第8話

「ただいま帰ったぞ~」

 と、宿屋のオッサンが店の中に入っていく。


「お父さん!」


 美女は嬉しそうに笑顔を浮かべ、駆け寄った。


「もう! 心配したのよ!」

 

 美女の怒った顔もかわぇぇのぅ……。

 しかも、もう! ってところがツボる!


「悪い、悪い。トモナリさんとオーランさんに助けて貰ったから、もう大丈夫だよ」

「そうなの?」


 美女が俺の方を向き、ペコリとお辞儀をする。


「父を助けてくれて、ありがとうございます!」

「いえいえ、大したことしてないですよ」


 美女は顔をあげると「そんなことないです! どうか今日は、タダにしますので、この宿屋に泊って行ってください」


 もしかしてこれ、ムフフ展開!?

 でもここで喜んでニヤっとしたら、嫌われるかもしれない。

 ここは冷静に……。


「良いんですか?」

「どうぞ、どうぞ」

「では御言葉に甘えて、泊まらせて頂きます」

「えぇ、こちらへどうぞ」


 美女が俺を部屋に案内するため歩き出す。

 俺は先頭を歩く美女のオシ……いや、背中を見ながら付いて行った。

 ――美女は一番奥の部屋に着くと立ち止まり、部屋のドアを開けてくれた。


「ごゆっくり♪」

「はーい♪」

 

 顔の印象と違って可愛らしい声を出すので、ついつい俺も甘ったれた声を出してしまう。

 こういう所だぞ、俺!


 部屋に入ると、ドアを閉め、とりあえずベッドに寝転ぶ。

 さてムフフ展開があるまで、このまま待つか!


 ――気が付くと俺はベッドの上で寝ていた。

 何か嫌な予感がする。

 俺は急いでベッドから起きると、カウンターに向かった。


 ――美女は?

 目の前の光景が受け入れられず、俺は立ち尽くす。

 カウンターには、店主の剥げたオッサンが座っていた。


 立っていても仕方ないので、俺は店主に近づき「あの、美――じゃなかった。娘さんはどうしたんですか?」


「帰ったよ」


 ガーン……さよなら、ムフフ展開。


「そうですか……」


 俺は項垂れながら、自室へと戻った。 


※※※


 その後、諦められなかった俺は、村の中をグルッと回って美女を探すが、見つけることが出来なかった。


 きっとイベントをクリアしてしまうと、消えてしまうタイプだったんだな……。

 ベッドに寝転びながら、宿屋の天井をジィー……っと見つめ、思いにふける。


「はぁ……」


 あの時、尻でも触っておけば良かった。

 コン、コン……と、ノックの音が聞こえてくる。

 

「ファイ!」


 行き成りの事でビックリして、変な声を出してしまった。


「僕です。オーランです」

「なんだ、オーランか」


 一瞬、美女の方かと思ったぜ。


「いま行くから、待っていて」

「はい」


 俺はノソッとベッドから起き上がると、ドアを開ける。


「どうしたんだい?」

「実は僕、明日この村を出ようと思いまして」


 村を出る?

 ということは、この村のイベントは終わったって事か?


「それで、もし良かったらですが……」


 と、オーランは俯きながら言って、モジモジと体を揺らし始める。

 なんか可愛いな、おい。

 中性的な可愛らしい顔をしているので、尚更そう感じてしまう。


「僕と一緒に旅に出ませんか?」

「え? 旅に?」


 突然のお誘いに戸惑ってしまう。


「あ、突然ですみません!」

「いや、大丈夫だけど……」


 お誘いが来るって事は、やっぱりこの村のイベントは終わったんだ。

 この村の美少女に抱きついて貰うのも悪くはないが、他の美女は美少女に出会うのも捨てがたい。

 うーん……迷うな。


「あの……明日の直ぐではないので、それまでに決めて頂ければ大丈夫です」


オーランはそう言って苦笑いを浮かべた。

悲しみを帯びたその瞳が何とも後ろ髪を引かれる。

 本当は付いてきて欲しいんだろうな。


「分かった。じゃあ明日、村の入口で待ち合わせな!」

「はい!」


 オーランは元気よく返事をすると、カウンターがある方へと歩いて行った。

 俺はベッドの方へと戻り、ドカッと座る。


「さて、どうしたもんかね……」


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