第3話

「やってもうた……」


 調子に乗って店の物をほとんど売り、まったく売れない鉄の武器と防具を買い取ってしまった。


 これ、完璧にドヤされるやつやん!

 ガクガクブルブル……。

 店のドアがドンッと開き、店主のオッサンが入って来る。

 ドキッ!


「ただいま戻ったぞ」

「お帰りなさい」


 オッサンは店の中にある商品に目もくれず、真っ直ぐ俺の方へと歩いてくる。


「お疲れ様。今日はもうあがって良いぞ」

「分かりました」


 俺が返事をしてカウンターから出ると、店主が50Gと薬草を差し出す。


「今日の分だ」

「あ、ありがとうございました。お疲れ様でした」

 と、俺は返事をすると、そそくさと店を出た。


 店の前で立ち止まり、耳を澄ます。

 ――よし、怒鳴り声は聞こえてこないな。


「あ、あの。すみません」


 背後から、若い感じのする高めの男の声が聞こえてくる。

 俺は後ろを振り向いて、声の主を確認する。

 こいつ……。


 腰にぶら下げているのは棍棒で、服も薄茶の色をした布の服だが、顔はこのゲームのテレビCMに流れていた勇者 オーランにソックリだ。


 だが体は筋肉質というより、身長が高いせいかホッソリしていて、どちらかというと華奢にみえ、優しく穏やかな目をしているので、頼りなさそうだ。

 話し掛けられた時の感じからも、気弱な印象を受けた。


「はい?」


 俺は店の前だと邪魔になるので、勇者オーランの方へと移動する。


「この村の近くにある洞窟に行きたかったのですが、道に迷ってしまって、地図を持っていますか?」


 旅人なのに地図を持っていないのか?

 まぁ、考えてみたら宝箱から地図を発見するゲームもあるし、おかしくはない? か。


「ありますよ。ちょっと待っていてください」


 俺は布の袋から地図を取り出し、広げた。

 確かこの村の名前はナチャーラ村だったな。


「ここがナチャーラ村なので、あなたが言う洞窟は東に行って、橋を渡って南にある洞窟ですかね?」


 勇者 オーランの笑顔に変わり明るくなる。


「えぇ、きっとそうです! ありがとうございます」

「いえいえ」



 勇者 オーランは俺にペコリと頭を下げると、村の出入口の方へと向かう。

 大丈夫かな?


「あの!」


 俺は心配になり、勇者 オーランを呼び止める。


「はい?」

「これ、あげますよ」


 俺は立ち止まった勇者 オーランに向かって地図を差し出した。

 どうせ、しばらくこの村にいるだろうし、地図なんて無くても大丈夫だろう。


「良いんですか?」

「はい」

「ありがとうございます! この御恩は忘れません!」

「いえいえ。そんなに気にしないでください」


 勇者 オーランは地図を受け取ると、腰に下げてあった布の袋を開けてしまった。

 また俺に向かってペコリと頭を下げると、村の出入口の方へと向かって歩き出す。


 頼りなさそうだけど、性格の良い青年だ。

 無事に戻ってきてくれると良いな。


 俺はそう思いながら、彼の背中を見送った。

 ――さて、今日は疲れたし宿屋に泊って寝るか。

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