強くなったら、また一緒に旅に出ような。


 ――さて、とりあえず生活のためにバイト先でも探すか。

 俺はオーランが見えなくなると動き出す。


 近くの防具屋を通ると、店の入り口に『働いてくれる人 募集!』

 と、書かれた紙が貼られているのを見つける。

 誘導されてるな……しゃあない、乗ってやるか。

 俺は防具屋の中に入った。


「いらっしゃい」


 男の店主かと思えば、20代ぐらいの女性じゃないか。

 驚いた……肩ぐらいまで伸びた茶髪に、鋭い目。

 ちょっと気が強そうな雰囲気漂う所もまで、俺が現実世界で好きだった女性とソックリじゃないか。


「えっと、客じゃなくて働きに来たんだ」

「あら、そうだったの。じゃあ、付いてきて」


 俺は店の奥へと進み、女性の後に続いた。

 女性は親切丁寧に仕事を教えてくれる。

 時おり見せる可愛らしい笑顔がギャップ萌えで、心をくすぐった。


「ザッと、こんな感じ。分からないことがあったら、その度に聞いてね。私はレナ、あなたは?」

「友成です」

「トモナリさんね。よろしく」

「よろしく」



 こうしてトモナリはレナと出会い、ともに働く事となる。

 え? なぜに行き成りナレーションが?


 トモナリは修業を重ねながら、レナとの日々を過ごすことで、次第に気持ちを寄せ合うようになる。

 ちょっと待て、この流れって……。


 それから十数年の月日が流れる――。

 えぇ~、そんなに!


 二人は結婚をし、一人の男の子を授かった。

 ちょっと待って! 人生で大事な所を、容赦なく飛ばさないで~!!!


「ねぇ、パパ。遊ぼうよ」


 結局、俺は恋愛を楽しむ事無く、子持ちとなってしまった。

 

「ごめんな。パパ、いまお仕事中なの」

「ちぇー……」

 と、子供はつまらなそうに去っていく。

 俺はカウンターに頬杖をかいた。


 十数年か……あいつは上手くやっているのだろうか?

 そんな事を考えながら、ボォーッと店の玄関を見据える。


「どうしたの?」

 と、レナが後ろから声を掛けてくる。

 俺は後ろを振り返り「どうもしないよ」


「そう? ――あなたもしかして、オーランさんが気になるの?」

「え?」

「ここ最近、オーランさんと旅に出た時の話ばかりしていたから、そうかと思って」


 え? そうなの?


「子供も大きくなってきたし、良いよ」

「え?」

「旅に出たいんでしょ? ちょっと待っていて」


 レナはそう言って、奥の倉庫の方へと行ってしまった。

 おいおい、確かにオーランの事は気にしていたが、旅に出たいとは言っていないぞ?

 ――数分して、レナが赤い宝箱を持って、戻ってくる。

 

「開けて」

「あ、あぁ……」


 俺はしゃがむと宝箱を開ける。


「えっと……これを俺に?」

「うん、使って」


 困惑しながらも鎧を手に取り、立ち上がる。


「本当にこれを?」

 と、ビキニアーマーを体にあて、聞いてみた。

 レナの顔が見る見る赤くなっていく。


「あっ……ごめん! 間違えた」

 と、レナが言った瞬間、店のドアがバンっと開く。

 入ってきたのは、逞しく変貌したオーランだった。

 パッケージのオーランにソックリじゃないか。


「いらっしゃい」

 と、レナが声を掛けると、オーランはなぜか目を背ける。


「あ、お取り込み中の所、すまない」


 今の状況を確認する。

 ――なるほど、おっさんがビキニアーマーを体に当てている場面に遭遇すれば、目を背けたくもなるか。


 俺はソッとビキニアーマーを宝箱にしまった。


「オーラン、逞しくなったな」

「いえ、私なんてまだまだですよ」

「今日は俺に会いに来てくれたのか?」


「え、まぁ……」

「なんだ。歯切れが悪いな」

「会いに来ました。でもそれだけじゃなくて、その……トモナリさんを誘いに来たんです」

「あぁ、そういう事か」


「あれから旅を続け、ついに魔王の城まで行けたのですが、不安になって戻ってきてしまいました。側に居てくれるだけで良いので、また付いて来てくれませんか?」


 俺はいま、十数年修業をしていた事になっている。

 きっと強くなっているはずだ。


「丁度いま、その事について妻と話していたんだ。分かった、一緒に行こう」


 オーランの顔がパッと明るくなる。


「ありがとうございます!」


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