第9話 少女、子竜を仲間にする

魔法の使い方を思い出した時、何故か1匹と4人が正座していた。


「あなた達さっきまでそこの竜に追いかけられてなかった?なんで一緒に正座してるのよ?」


「そ、それはあまりの気迫に圧倒されて身体が自然と。」


「ふーん、で?そこの竜は?」


『我を一撃で沈めた相手に逆らえるわけがないであろう。』


「それもそうね。てか何であんなに怒ってたのよ?」


忘れかけてた疑問を口にすると、竜は


『こやつらが我の縄張りを荒らした挙句、我が子までさらおうとしていたのだ!』


竜は一際大きい咆哮を上げる。相当御立腹のようだ。


「へぇ、縄張りを荒らした挙句、子供までねぇ?そこのとこどうなの?冒険者さん?」


若干の怒りを滲ませながら、私は4人組へ問いかけた。


「そ、そんなことしてねぇ!探索してたらいきなり襲われ――「はい、嘘。」え?」


「あなたねぇ、私は嘘を聞きたいわけじゃないの。分かる?それにあなた達、ランク低いでしょ?」


私は取り出した茜吹雪で肩を叩きながら言った。


「もう一度聞くわ。あなた達はそこの竜の縄張りを荒らしたうえに、子供までさらおうとしたの?」


訊ねると同時に、殺気を出すと青い顔で頷いた。


「そ、そうだ。あんたの言う通りだ。」


「そう、本当なのね。」


私はそれだけ呟くと再び竜の方に話しかけた。


「こいつらをここで始末してもいいけど、どうする?一応冒険者みたいだし、死んでも魔物にやられたことになるけど。」


『だがそれではまた同じことが起きるのではないか?』


「起きるわね。それも危険と判断されて討伐依頼まで出るかもしれないわ。」


人間とはそういうものだ。自分たちに害があると分かればすぐに排除しようとする。それだけに収まればいいが、加減などせず絶滅に追い込む場合もある。


「だから、こちらで一応説明してみるわ。ま、ダメだった場合は私も見限るだけだし。」


『そうか、ならば任せるとしよう。我はリンドブルム!この山の頂点に君臨するものだ!』


「私は宵桜氷雨。Cランクの冒険者で龍人よ。」


『龍人とな!?通りで強いはずだ!だとしたら――』


「どうしたの?」


『いや、我が子をお主のそばに置いていた方が良いのではないかと思ってな。』


この竜は一体何を言っているのだろう?


「何言ってるの?私達初対面よ?普通そんな人に子供を託す?」


『普通は有り得ぬな。だがお主は龍人であろう?そんなお主だからこそだ。それにそろそろ我が子にも世界を見せてみようと思っていたのだ。』


「そんな事言われてもねぇ。」


そう、私自身まだこの世界に来て1日も経っていないのだ。そんな状態で預かる事など、到底できない。


『お主がいればどんな事でも、何とかなるじゃろ?少なくとも我にはお主の底が見えん。もしや神とかではないだろうな?』


「そんなわけ無いでしょ。死神とか呼ばれてるけど、神とかではないわ。」


ほんと、私をなんだと思ってるのかしら?今まで死神とは言われ続けて来たけど、まだ人だったはずよ?この世界に来るまでは。


「はぁ、けどそこまで言うならいいわよ。ただしどうなっても知らないわよ?」


『何を言う。我ですらかなわぬと思うほどだ!何があろうと大丈夫であろう!では、我が子を連れてくるとしよう。』


そういうとリンドブルムは飛んで行った。


すると今まで空気だった4人組が口を開いた。


「あんた一体何者なんだ?どうしてドラゴンと会話してんだよ。それにCランクだって!?ありえねぇ!」


「さぁ、そんな事言われても知らないわよ。会話できるのだって種族のせいでしょ。」


まだ後ろで色々と喚いているが、待ってる間に魔法を試して見ましょうか。


火は何かあると大変だし、風も加減を間違えたら大変なことになりそうね。うーん、氷だったら形を作るだけでもいけないかしら?大丈夫よね。だったらますば、空気中の水分を凍らせて、その上で構造をハニカム構造にすれば――


体内の魔力を操作し、それらのイメージを形にしようと奮闘していると、


を獲得しました


により、に変化しました


私の手にはこおりで出来た刀が握られていた。


「おっ、出来たわ。けど問題は強度よね?」


もし、これがと同等かそれ以上の強度ならば、これから先の私自身の戦いの幅がさらに広がる。


武器だけでは無い、イメージ通りになるのなら即席で防具が作れることになる。


そう思うと、わくわくが止まらなかった。


私は冰刀ひょうとうを地面に置き、茜吹雪を上段に構えた。


そして――


「月華一刀流 弍の型 月影」


魔力を纏わせた茜吹雪を振り下ろした。


それだけで数十メートルもの地面に斬撃の跡が残った。


壱の型が抜刀による神速の一撃ならば、弍の型は戦車などを切り裂くための一撃だ。更にそれを魔力で強化しているので本来のものとは比べ物にならないほどの威力になっている。


