第9話

 次の日の朝。

 俺は約束通り、村の入口に向かう。


「おはよう、オーラン」

「あ、おはようございます。トモナリさん」


 そう挨拶するオーランはなぜか眉を顰めて、浮かな顔をしていた。


「トモナリさん。荷物が無いって事は、僕との旅は――」


 と、オーランは言って、言葉を詰まらせる。

 なるほど、そういう事か。

 

「俺、もともと荷物を少ないんだ。あるのは今、ここにある物だけ」

「え、じゃあ……」

「うん。道具屋の仕事も辞めてきたし、ちゃんと旅立つ準備を済ませてきたよ!」


 オーランの顔がパッと明るくなる。

 分かり易い奴め。


「良かった~……じゃあ、早速向かいましょう!」


 オーランは俺の右腕を掴むとグイグイと引っ張りながら歩き出す。

 俺はそれに合わせてゆっくり歩き出した。


「おいおい、そんなに慌てなくても冒険は逃げないぞ?」

「そうですけど、楽しみなんですもん!」

「まったく……」


 まだ子供っぽさが残るオーランの仕草が、何だか微笑ましく思える。

 本当に勇者なのか?

 そう疑問に感じるが、これぐらいが丁度良いのかもしれない。

 ――村を出て見渡す限りの草原を歩き出した所で、オーランが俺の腕を開放する。


「なぁ、オーラン。目的地はどこだ?」

「このまま北に向かって歩いていると、橋があるのですが、そこを渡って西に行くと、ヘルシャフトと呼ばれる城下町があるのでそこに向かいます」


 オーランは説明しながら、布の袋から赤いリンゴを取り出し、俺に差し出す。


「食べます?」

「ありがとう」



 俺はリンゴを受け取ると一口かじった。

 シャリ……シャリ……シャリ……とリンゴを噛んで、ゴクンッっと、飲み込むと「城下町ねぇ……城に行くってこと?」


「はい。何でもここ最近、王様の様子がおかしいとの事で、その調査のために行きます」

「ふーん……怪しい臭いがプンプンするね」

「えぇ」

 

 まぁ、確実に黒だろうけど。

 オーランは返事をしながら、自分の分のリンゴを布の袋から取り出す。


「言っておくが、俺は戦えないからな」

「分かっていますよ。僕が守るから大丈夫です」

 と、オーランは返事をしてニコッと微笑んだ。


 ※※※


 こんな調子で会話をしながら、俺達は城に向かって歩いていく。

 途中、野宿をすることになっても、子供の頃のお泊りを思い出し、楽しい時を過ごした。


 城に近づけば近づくほど、モンスターの強さは増していく。

 それでもオーランは、傷つきながらも俺の事を守ってくれた。

 ここはゲームの世界。

 現実と違って、傷は魔法や薬で直ぐに癒えるけど、苦痛の表情を浮かべ血を流すオーランを見ていると、心苦しい。


「トモナリさん? どうしたんですか?」


 オーランが回復魔法で自分の腕を治しながら、不思議そうに首を傾げ、訊ねてくる。


「え? どうしたって?」

「暗い表情をしていたので」

「あぁ、大丈夫。大したことじゃないさ」


「そうですか? 何かあったら言ってくださいね。仲間なんですから」

「分かったよ」


 本当、優しい子だな。

 俺は清々しいほど晴れ渡る青空を見上げる。


 本当にここはゲームの世界なのか?

 そう感じるほど、オーラン……いや、ここの住人はリアルに感じる。

 ――このまま俺は、自分の目的だけ果たすために動いていていいのだろうか。


「あ、城下町が見えてきましたよ」

「本当だ」


 と言っても、レンガで見上げるほど高い城壁に囲まれているので、どんな町かは見ることが出来ない。


「町に着いたらどうするんだ?」

「まずは城に向かいます」

「入れるの?」

「はい。城の中に誰か知り合いが居れば、入れるみたいです」

「へぇー……」


 ※※※


 数分歩き、町を歩き出す。

 カラフルな屋根や壁の色が建て並んでいて、見ていて飽きない。

 なんだかゲームの世界というより、外国に来ているようだ。

 ガヤガヤと賑やかで、活気が溢れる良い町だな。


 しばらく真っ直ぐ歩いていると、石で出来た城門が見えてくる。

 こういうのを見ると、RPGの世界に入り込んだ~って感じがして、ドキドキするな。

 見上げるほど高い城門の前に来ると、二人の兵士が門の前に立っていた。


 オーランは兵士に近づき、「あの、すみません。トムという兵士に用事があるので通して頂けますか?」


「君の名前は?」

「オーランです」

「あぁ、トムから聞いているよ」

 と、兵士は言って門を開き「どうぞ」


「ありがとうございます」

 と、オーランは御礼を言ってペコリと頭を下げる。

 そしてこちらに向くと「トモナリさん、行きましょ」


「あぁ」

 と、俺は返事をすると、先を歩き出すオーランの後に続く。

 城門を抜けると、広くて綺麗な庭が目に入る。


 中央に噴水があって……周りには色取り取りの花が植えられた花壇があって……ベンチまで用意されているのか。


 こりゃまるで公園だな。

 俺がそう思っていると、オーランが立ち止まり、こちらに振り向く。


「トモナリさん。僕はトムさんを探してきますけど、一緒に来ます?」

「うーん……少し疲れたから、ここで待っている」

「分かりました。では、後ほど」

「あぁ」

 と、返事をすると、オーランを見送り、白いベンチに腰掛ける。


 さて、せっかくここまで来たんだ。

 少し休んだら、メイドさんでも探しに行こう!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る