第10話 少女、ランクが上がる

 子竜にという名前を付け、共に行動することになった少女。事の発端となった冒険者達を連れ帰ろうとするが、問題が起きる。


「この冒険者達どうやって連れて行こうかしら?」


 大人しくなっていた冒険者達を連れ帰る手段がなかった。このまま連れて歩くという方法もあるが逃げられる可能性もある。そうなった場合、面倒なことになるのは分かりきっていた。


『なんだ?そやつらの運び方を悩んどるのか?』


「えぇ、途中で逃げることを考えるとこのまま連れて行けなくて。」


『ならば話は早い。我らが運べばよかろう。』


「いいの?私としては助かるのだけど。」


『ただ、お主は妻の方に乗ってもらう必要があるが、問題ないだろう?』


「そこの4人を運んで貰えるだけでも助かるわ。それに滅多にできない体験ができるのよ?むしろこっちからお願いしたいわ。」


『決まったな。では、行こうか!』


 そういうとリンドブルムは4人を両手に持ち、飛び始めた。


『人を乗せて飛ぶのは初めてなの。落ちないようにね?』


「大丈夫、問題ないわ。行くわよ、アイリス。」


 私はアイリスを抱え、ファフニールの背に乗る。


『乗ったわね?それじゃ行くわよ!』


 ファフニールが羽ばたく度に高度が上がり、いつの間にか山の山頂よりも高くなっていた。


「へぇ、ここってこんなに広かったのね。」


 眼下には、魔の森が広がっていた。探索している時には感じていなかったが、上空から見るとその広さがわかった。


『そろそろ着くわ――――あら?』


 不意にファフニールが声を上げる。


「どうしたの?」


『どうやら先に行った夫が囲まれているようで。』


「あっ!」


 そりゃそうだ。いきなり竜が街に来たのだ、問題にならないわけが無い。


「完っ全に忘れてたわ。そりゃあ囲われるわよね。ごめん、私のミスだわ。ちょっと急いでくれる?」


『えぇ、分かったわ。』


 はぁ、私としたことがこんなにミスをするなんて。とりあえず説明しないといけないわね。


 ――しばらくしてリンドブルムの近くにファフニールが降りた。予想通り竜が来たことによりパニックになっているようだ。


『だから我はこの者共を運んだだけと言っているだろうが!』


 どうやら、説明をしているようだが私以外には咆哮にしか聞こえてないだろう。冒険者と思われしき人達が武器を構えているのが、離れていてもわかった。


「はいはーい。双方落ち着きましょうね。」


『おぉ!ようやく着いたか!早くこやつらに説明してくれ。武器を向けられると落ち着かん!』


「それは分かったけど、多分私以外にはただの咆哮にしか聞こえてないわよ。人の言葉は話せないの?」


『そうか、お主があまりにも自然に会話するものだから勘違いしておったわ。ただ人の話す言葉はこの姿では話せぬ。』


「話せないなら、こっちで通訳するけど――」


『いや――』


 リンドブルムが呟いた瞬間、巨体が光に包まれた。


「こうすれば良い。だろ?」


 光が収まると、銀色の髪をした男が立っていた。


「もしかしてリンドブルム?人の姿になれたの?」


「あぁ、ある程度力があるドラゴンは人化ができるからな。」


「そんなこと知らないわよ。もしかしてファフニールも?」


「えぇ、もちろん私もできますよ。」


 声が聞こえた方向には、長い金色の髪をした穏やかそうな女性が立っていた。


「まぁいいわ。そのことは後で話しましょ。まずはこの騒ぎを沈めないと。」


 後ろで冒険者達が惚けてるからね。あとなんで原因の4人が混ざってるのかしら?


