第7話

 俺達は宿屋に泊まり、体力とMPを回復すると森に戻った。


「オーランさん、ちょっと」


 先を歩いているオーランを呼び止める。

 オーランは足を止め、俺の方を向いた。


「何ですか?」

「俺の盾以外の防具をあげますよ」

「え!? 良いですか?」

「はい、俺は戦わないので」


 俺はそう言いながら、防具の装備を外した。


「ありがとうございます!」


 オーランは御礼を言いながら、皮の鎧を手にする。


「わぁ……王様の支給品より豪――」


 俺は目を輝かせているオーランの口を慌てて塞ぎ、首を横に振る。


「オーラン。そいつは言っちゃあかんやつ」


 オーランは目を丸くしながらも、黙って頷いた。

 俺はオーランの口から手を離す。


「まったく……」


 いつ誰が聞いているか分からないしな!


「さて、装備をしながらで良いので、聞いていてください。これからですが、前回通ってない道を行ってみましょう」

「なぜです?」

「冒険に役立つ物が手に入る可能性があるからです」


 多分、オーランは冒険初心者という設定。

 おそらく行き止まりにアイテムが落ちている等の設定は知らないだろう。


「なるほど……」

「あと、なるべく雑魚敵には魔法は使わない様に」

「なぜです?」


 オーランは盾を腕に通しながら質問をする。


「前みたいに使いたい時に、使えないからです!」

「なるほど……分かりました!」


 とりあえず気になったのはこれだけかな?


「装備は出来ましたか?」

「はい」

「では先に行きましょう」

「はい!」


 オーランは本当に素直な子で、俺の言う通りに動いてくれる。

 しばらくして、行き止まりに差し掛かると、立ち止まった。


「あ、あそこにナイフが落ちてる!」

 と、オーランは言ってナイフに近づく。

 

 よしよし、その調子。

 多分、序盤だから罠は無いはずだけど――。


「罠は無さそうですか?」

「――はい!」

「たまに罠があることもあるので、気を付けてくださいね」

「分かりました」


 オーランは返事しながら、ナイフを拾うと、マジマジと色々な角度でナイフを見始めた。

 珍しいナイフなのかな?

 俺はオーランに近づくと「それ、珍しいのですか?」


「はい。加護のナイフと言って、普通のナイフより切れ味抜群のナイフです! これ一本でこの鎧が買えちゃうぐらい価値があるんですよ!」


「へぇ……これであのワーウルフと優位に戦えそうですね!」

「はい!」


 オーランは嬉しそうに返事をして、茶色のベルトにナイフを差した。


「さぁ、次に行きましょうか」

「はい」


 ※※※


 俺達は順調に森を進み、ワーウルフの所へ戻ってきた。


「た、助けてくれ~」


 思った通りオッサンは無事で、ワーウルフも元の配置に戻っている。


「トモナリさん、行きましょう!」

「はい」


 俺達は剥げたオッサンの元へ駆けつけた。


「今度はやられない!」


 オーランが加護のナイフを装備して、ワーウルフに向かっていく。

 ワーウルフは後ろに避けたが、オーランが斬りつけるスピードの方が僅かに速く、小指に浅い傷を負わせた。


「よし! やっちゃぇ~!」

 

 結局、手に入ったのはナイフだけだったが、回り道をしたおかげで、オーランのレベルは上がっている。

 きっとこの調子でいけば大丈夫だ。


 ――オーランが優勢なまま、戦闘が進む。

 だがワーウルフもなかなか素早いので、致命傷を与えられていなかった。


 でも、大丈夫。オーランはまだ体力がありそうだ。

 それに比べて、ワーウルフは息を弾ませ始めている。


 ワーウルフはこのままではマズイと思ったのか、致命傷を負わせようとオーランに向かって思いっきりジャンプをして、爪を勢いよく振り下ろした。


「オーラン!」

「大丈夫!」


 オーランは冷静に爪攻撃をかわした。

 ワーウルフはかわされた事により、体のバランスを崩す。

 オーランは素早くワーウルフの背後に回り、右手を突き出した。


「これで終わりだ! ファイヤー!!」


 オーランはゼロ距離発射のファイヤーをワーウルフの背中に繰り出し、すかさず回し蹴りをお見舞いした!

 ワーウルフは勢いよく吹き飛び、ズザァー……と、地面に倒れこむ。


「ウヒョ~! カッコイイ!」


 俺は生のプロレスを見るかのように、興奮していた。

 ワーウルフはまだ生きているようで、ピクピク体を震わせている。


 オーランはゆっくり近づくと、「さよなら」

 と、ワーウルフの首を掻っ切った。


 ワーウルフが消滅し、Gが出てくる。

 オーランは黙って拾い上げると、布の袋にしまった。


『オーラン達は戦いに勝利した! 200Gを入手した! 150EXPを獲得した!』


 突然、ファンファーレが鳴りだす!


「うわぁお! 何事!?」

『なんとトモナリはレベルが3になった!』


「えぇ~~~~!!! 俺もレベル上がるの!? しかも一気に3!?」

「ふふふ、良かったね!」

 と、オーランが言ってニコッと爽やかな笑顔を見せる。


「良かったのか!?」


 別に俺、戦うつもりないし、レベルアップなんて必要ないのだが……。

 オーラン、スマソ。


 そんな俺で、立って見ていただけなのに君の経験値を奪ってしまった。

 まぁ、こればかりは仕方ないのだが。


 オーランが俺に近づき、向き合うように立ち止まると、さっきGを回収した袋を俺に差し出してくる。


「これ、トモナリさんにあげます」

「いや、いらないよ。立っていただけだし」

「でも、僕にアドバイスをくれたじゃないですか」

「――分かった。じゃあ、宿屋の主を娘さんに返すのを俺に任せてくれないか?」


 オーランはキョトンとした顔で俺を見つめる。


「え? 別に構いませんけど……むしろ良いんですか?」

「うん!」

「分かりました。では帰りましょうか」

「そうだね」


 俺達はオッサンを連れて、村に戻ることにした。

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