だが、冰刀には傷1つ付いていなかった。


「なるほど、傷すら付かないと。様々な形を作れる上に頑丈。最高じゃない!」


私の機嫌は一気に上がった。


こちらの世界に来てから茜吹雪を二度使用したが、魔力の影響か変質しているように感じた。おそらく星蒔吹雪、神威、村正も同様に変質しているだろう。


どのようになってるか分からない以上あまり使用はしたくない。1番弱い(そう思ってるだけ)茜吹雪でさえこれなのだ。


1回性能再確認しないと、使えないわね。出来れば壊すものがないところがいいのだけど――


『待たせたな。』


考えでいると、リンドブルムが戻ってきた。よく見るとそばに小さい竜がいる。本当に連れてきたらしい。


「その子が?鱗の色があなたと違うみたいだけど。」


リンドブルムが銀色に対し、子竜の鱗は水晶のように透明だった。


『あぁ、それについては我らの特性なのだ。我ら竜は産まれる時に種類が決まるのだ。だから親と同じ種類になることはあまりないのだ。』


「へぇ、そんなことあるのね。ところでこの子の名前は?」


『それがまだ決まってなくてな。せっかくだしお主が付けてみるか?』


「あのねぇ、名前って大事なものよ。それを今日知り合った人に任せる?任せないでしょ。」


『我だって見知らぬ奴に頼んだりせんわ!』


「じゃあちゃんと親として名前を――」


『なまえ?』


私とリンドブルムが言い争いをしているといつの間にかそばにいた子竜が聞いてきた。


『なまえ、ほしい!おねえさんからがいい!』


「ッ!」


ねぇ、おねえちゃん!わたし、じぶんのなまえがほしい!


なんであの子達のことを――


『おぉ!そうかこのお姉ちゃんからがいいか。けどいいのか?名は1度もらうと二度と変えれぬぞ?』


『うん!このおねえちゃんがいい!だっておねえちゃんからはわるいかんじがしないもん!』


そうか、似てるんだ。あの子達と。私が守れなかった妹達に――


『ん?どうした?雰囲気が暗くなっとるぞ。もしかして嫌だったか?だったら我が妻と考えるが。』


『そうですよ、あなた。』


凛とした声が聞こえたと思ったら、今度は金色の竜が山頂から飛んできた。


「妻?てことはこの竜があなたの奥さんなの?」


『うむ、彼女が我が妻だ!』


『はじめまして、龍人さん。私はファフニール、そこにいる、リンドブルムの妻をしています。』


ファフニールと名乗った竜は礼儀正しく、自己紹介をしてくれた。


「えぇ、はじめまして。私は宵桜氷雨、冒険者をしてるわ。といっても、今日なったばかりなんだけどね。」


『あら?そうなの?それにしては随分強そうだけど?』


「それに関しては色々とあるから、あまり触れないでもらえると嬉しいわ。」


すると、そばに居た子竜が


『まま!わたしこのおねえちゃんになまえつけてもらいたい!』


『あらあら、ちゃんとおねえちゃんに許可はとったの?じゃないとダメよ?』


まさかの母親も公認だった。


『おねえちゃん!なまえつけて!』


そう聞いてくる。


あの子達と同じように、キラキラした眼差しで。


そんな目をされちゃ断れじゃない。


「わかったわ。けどあんまり期待はしないでね。」


『わーい!』


名前って言ってもねぇ。そういえばこの子の鱗って所々、虹色になってるのよね。確か、クォーツに中が虹色に見えるものがあったはず――



『ほう、アイリスか。良い名だ。』


『えぇ、本当に良い名前だわ。けど、どうしてその名前に?』


「アイリスクォーツっていう、水晶の中に虹が閉じ込められたようなものがあるのよ。それにこの子の鱗も所々虹色があるからよ。」


本来は水晶の中にクラック(ひび割れ)が生じ、クラック面が光を反射する際に虹色の輝きを放つもののことをいう。この子竜の鱗がどういった原理で虹色になってるか分からないが、それでも見るものを魅力する点ではあっていると思う。


「気に入って貰えたかしら?」


私は子竜にたずねてみた。


『アイリス、アイリス!うん、きにいった!ありがとう!』


「ふふっ、良かったわ。私は氷雨、これからよろしくね、アイリス。」


そうして、少女に新たな仲間が加わった。

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