第2話
森を抜け、草原を歩くと数分もしないうちに、村へと到着する。
木造の家が数軒建ち並び、RPGによく出てくる草木に囲まれた長閑な雰囲気が漂う小さな村だ。
ご親切に村の出入口に看板が立てられていて、ナチャーラ村と書かれていた。
正面には2軒の建物があって、ドアの上にそれぞれ道具屋と宿屋と書かれた看板が取り付けられていた。
道具屋の方は、ドアに、『働いてくれる人 募集!』
と、書かれた紙が貼られている。
所持金無しで、村の入口にこれがあるって、なんか誘導されている感が半端ないな……。
きっとこれ、俺に向けられているに違いない。
――まぁ、金がないのは困るし、嫌だったら辞めればいいんだから入ってみるか!
俺は道具屋の方へ向い、店のドアを開けた。
「いらっしゃい。何にする?」
正面にカウンターがあり、そこから店主らしき口髭を生やした30~40代ぐらいのオッサンが大きな声で話しかけてくる。
ここにきて初めて人を見たが、ゲームのキャラクターが目の前にいるような感じだな。
ということは、俺の顔もそんな感じになっているという事か。
俺はキョロキョロと店の中を見ながら、奥に進む。
――さすが道具屋。
盾や兜、そして鎧に剣と、様々なものが棚や壁に並んでいる。
あれは薬草か。
ちゃんと値札の下に説明文が書かれているので直ぐに分かった。
カウンターの前に立つと「いや客じゃなくて、外の看板を見て、ここで働きたいなって思って来たんだ」
と、店主らしき男に声をかけた。
「おぉ! そういう事か! だったら早速、働くかね!?」
「はい」
「おぉ! そうか、そうか。じゃあこっちに来てくれ」
オッサンはそう言って、店の奥の方へと歩き出す。
このオッサン、何でこんなにテンションが高いんだ?
俺はそう思いながら後に続いた。
オッサンは奥の部屋のドアを開けると、中に入る。
「ここが君の仕事場だ。さぁ、入ってくれ」
うわぁ……入れってどうやって入ればいいの?
部屋の中は、埃の被った木箱が
これ、よくRPGのミニゲームにある上手く退かさないと抜け出せなくなるやつ~。
とりあえず腹を引っ込めながら、横歩きで狭い隙間を通って、立ち止まる。
「散らかっていて悪いが、この倉庫の整理を頼む」
本当に悪いよ。よくこれで店をやっていたな。
「分かりました」
「そういえば、自己紹介がまだだったな。私はこの店の主だ。君の名前は?」
「友成です」
「トモナリか、分かった。それじゃ宜しく頼むよ」
「はい!」
オッサンがバタンッと勢いよくドアを閉めると、埃が舞い散る。
「ゴホッ……ゴホッ……、もっと優しく閉めて~」
とりあえず、窓はないのか?
キョロキョロと部屋の中を見渡すが、それらしきものは無い。
仕方ない。オッサンに掃除道具を借りて、掃除をしながら作業をするか。
※※※
――簡単に掃除を済ませ、木箱の整理に取り掛かる。
小太りではあるが、元の世界で何十キロとある材料を持ち上げたり、段取り替えをしたりと力仕事はあったので、割りとスムーズに作業が進む。
「まさか異世界に来てまで力仕事をすることになるとは思わなかったけどね」
俺がそう呟くと突然、ドアがバンっと勢いよく開き、オッサンが入って来る。
「うわぁ!」
ガサツなのは分かっていたけど、もっと優しくドアを開けて~。
心臓に悪いわ!
「どうしたんですか?」
「ちょっと用事が出来た。カウンターを頼む!」
「えぇ~~~! 俺、レジなんてやったことないですよ!?」
それに異世界の物の価値なんて分からない!
「大丈夫、大丈夫。トモナリなら出来るよ!」
うわぁ……何、この現実でもたまにある根拠のない自信は……。
「じゃあ、行ってくる! 頼んだよ!」
オッサンはそう言って、部屋を出て行ってしまった。
ただ茫然と立ち尽くす俺……。
もう、どうなっても知らんからな。
俺はそう思いながら、カウンターの方へと向かった。
※※※
品物には値札が貼られているから、売る分には困らないと思う。
だけど問題なのは――。
「あ、いらっしゃいませ」
店のドアが開き、スキンヘッドのおじいちゃんが入って来る。
おじいちゃんはヨボヨボと歩きながら、真っ直ぐカウンターに近づいてきた。
「何にします?」
「こいつを売りに来たんだが」
と、おじいちゃんは懐から薬草を取り出した。
問題だと思っていたことが、直ぐに来るなんて早速、困ったぞ。
――確か薬草は倉庫にもあったから、ここは買わずにやり過ごすか。
「すみません。物がいっぱいなので買えません」
俺は謝って、ペコリと頭を下げた。
「なんだと! じゃあこんな店、二度と来ない!」
スキンヘッドのおじいさんは頭から湯気を立て、出入口の方へと行ってしまった。
そんなに怒らなくても……。
続いて、赤い鎧を着た金髪お姉さんが来店する。
カウンターの前に立つと、太くてデコボコした木の棒をカウンターに置いた。
「この棍棒を売りたい。いくらなら買ってくれる?」
またまた困ったぞ、うちには棍棒はない。
断ることもできるけど、また怒られても嫌だしな……。
「20Gならどうですか?」
金髪お姉さんはニコッと微笑む。
「売った!」
表情からして、満足してくれたようだ。
俺は20G支払い、棍棒を受け取った。
本当にこれで良かったのか?
そう疑問に思いながらも、満足そうに帰るお姉さんを見送ると、今度はまたスキンヘッドのおじいちゃんが現れる。
もう二度と来ないんじゃ……。
ゲームの世界では使い回しはよくあること、気にしないでおこう。
「いらっしゃませ」
「おぉ、その棍棒。背中を掻くのに丁度よさそうだのぅ」
「え?」
この棍棒、結構太いよ?
服、伸びちゃわない?
――まぁ、その人の勝手だから良いけど、設定が面白い。
「50Gでどうじゃ?」
『50Gで売りますか? はい・いいえ』
「うわぁ! な、何!?」
突然、脳裏に野太い男の声が聞こえてくる。
これってゲームでよくあるやつ?
びっくりするなぁ……。
どうせ脳裏に流れるんだったら、綺麗なお姉さんを彷彿させる声にしてくれないかな?
まぁ、無理だろうけど。
それより50Gか、悪くない気がする。
「分かりました。売ります」
「おぉ、そうか。では約束の50Gじゃ」
と、おじいちゃんは50Gをカウンターに置いた。
俺は回収すると、棍棒を渡す。
「ありがとうございました!」
おじいちゃんは満足そうに笑顔を浮かべ、帰って行った。
なんだか経営シミュレーションゲームをしているようで、楽しくなってきた。
「よし! この調子で、オッサンが驚くほど、稼いでやるぞ~」
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