第10話

 少しして、柴犬のような可愛いワンコが息を弾ませ、嬉しそうに俺の前を駆けていく。

 まだ子供だろうか? 体はまだ小さい。


「ちょっとそこのあなた。その犬を捕まえてくださらない」

 と、その後を追いかけている綺麗な白のドレスを身に纏った女性が言った。


「あ、はい」

 俺は直ぐに立ち上がり、ワンコを追いかける。

 ワンコは遊んで貰っていると思っているのか、右……左……とちょこまかと俺を翻弄してきた。


 ワンコが突然、ダァーッと勢いよく走りだし、俺との距離を離したかと思うと、白い柱の匂いを嗅ぎだす。

 チャンスだな……俺はゆっくりワンコの背後に回り込み手を伸ばした。


「ごめんよ。可愛いけど、オッチャン体力ないからここまでだ」

 と、言ってワンコを抱きかかえる。

 ワンコは暴れる事無く、はぁはぁと息をしながら俺を見つめていた。


「ごめんなさいね~。ありがとうございます」

 と、白いドレスの女性がゆっくり近づいてくる。


 さっきは一瞬だったから、良く見ていなかったけど、豪華なティアラをしているって事は王妃様?


 女性は赤い首輪をワンコに着けると「駄々こねた時にスッポリ抜けちゃったのよ。助かりました」


「あ、そうだったんですか」

 と、俺は答えワンコを地面に下ろす。


「あの、もし宜しければ今夜、お礼に御食事でもどうですか? 御馳走を用意しますよ」


『どうしますか? はい・いいえ』


「わぉ!」


 久しぶりの選択肢にびっくりして、思わず外国人が驚いた時のようになってしまった。

 恥ずかしい……。


「あ、いえ。ワンちゃんを捕まえただけなので」

「そう遠慮なさらずに」



『どうしますか? はい・いいえ』


 これ、永遠と続くやつか?

 まぁ、別に悪いことでもないし、素直に気持ちを受け取っておくか。


「分かりました」

「では夜になりましたら、正面の階段を上がって二階に来てください。あとはメイドに案内させますので」

「分かりました。楽しみにしています」


 女性は俺の返事を聞いてニコッと笑うと、ワンコを連れて奥の方へと歩いて行った。


「ふー……」

 

 とりあえず疲れたので、ベンチの方へと向かう。

 すると正面から紺色のワンピースに白のフリルが付いたエプロンを来たメイドさんが、近づいてくる。


 わぉ! 生のメイドさんを初めて見た!

 メイド喫茶すら言ったこと無かったからな……。

 ツインテールの薄い水色の髪が、なんとも俺の心をくすぐる。


「あの、すみません」

 と、メイドさんは向かい合わせになるようにピタッと足を止めると、話しかけてきた。

 メイドさんが小柄で、必然的に上目遣いになる所が、何とも言えず可愛らしい。


「はい、何でしょう?」

「えっと……さっき王妃様と話しているのを聞いてしまって、二人だけでちょっと話したい事があるのですが良いですか?」


『どう――』


「もちろん! 大丈夫です」


 選択肢などいらん!

 可愛い女性と二人っきり最高!

 

「ありがとうございます。付いてきてください」

 と、メイドさんは俺の先を歩き出す。


 行く~行く~。

 俺は変なテンションで後に続いた。

 ――台所を抜け裏口を出るとメイドさんは立ち止まる。

 俺は正面を向くように立ち止まった。


「ここなら大丈夫そうね」

 と、メイドさんは辺りを見渡す。

 俺も見渡したが、誰も居なかった。


「ここ最近、王様の様子が変だという噂、聞いたことあります?」

「あー……聞いたことあります」

「その事なんですが、今から言う事は誰にも言わないでくださいね」


 俺はコクリと頷き「分かった」

「実は私、夜中に魔物と話している王様を見てしまったの」

 

 あぁ……やっぱり。


「最初は気のせいかと思って様子を見ていたのですが、やっぱり何度か接触しているようで、心配になってこの城の兵士である兄に相談したんです」

「なるほどね。それで?」


「人間は魔物の言葉を話せません。だから今いる王様は魔物が化けているんじゃないかと兄は言っているんです」


 ふむ、そういう流れね。


「そこでお願いがあるのです。今日の食事会であなた以外のスープに睡眠薬を混ぜるので、皆が眠ったところで私に知らせてくれませんか?」


「構わないけど、兵士とかは一緒に食事をしないでしょ? どうするの?」

「その辺は大丈夫です。王様達は食事に集中したいからと、自分たちと来客以外は部屋の外に出してしまうので」

「あぁ……なるほど! だからあなたも眠ったかどうか分からないと?」


「はい。お察しの通りです」

「分かった」


 その後の展開がちょっと気になるけど、とりあえずは俺が出来る事をするまでだ。

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