第4話

 朝が来て、俺は道具屋へと向かう。

 だが昨日の事があったから、中に入るのを躊躇ってしまう。


 えぇい! いきなり店番を任すオッサンが悪いんだ!

 俺は意を決して、店の中に入った。

 

「お、トモナリ。来たのか。今日も宜しく頼むぞ」

「え?」


 大丈夫?


「昨日は鉄の装備を売れなくて、すみません」

「そんなの気にするな。そんな事より、倉庫の整理頼んだぞ」

「あ、はい!」


 このゲームのシステムなのか、それともこのオッサンの性格なのか、どちらにしてもスッキリしていて助かる。

 さて、言われたとおり倉庫へと向かうか。

 ――俺がしばらく倉庫の整理をしていると、またオッサンが現れる。


「今日も用事が出来た。カウンターを頼む! では!」


 オッサンはそれだけ言って、バタンッとドアを閉めて行ってしまった。

 これ、こういうイベントなんだろうな。


 よっこいせ。

 俺は手前にある木箱を、壁際にある木箱の上に積み重ねると、レジの方へと向かった。

 そして昨日のような一日がまた始まる――。

 結果は昨日の失敗を活かして、プラスにすることが出来た。


 ※※※


 そんな毎日を繰り返し、数日が経つ。

 店で働く以外、特にイベントは発生していなかった。


「もうあがって良いぞ」

「ありがとうございます」


 仕事に慣れてきたおかげで、店の売り上げをプラスに出来たので、それに応じて貰える金額も増えてきた。

 俺は70Gとオマケの薬草を受け取ると、店を出た。


「おぉ!」


 金髪美少女、発見!

 年齢は14、15歳ぐらいか、外国の女の子みたいに目がブルーで顔が整っていて、人形みたいに可愛い。

 

 少女は落ち着かない様子で、セミロングの髪をユラユラ揺らしながら、村の出入口を行ったり来たりしている。

 ピキーン! これはもしや!


「ふふふ、ついに俺の目的が達成する日が来たか?」


 俺はニヤけるのを抑えながら少女に近づき「どうしたんだい? お嬢さん」

 と、低い声で紳士的に話しかけた。

 少女が俺に気付き、立ち止まる。


「あ、実は洞窟にお母さんから貰った大事なペンダントを落としてきてしまって」


 少女は俺の低い声でから下の部分をスルーし、事情を説明し始める。

 嫌な顔されるよりはマシだが、ちょっぴり恥ずかしい。


「という訳で、魔物が居るから取りに行きたくても行けなくて……」

「うむ、事情は分かった」


 事情は分かったけど、そもそも何でそんな危険な所に行くんだ?

 ゲームのイベントと知っていても思わず突っ込みたくなる。


「どうか、取りに行って頂けますか?」

『取りに行きますか? はい・いいえ』

「うわぁお! いきなりでビックリするわ!」


「どうかされました?」


 少女は不思議そうに首を傾げる。


「いや、何も……」


 そういえばこの前、勇者が同じ洞窟に行くって言っていたな。 

 このタイミングで、このイベント……。


「分かりました。引き受けましょう!」


 少女は嬉しそうに笑顔を浮かべ、俺の両手を手に取ると、ギュッと握った。


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 ウヒョー!!!

 ゲームの世界でも、肌の温もりはちゃんと感じられるのね。

 異世界、最高!!!

 はぁ……この調子で、サブイベントに登場する女の子を攻略していきたい。


「お任せください」


 名残惜しいけど、少女から手を離す。


「それでは俺、用事があるので!」


 俺はそう言ってビシッと敬礼をすると、少女から離れた。

 ――さて、勇者を探すか。


 ※※※


 ――おかしいな、見当たらない。

 村をグルッと一周してみるも、勇者はどこにも居なかった。

 見当違いだったか? だったらまずいな。

 俺がそう思いながら、一人で村の出入口をジッと眺めていると、村の外から勇者が近づいてくる。


 ん? 少し体がでかくなった?

 レベルアップでもしたのだろうか?


「おぉ、勇者よ!」

「勇者? 僕はオーランだよ?」

「俺の中では勇者なの! それより洞窟で女性もののペンダントを見つけなかったか?」

「ペンダント? あぁ、見つけたよ」

「グッジョブ!」


 俺は親指を立てて、体で喜びをアピールした。


「それ、俺の知り合いが失くしたらしくて、返して来るから、俺に預けてくれないか?」

「あぁ、そういうこと。分かった」


 と、オーランは言って、布の袋からペンダントを取り出した。

 俺はオーランからペンダントを受け取る。


「ありがとう」

「どう致しまして」


 俺は少女を探しに村の中を歩き出す。

 これを返せばどんな反応を示すのか、楽しみだ!

 ――村の端の方に来ると、池の側で行ったり来たりしている少女を見つける。


「おーい」


 俺が少女に近づきながら声をかけると、少女は足を止め、こちらを振り向いた。


「ペンダント、見つかったよ!」

「え、本当ですか!?」


 少女は嬉しそうな表情を浮かべ、両手で口を覆う。

 目には薄ら涙を浮かべていた。

 かわぇぇー……。


「はい、どうぞ」


 俺が少女に向かってペンダントを差し出すと、少女は受け取りギュッと握りしめた。

 よほど嬉しかったんだな。

 少女はいきなり、ガシッと抱きついてくる。


「ありがとうございます! 嬉しい♪」


 えぇ……えぇよ異世界!、最高や!!!


「これぐらい。大したことじゃないさ」


 ゲームをしているだけじゃ味わえない感動に浸りながら、俺は少女の腰に手を回した。

 俺が探してきた訳じゃないが、地図はあげたし、こ、これぐらい良いよね。


 こうして俺は、忘れられない一日を過ごした。

 と言っても、何度か話しかけ、抱きついて貰っていただけだが。

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