第11話

 その日の夜。

 俺は約束通り城内の二階へと向かう。

 会場へ案内してくれたのは、例のメイドさんだった。


「こちらへどうぞ」

 と、メイドさんは素っ気なく言って歩き出す。

 ここで繋がりがあるとバレたくはない。そんな意志の表れなのだろう。


 ――少ししてメイドさんがピタッと足を止め、ドアを開ける。


「こちらです」


 俺は入ろうとする瞬間、メイドさんに視線を送る。

 メイドさんは黙って頷いた。

 中に完全に入ったところで、ドアがバタンと閉まる。


 へぇー……凄いものだな。

 何十人と座れそうな長いテーブルに、高そうな金の食器が並べられている。

 食事は確かに豪華で、チキンや果物、スープや野菜などが三人じゃ食べきれない程、並べられていた。

 それに来客を飽きさせない工夫なのか、高そうな鎧や骨董品も飾らている。


「ふふ、どうぞ座ってください」

 と、王妃様は言って、王様の前の席に向かって掌を上にして差し出す。


「あ、どうもありがとうございます」


 こういう場はどうも慣れない。

 だから俺は現実世界でも飲み会には出ていなかった。

 

 王様の前にある椅子に座る時、チラッと王様の方に視線を向ける。

 王様、怖いな……。


 さすが王様と言った所か、オールバックの白髪で見た感じは70歳ぐらいなのに、服を着ていても分かるぐらいにムキムキで、眼光が鋭く威圧感がある。


 とても強そうだ……それにしても何なんだ?

 さっきから不機嫌そうに額にシワを寄せ、黙っている。

 普段からこうなのだろうか? それとも――。

 

「本日はお招き頂き、ありがとうございます」

「ふむ」

「遠慮なく食べてくださいね」

「はい」


 それにしても、本当に誰も入れないんだな。

 こんなに広いテーブルなのに俺と王様、王妃様しかない。


 王様達が既に食べ始めているので、俺も手を合わせ、皿にのっているサラダを食べ始める。

 うん、美味しい!

 きっと厳選された野菜を使っているのだろう。

 トマトも果物を食べているようで甘かった。


「えぇい! 誰だッ!!」


 ガタンッ!

 と、椅子をヒックリ返す勢いで王様が立ち上がり、そう叫ぶ。

 な、何事!? 


「スープにタマネギを入れたのは!?」


 ガガーンっと効果音が鳴ったかと思うとシーンと辺りが静まりかえる。

 えぇー……子供かよ!

 いや、そんな事よりマズイ展開になってきたぞ……あのメイドさん、王様の嫌いな食べ物を知らなかったのか?



「あら、あなたタマネギ嫌いだったかしら?」

「あぁ、嫌いだ」


 王妃様が不思議そうに首を傾げている。

 ってことは、本来の王様はそんなこと無かったのだろう。

 つまりこいつは魔物が化けた王様で間違えない!

 王様がスープを持った皿を持って歩き出す。


「こんなもの、犬の餌にしてやる!」

 俺は慌てて立ち上がり「ちょっと待ってください。ワンちゃんにタマネギは駄目ですよ!」

 王様が俺の方に体を向ける。


「何だお前は? 王である私に指図をするのか!?」


 王様はそう言って、ギロッと俺を睨みつけてくる。

 こ、怖い……まるで上司に怒られている時のようだ。


「め、滅相もございません」

「――そういえばお前、見かけない奴だな、怪しい奴め。衛兵! 衛兵!」


 バンっと勢いよくドアが開き、2人の兵士が入って来る。

 あぁ……これ確実に捕まるパターンだわ。


「王様! 何かございましたか?」

「この怪しい男を地下の牢屋にぶち込んでおけ!」

「ハッ! かしこまりました!」


 二人の兵士が左右に分かれ、それぞれ俺の腕を掴む。


「付いてこい!」


 俺はこの無茶な展開に抵抗することなく、兵士に付いて行った。


 ※※※


 蝋燭の明かりしかない暗くてジメジメした牢屋に俺はぶち込まれる。

 鉄格子に石で出来た壁。

 どうあがいても抜け出せる感じではない。


「はぁ……」

 と、溜め息をつくと、こんな状況なのにグゥ~……っとお腹が鳴る。


「もっと飯を食べておけば良かった」


 壁に背中を預け、ひんやりとした地面に座る。

 きっとメイドさんが助けにきてくれるだろう。

 慌てず騒がずのんびり待つか。

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