第6話
森に着くと、オーランが先頭を歩きだす。
「ここから先、危険だと思うので、トモナリさんは後ろを付いてきてください」
後ろに顔を向けながら、オーランはいつもの優しい目をキリッと鋭くさせ、真剣な顔でそう言った。
ドキッ!
そんな気はサラサラないが、その表情が頼もしく感じられ、男の俺でもカッコイイと思ってしまった。
「は、はい」
――黙って森を歩くこと数分。
ガサゴソと茂みの中から音をさせ、緑色のゼリー状の生き物 スライムが一匹、俺達の前に現れる。
「下がって!」
「はい」
オーランは棍棒を構え、スライムに立ち向かっていく。
Gが少なくて武器が買えないのか?
棍棒で大丈夫なのかな?
オーランが棍棒を振り下ろし、地面に叩きつけるかのような攻撃を仕掛ける。
だがスライムは攻撃を読んでいたのか、ヒョイッと横に避けた。
今度はスライムがジャンプをしながら、オーランに攻撃を仕掛けてくる。
オーランは左手に装備していた木の盾で凌いだ。
すかさずオーランは、スライムに向かって棍棒を振り下ろす。
棍棒がスライムに当たり、スライムは地面に叩きつけられた。
今の攻撃で敵わないと思ったのか、スライムはよろめきながらも立ち上がると、一目散に逃げて行った。
「雑魚敵で良かった。先を急ぎましょう」
と、オーランは言って、棍棒を腰にぶら下げる。
「はい」
※※※
その後もスライムやゴブリンに出会うが、オーランはバッタバッタと余裕で倒していく。
だけどそんな戦い方をして大丈夫か? と、心配する場面もあった。
「た、助けてくれ~」
森の奥の方から男性の叫び声が聞こえてくる。
「オーランさん、急ぎましょう!」
「はい!」
俺達が急いで声の方に行くと、木々がない草だけの開けた場所に、半狼半人の姿をしたワーウルフと河童のように剥げたオッサンが居た。
オッサンは腰が抜けたようで、体を震わせながら地面に座りこんでいて、ワーウルフはオッサンを襲おうとジワリ……ジワリ……と、近づいている。
「待て! ワーウルフ!」
オーランがワーウルフに駆け寄り、後ろからそう言うと、ワーウルフは言葉が分かるのか、オーランの方へ振り向いた。
「俺が相手だ!」
ワーウルフは邪魔されたことに腹を立てたのか、牙をむき出しにして、グルルルと喉を鳴らしている。
「オッサン、早くこっちへ」
俺がオッサンに声を掛けるが、オッサンは立とうともしない。
「わ、分かっているけど、腰が抜けて立てないんだ」
「ちッ。オーランさん、時間を稼いでくれ」
「分かった!」
オーランはオッサンから離れるように上手にワーウルフを誘導しながら、戦いを始める。
激しい攻防を繰り広げているが、お互い致命的なダメージは負っていない。
実力は互角といった所か。
オーランがワーウルフから距離を取り、右手を突き出し、呪文を唱える。
「ファイヤー」
オーランの掌から野球のボールぐらいの火炎玉が飛び出す。
ワーウルフは避けることが出来なかったのか、両腕でガードをした。
倒れはしなかったが、ワーウルフは両腕に火傷を負う。
よし! チャンスだ!
「お前にうちの家系しか使えない取って置きの呪文を見せてやる!」
「え?」
オーランは両手を天にかざし、呪文を唱え始める。
それって、もしかして勇者しか使えない呪文!?
え? でも低いレベルで使えるの!?
「ちょ、ちょっと待て。オーラン!」
「ライトニング~……スパーク!!!」
オーランがワーウルフに向かって、両手を振り下ろす。
だが呪文を放つ時の効果音だけが響き渡り、何も起きなかった。
『その呪文はまだ使えない!』
「やっぱり~~~!」
ワーウルフは臆することなく、オーランとの距離を一気に縮め、鋭く尖った爪をオーランに向かって振り下ろした。
『オーランは痛恨の一撃を食らった!』
オーランの服が破れ、肩から腹にかけて爪跡が残り、そこから鮮血が流れる。
オーランは堪らず膝をついて、傷口を押えた。
このままじゃオーランがやられてしまう。
ボスが居るって事は、きっとこれはメインイベント。
オッサンを放っておいて大丈夫なはず!
「オーラン! 一旦引くぞ!」
「で、でも……」
「オッサンなら大丈夫、大丈夫だから!」
「分かった!」
『オーラン達は宿屋の主を置いて逃げ出した!』
何かトゲあるな、おい!
――俺達はナレーションを気にせず、ボスが追いかけてこない所まで逃げだすと、立ち止まる。
「オーランさん、傷は大丈夫ですか? これを使ってください」
俺は布の袋から薬草を取り出し、オーランに渡す。
「ありがとうございます」
オーランは薬草を口に入れた。
傷口がみるみる塞がっていく。
「オーランさん、もう魔法は使えないですよね?」
「はい」
「じゃあ一旦、村に戻って体力とマジックポイント(MP)を回復してから、また再挑戦しましょう」
「分かりました」
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