「そうであったな。だが、我が言ったところで聞く耳を持たぬだろう、だからお主の方から言ってくれぬか?」


「さっきの騒ぎじゃ仕方ないわね。ただし荒っぽくなるわよ。」


 久しぶりにやるとしますか。ただ今回は試しに魔力乗せてみましょうか。それじゃ――


 大きく息を吸い込み、そして――――――


「総員気をつけ!!!!!!」


 少女は街中に聞こえると思われる程の大音量で号令をかけた。すると、騒いでいた冒険者、兵士達は気をつけの姿勢をとり、静かになった。


「よし。静かになったわね。さてこれからこの2人、リンドブルムとファフニールがここに来た理由を説明するわね。みんなちゃんと聞くのよ。」


「「「「はいっ!」」」」


 ちょっとやりすぎたかしら・・・


 少女は若干後悔しながら、これまでの経緯を説明した。


 リンドブルムが連れてきた4人が縄張りを荒らした挙句、その子供をさらおうとしたこと。自分が止めて(八つ当たり)いなければ街に攻めていたこと。


 それらを説明し終わると、いつ間にかいたギルドマスターが質問をした。


「つまりは、わしらがこの4人に対してどういった処罰を受けるを与えるかによって、彼らの対応が決まると言うことでいいかのう?」


「大半はそれであってるわ。ただ処罰が軽い場合、2人が街に攻め込むことはないわ。4人の冒険者がこの世界から消えるだけよ。」


「なるほど、よくわかった。彼らにはそれ相応の罰を下そう。1歩間違えばこの街が滅んでいたかもしれないからのう。」


「分かったわ。その事を2人に伝えるわね。あぁそれと、この子がさらわれそうになった子よ。名前はアイリス。これから私と一緒に行動することになったから。」


「はぁ、二天龍と知り合い、その上希少種のクリスタルドラゴンを仲間になどCランクには置いておけんわ。」


 なんか色々心労が溜まったような呟きが聞こえた気がするけど気のせいよね。


 話もまとまったし2人に伝えてきましょうか。


 リンドブルムとファフニールの所に戻ると、何故かファフニールがリンドブルムに拘束されていた。


「2人とも何してるの?」


「戻ったか。顔を見るに我らでも満足な結果になったのだな?そうだな?」


「そうだけど、何してるの?」


「あなた、離してください。いくら私でもここではしませんよ。ただちょっと相手してもらうだけで――」


「そんなことしたら周囲の地形が変わるわ!」


「いや、本当に何してんの?」


「こやつはな、昔から自分より強そうな相手を見つけるとところ構わずに勝負を仕掛ける癖があるのだ。ここ数百年はこんなこと無かったのだが、先程の気迫に当てられ――」


「私に勝負を挑もうと?」


「うむ。」


 まさかの戦闘狂だった。それもかなり重度の。こうしてリンドブルムと話してる間もひしひしと視線というか圧を感じる。


 こういうタイプって相手にしないとしつこいのよねぇ。仕方ないか。


「この騒動が終わって落ち着いたら、相手になるわよ。ただし、まだ手加減とか出来ないからね。」


「それで構いませんよ。きちんと相手してくださるのなら。」


 うわぁ、なんか相手しない場合はわかってますよね?という副音声が聞こえる。


「いいのか、ヒサメ?我が言うのもなんだか、妻はかなり強いぞ?」


「いいわ。なんなら私もちょっと楽しみにしてるし。」


「そ、そうか・・・」


 あれ?なんか引かれた。だって数百年もの間、自分より強い相手がいなかったんでしょ?つまり、それほど強いってことじゃない。強さなんていくらあっても足りないんだし。


「それじゃ、私は1回ギルドの方に戻るわね。2人も戻らないと、まだ騒ぎ始めるわよ?」


「むっ、それは困るな。では帰るとするか。ヒサメ!またな!」


「ヒサメさん、忘れないでくださいね?」


 2人は竜の姿に戻って帰って行った。


「さて、私達も行きましょうか、アイリス。」


『うん!』


 それから、私達はギルドへ戻って行った。


 ――ギルドに戻ると、


「ヒサメさん!帰って来たんですね!?」


「えぇ、戻ったわ。けどどうしたの?そんなに慌てて。」


 どうやらミーコだけではなく、受付自体が慌ただしくしている。


「ドラゴンが来たんですよ!?それも二天龍が!」


 なんか新しい単語が出たわね。


「二天龍?リンドブルムとファフニールのこと?」


「そうです!その2頭です!その2頭がこの街に来たんですよ!?」


 うーん、さっきその2人は帰ったことを伝えた方がいいかしら?それに、私も思いっきり関わってるし。伝えましょうか。ミーコもそのことて忙しいかもしれないし。


「彼らだったら帰ったわよ。」


「え?」


 ミーコが固まってしまった。そんなにあの2人恐れられてるのかしら?


