第7話 少女、冒険者になる 2
「はじめっ!」
その言葉を聞いた瞬間、私は駆け出した。
「ッ!」
狙いは神官らしき女性。過去部下から聞いた内容にヒーラーと呼ばれる職があるという。そして基本的にヒーラーは、パーティーの後方にいるという。
現在、相手の後方には3人いる。弓矢持ちと杖持ちが2人だ。弓矢持ちは攻撃要員だろう。ならば、残りの杖持ちのうちどちらかがヒーラーとなる。しかし、私にはどちらがヒーラーかは分からない。
だから、勘に頼ることにした。
「まずは1人。」
神官らしき女性に拳が当たる直前、嫌な予感がし、攻撃を中断した。そしてすぐさま後ろへ飛んだ。
ドゴンッ!!
私が飛んだ直後、何かが振り下ろされた。それは地面を陥没させる程の威力があり、くらえば一溜りもないだろう。
「マジかよ。今のを避けるか。一体どんな感覚してんだよ?」
振り下ろされたものの正体は、大男の拳だった。
「割と速く動いたはずなんだけど、見えていたのかしら?それにその威力は一体何なのかしら?」
そう、威力がおかしいのだ。大男が振り下ろした速度はそこそこ速かった。だがそれだけでは、あの威力の説明がつかない。すると、
「俺の職業は魔拳士、自分の魔力を拳に纏わせ、威力をあげることができるものだ。にしても嬢ちゃん何者だ?この俺でもギリギリ追えるレベルとか、本当に新人か?」
魔拳士聞けば反則級だ。自分の攻撃の威力をあげる?そんなもの受ければ一溜りもない。
「ええ。まだ冒険者にもなってないヒヨっ子よ。」
面白い。そんなものは元の世界には存在しない。だからこそだろう、私はいつの間にか笑っていた。
「怯む様子もなく、笑うか。嬢ちゃんよっぽどだな。だけどどうする、俺を倒さなければ他の仲間には攻撃できないぞ?」
上等。そう思い構えた時、
『エアカッター!』
不可視の刃がこちらに向かって飛んできた。私はそれを身体を逸らすだけで回避すると、今度は矢が飛んできた。
それらをたたき落とすと、今度は大男がこちらに近づいてきていた。既に攻撃を放とうとしている。
避ける?冗談じゃない。あちらは連携しているのだ。避けたところで次の攻撃がくる。ならば、迎え撃つのみ!
私は大男に合わせるように拳を突き出した。
べキッ!
骨が折れる音が響き渡った。神官らしき女性も弓矢を持った女性も杖持ちの少年が驚愕している。大男も同じ反応をしている。
「お前馬鹿か!」
大男は叫ぶ。当然だろう、私の腕は今、骨が皮膚を突き破っているのだから。
だが私はそんなのどうでもよかった。拳同士が当たった瞬間別の力を感じた。おそらく大男が纏わせていた魔力だろう。そして今、私はそれと同じものを自分の中に感じていた。
魔力感知を獲得しました
なるほど、これが魔力というものね。確かに今まで私には無かったものだわ。これを使うことによって魔法が使えるようになるのね。ならばこれを自分に纏わせれば?治癒に使えば?そう思い、魔力を操作していた。
魔力操作を獲得しました
纏いを獲得しました
治癒魔法を獲得しました
治癒能力向上を獲得しました
天照大神の加護により治癒魔法が再生魔法に変化しました
私の腕は温かな光に包まれ、気づけば元に戻っていた。
「こんなこともできるのね。魔法って便利ねぇ。」
「魔法は使えなかったんじゃないのか?それに詠唱をなんでしてねぇ。」
大男を含むパーティーは呆然としていた。
「?なんのこと?詠唱?そんなもの必要なの?それにこれは今使えるようになったのよ。あなたの攻撃から魔力というものを理解したから。」
「はぁ!?」
「まだ攻撃には使えないけど、身体に纏わせることはできたわ。さぁ、続きをしましょ?」
「ちっ。とんでもねぇ嬢ちゃんだ!」
大男は再度構えた。それにつられるように他の仲間も戦闘態勢に入った。
「魔力を使えるようになったお礼にちょっと力を出すわね。」
大太刀茜吹雪を取り出し構えた。
再度戦いが始まる。
「はぁッ!」
最初に動いたのは大男だった。放とうとしている拳は急所を捉えてる。当たれば魔力を纏っている状態でも危ういだろう。だが、
「月華一刀流 壱の型 孤月」
その呟きが聞こえた時には、大男の意識は闇に沈んでいた。
周囲は静まり返っている。それは大男が急に倒れたことにか、それとも少女が自分の背丈以上の刀をいつの間にかに抜いていた事にか。
いずれにせよ、正直が大男を倒したことは明らかだった。それからは早かった。魔力を纏っている少女を残りの3人は捉えることが出来ずに沈んでいった。
実力を確かめるはずの戦いは少女の圧勝で終わった。
そして、
「おめでとうございます!今日からよろしくお願いしますね!」
少女は冒険者となった。
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