第5話
次の日を迎え、俺は宿屋のベッドから起きると、カウンターに向かった。
「あれ?」
カウンターに立っているのが、いつものハゲたオッサンじゃない。
代わりに立っていたのは、紫色のベリーショートの髪型をした大人の雰囲気漂う美女だった。
鋭い目をしていて、近寄りがたい雰囲気はあるが、何だあの美女は!
まさか、あのオッサンの娘か?
それじゃ、イベントか!? 昨日のイベントをクリアしたから新たなイベントが発生したのか!?
昨日のイベントが良かっただけに、興奮してしまう。
「あ、お客様。御帰りですか?」
「はい。あの、いつものオッサ……じゃなくて男の方は?」
「父は朝、近くの森に食材を探しに行くと言って、出て行ったきりで帰って来なくて、だから代わりに私が店番をしているんです」
自給自足だったのね。
通りで5G飯付きと安い訳だ。
「そうですか……」
この辺で選択肢が出てくる予感がするな!
『様子を見に行ってあげますか? はい・いいえ』
ほら来た~。
本来なら、これは勇者が受ける依頼のはず。
だったら――。
「それは心配ですね。俺が森に行ってあげますよ」
美女の細くて長い指が俺の手を優しく包み込む。
「本当ですか!? ありがとうございます!」
美女の冷たい雰囲気のある表情が、ニコッと優しい笑顔に変わる。
キュン!
ギャップ萌えで俺の胸が高鳴る。
親しい人にしか見せない様な笑顔、もう……好き!
「分かりました」
俺はカッコ付けるため、わざと声を低くして返事をすると、名残惜しいが美女から手を引っ込めた。
とりあえず宿屋を出て、あいつを待つか。
※※※
多分あいつは、同じ宿屋に泊っているはず。
ゲームらしく無断でズカズカと客室に入ることも可能だろうけど、さすがにそれをする勇気はない。
俺がそんな事を思っていると、やっぱり勇者 オーランが宿屋から出てくる。
「オーランさん」
「やぁ、あなたは――」
「あ、そういえば俺の名前を言ってなかったですね。俺は友成です」
「トモナリさん。どうしたんですか?」
「実は頼みごとがあって、ここの宿屋の店主が近くの森に行ったきり帰って来ないですって。それで――」
「分かりました。一緒に様子を見に行きましょう!」
「え?」
「え?」
「俺も行くの?」
「もちろん! トモナリさんが引き受けた依頼でしょ?」
「ぐぅ……そりゃ、そうだけど……俺、戦えないよ?」
「えぇ、見るからにそんな感じがします!」
グサッ!
そんなハッキリと……。
「だから一緒に行きましょう! 大丈夫、モンスターが出ても僕が守りますよ!」
あぁ……頼むからそんな眩しい笑顔で、そんなこと言わないでくれ。
断り辛くなる。
「分かりました。ではお願いします」
と、俺が返事をすると突然、ファンファーレが流れだす。
『トモナリが仲間になった!』
いやそんな盛大にファンファーレ流されて、仲間になったって言われても、仲間になったつもりないし!
オーランが突然、はにかんだ笑顔を浮かべ頬を掻く。
「トモナリさんが初めての仲間です……」
グサッ!
そんな仕草や表情でそんなこと言わないで~。
さっき仲間じゃないと思った事が心に刺さるから~。
「そ、そりゃどうも……」
「早速、出発しますか?」
「いや、いや、いや。準備もあるし、仕事も断らなきゃだから、ちょっと村の入口で待っていてくれます?」
心の準備もあるしね……。
「分かりました。では先に行って待っていますね」
「はい」
オーランを見送り、俺は隣の道具屋へと向かう。
「いらっしゃい。――って、何だトモナリか」
「すみません。今日は用事があって仕事できません」
「そうか、分かった」
「防具を買いたいのですが、良いですか?」
「もちろん!」
さて、どうするか?
ケチって怪我しても嫌だし、防具一式買っておくか。
俺は盾・鎧・兜と皮の防具を全て、カウンターに置いた。
「ずいぶん買い込むな。全部で340Gだ」
チーン……手持ちのGがほとんど消える。
まぁ、この冒険が終われば直ぐに売るつもりだけど。
俺は340Gを支払い、店の売上に貢献する。
「毎度あり! 装備していくかね?」
「はい。お願いします」
店主のオッサンはカウンターから出て来て、すべての防具を装備してくれた。
「ありがとうございます!」
俺は御礼を言うと、店を出る。
するとオーランが近づいてきた。
「準備出来ましたか?」
「はい」
「では、目的の森に向かいますか」
冒険か……。
少し楽しみでドキドキするけど、危険が待ち構えていると思うと気後れしてしまう。
「はぁ……」
この先、どうなってしまうのだろうか?
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