現実世界に飽きたので、ゲームの世界に入り込み、サブキャラの女の子とイチャイチャして過ごしたいと思います。~何の取り柄もないオッサンだけど、勇者を導きながら、女の子のイベントを楽しみますね

二重人格

第1話

 終業時間まであと15分……明日は休み!

 早く……早くチャイムが鳴りやがれ!


 俺は薄汚れたボロい工場の壁に掛かった時計をチラチラ見ながら、射出成形機を止める準備を始めた。


 いつも通りに行けば、13、4分には止め終わるはず。

 そうしたら出来あがった製品の外観を見て、判断が終わる頃にはチャイムが鳴るはずだ!


 ――着々と時間が経過し、15分経つと、学校と同じチャイムが流れる。

 よっしゃ! 予想通り!

 

 俺は合格品置場に100円ショップによく売られている白色のトレーを置くと、スッと立ち上がった。


 まぁこれぐらいの予想、10年以上も勤めていれば、誰だって出来るんだけどな。

 さて、帰るぞ~。


「お疲れ様でした」


 ボソッと周りにいる同僚に声を掛けて、更衣室へと向かう。

 どうも挨拶は苦手だ。

 出来れば誰にも声を掛けずに帰りたい。


「お、友成。もう帰るのか、早いな」


 更衣室に入ろうとドアノブを握った所で、係長が声を掛けてくる。


「今日はゲームの発売日なので!」

「もしかして魔王討伐か?」


 この係長。こういう趣味に対して偏見を持つ事無く接してくれるから、こちらも気持ち良く会話ができる。

 

「はい! よくご存知で」

「凄い特典が入っていると噂になっているからな。明日から休みだからといって、あまり夜更かしするなよ。もうそんなに若くないんだから」

「はい、ありがとうございます。お疲れ様でした」


 係長はニコリと微笑み「お疲れ様」

 と、返してくれた。


 係長は現場の方へと歩いて行き、俺は更衣室のドアを開ける。

 自分のロッカーに向かい、扉を開けると、カーキ色のジャケットを取り出して、羽織った。


 よし! ゲームを予約した電気屋に向かうぞ!

 俺は更衣室を出て、急いで靴を履き換えると、玄関を出た。


 長く勤めてはいるが俺は平社員。

 車を停めるのは会社の裏側の遠い駐車場と決まっていた。

 早足で駐車場へと向かう。


 ゲームは予約しているので確実に手に入るが、初回特典+数名に限り特別な特典が入っていると宣伝されているから、焦ってしまう。


 ――どうか手に入りますように。

 俺はそう願いながら、車に乗り込んだ。

 

 ※※※


 数十分車を走らせ電気屋に到着する。

 車を降りて店に向かうとレジに向かった。


「――すみません。魔王討伐を予約した者ですが」


 そう言って、予約した時に書いた用紙のコピーを店員に差し出す。


「はい。少々お待ちください」


 店員は用紙を回収すると、後ろを振り向き、棚からソフトを取り出した。


「これで間違いないでしょうか?」


 ソフトの表紙にはデカデカと魔王討伐とタイトルが書かれており、中央には茶髪で短髪の青い鎧を身に纏った勇者らしき男が剣を構え、悪魔のような顔に黒いローブを羽織った魔王らしき魔物と戦おうとしているシーンが描かれていた。

 いかにもRPGゲームといったデザインだ。


「はい。大丈夫です」 

「ありがとうございます」


 店員はそう言うと、ソフトをビニール袋に入れて、渡してくれた。

 俺はペコリと頭を下げて、店の出入口へと向かう。

 さて目的のものは手に入ったし、帰るか。

 

 ※※※

 上手く停めないと出られないぐらいに狭い駐車場に軽自動車を止めると、築50年以上の古い木造アパートのドアを開け、部屋の中に入る。


「ただいまー」

 

 独り身だから返事なんて返ってくるはずもない。

 静まり返る部屋を感じ、少し寂しくなってしまった。


 俺は部屋の電気を点けると、点々と置いてあるゴミ袋を避けながら、奥へと進む。

 小さく丸いテーブルの上は、飲みかけの飲み物や食べ掛けのお菓子に占領されているので、買ってきたソフトは床に置く。


「さて直ぐに開封したいけど、着替えてからにするか」


 床に転がっているジーパンと白いTシャツ、そして赤と白のチェックのシャツを手に取ると、着替えを始める。


 脱ぎ終わった作業着を床に捨て、床に置いたソフトを手に取る。

 爪でビニール袋を破ろうとするが、焦っているせいか、なかなか上手くいかない。

 イライラするわー。


 仕方ないのでテーブルに転がっているボールペンを手に取り、穴を開けた。

 はち切れんばかりに胸をドキドキさせながらケースを開けて、中身を確認する。

 

 ――そこにはCDに説明書、そして初回特典のカードが入っていた。

 あとは特に何もない。

 カードはゲーム機に挿入すると、イベントが増えるってやつだから……。


「もしかして外れた?」

 

 だよねー、数名だもんねー。

 分かってはいたものの、ショックは大きい。

 とりあえず、ポテチでも食べてゲームでもするかー。


 机に置いてある筒型のポテトチップスの蓋を開けると、2枚を手に取りそのまま口に入れた。

 ボリボリと音を鳴らしながら、ゲーム機の電源を入れる。


「カードを差し込んで……」


 いつも通りゲーム機は動き出し、パッケージと同じデザインのタイトル画面が出てくる。

 コントローラーを握り、スタートを選択する。

 すると――。


「な、なに!?」


 突然、眩いばかりの光がゲーム機から発せられ、何が何だか分からない状況になる。

 俺は目を瞑るしか出来なかった。

 ――少しして、ソッと目を開けてみる。


「これって……」


 俺は見た事もない森の中で一人、佇んでいた。

 まじかよ……まじかよ……まじかよ!


「当たりだったんじゃねぇか!」


 本当にゲームの世界に転移できるゲームを開発するなんて、スゲェーなあの会社!

 嬉しさのあまり、小躍りしてしまう。

 

 これで毎日、くさい臭いを嗅ぎながら、単調な作業をしなくて済む!

 俺の事を知っている奴なんて居ないし、人の顔色窺って生活しなくて済む!

 何も気にせず、この世界でありのままの自分で過ごせるんだ!

 ヒャッホー!!!

 

「――おっと! こんな所で踊っていて、魔物に襲われて死んだなんて、いや過ぎる。とりあえず今の状況を確認して、人の居る所に向かうか」


 えっと装備というか着ているものは……。

 白のチェニックに茶色の長ズボン、そして黒の皮靴か。

 俺の着ていた服は、どこいったんだ?

 ――まぁ、どうでもいいか。


 次に持ち物は……。

 布の袋に、中にはこの世界の地図?

 お金は?


 ガサゴソと漁ってみるものの、それらしきものは――ない! 

 まじかよ……。

 村か町に着いたら、仕事を探さなきゃ。


 持ち物はこれっぽっちか……。

 そういえば容姿はどうなっているんだ?

 体をみる感じでは、小太りの体系のままだから、きっと……。

 期待しないでおくか。


「さて、どんな事が待っているのかな~♪ 俺の目的、叶うといいなぁ~♪」


 俺は鼻歌交じりで、微かに草原が見える方へと歩き出した。

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