「だから帰ったわよ。」


「ちょ、ちょっと待ってください!まさか、傍にいた2頭を従えてた冒険者というのは・・・」


「私ね。」


「何してるんですか!?」


「色々と事情があるのよ。あとギルマスは戻ってきてる?」


「はぁ戻って来てますよ。案内しますね。」


 ミーコは疲れたように、ギルドマスターの部屋へと案内してくれた。


「やっと来たか。」


「そんなに待たせた記憶はないんだけど?」


「お前さんがおらんとどうにもならんのがあるんじゃよ。」


「あの4人の事ね。冒険者を辞めさせるか、街を追い出すかにすればいいんじゃない?」


 それだけのことをしでかしたのよ。命があるだけマシだでしょう。


「やはりそうなるか。ワシとしてはあまりやりたくなかったんじゃが・・・わかった、この件はこちらでどうにかしよう。それよりお主のことじゃ。」


「私の?思い当たる節がないのだけど?」


 冒険者になって1日目でリンドブルムとファフニールと知り合ったり、怒ってるリンドブルムを一撃で沈めたり、ファフニールと勝負する約束したり、アイリスが一緒に行動することになったり――――――


 あれ?もしかして色々とやらかしてる?


「ランクじゃ、ランク。どこの世界に二天龍の片割れを一撃で沈めるCランクがおるんじゃ。」


「ここ、ここ」


 自分を指さしながら、答える。


「知っとるわ!」


 むぅ、正直に答えたのに・・・


「もうワシにはお主がこれから問題を起こす未来しか見えん。なのでお主のランクをAにあげることにした。」


「あれ?一気にAランクは色々と面倒くさいんじゃなくてったの?」


 確かミーコに言われた気がするが・・・


「お主がこれからやらかしそうなことに比べたら楽なもんよ。ほれ、はようミーコに手続きをしてもらえ。」


 ギルマスは、私を部屋から半ば強引に追い出した。


「何よもう。まぁ、忙しくさせたのは私だからあんまり言えないんだけどね。ねぇアイリス。」


 街に入ってから、ずっと頭の上にいるアイリスに話しかけた。


『ヒサメ、ねむい。』


「そうね、随分と遅くなっちゃったし寝てていいわよ。」


 気づけば、深夜になっていた。それでもここが騒がしいのは、冒険者ギルドだからだろう。


『うん、おやすみ。』


 そういうとアイリスは寝息を立て始めた。慣れないところに来て疲れたのだろう。


「おやすみ、アイリス。」


 私は、寝たアイリスを一撫ですると、受付へと歩いていった。


 ――受付では未だ受付嬢達が忙しくしていた。


「ミーコ、今大丈夫かしら?」


「はい。とりあえずは。」


 先程とは違い、疲れが顔に出ていた。


「えっと疲れてるところ悪いけど、ランクを更新するようにギルマスに言われたんだけど・・・」


「ランクの更新ですね。でしたらこちらでしますね。」


 ギルドカードを受け取るとミーコは奥に下がって行った。


 ――直後


「Aランク!?」


 ミーコの声が響き渡ったと思ったら、こちらに向かって走ってきた。


「ヒサメさん!Aランクってどういうことですか!?私何も聞いてませんよ!?」


「えーと、ギルマスから、お前はこれからやらかすだろうから、と。」


「やらかすって何したんですか!?」


「言わなきゃダメ?」


「ダメですっ!」


 言いたくない。ものすごく言いたくない。けど言わないと逃がさないという、ミーコからの圧が――


 ええい、どうにでもなれ!


「怒ってたリンドブルムを一撃で沈めました。」


 言った瞬間、今まで騒がしかったギルドが静まり返った。


 そして――


「「「「えーーーーーーーーーー!」」」」


 絶叫が響いた。


「うるさい!アイリスが起きるでしょうが!」


「「「「すみません!?」」」」


 はぁ、だから言いたくなかったのよ。ギルマスの反応でどうなるかわかってたから。


「とりあえず更新と依頼の報告だけして、今日は帰るわね。」


「明日詳しく聞かせてくださいね!絶対ですよ!」


「分かったわ。」


 そこからミーコの仕事は早かった。ランクの更新を済ませたと思ったら、すぐに依頼完了の処理を済ませた。


「ありがとう。それじゃまた明日ね。」


 ――そう言ってギルドを出ると、とあることに気づいた。


「あっ!寝るとこどうしよう・・・」

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