④
放課後、航平が家に訪れていた。小中一緒なので家も近く、ゲームをする時に隣にいた方が色々と勝手がいいからとのことで彼は僕の家に来ることが多かった。
私服に着替えた僕らは、ベッドに腰を下ろして横長のゲーム機を操作する。
「あーやばいやばいしぬしぬ」
隣に座る航平が口早に言う。
同時、僕はコントローラーのスティックを傾けて航平の救助に向かう。
僕が彼の元について敵と応戦する頃には彼の体力ゲージは微々たるものしか残っておらず、まさに間一髪のところだった。
「おっけー」
相手プレイヤーを倒して僕は呟く。
「回復できそ?」
「いやちょっと足らんねぇ」
「あげるよ」
僕は彼に近づき自身のアイテムを彼に手渡す。そしたら彼のゲージがだんだんと増えていった。
「さんきゅー!」
画面に視線を落としながら、でも彼は確かにお礼を言う。
「せっかく金武器にしたんだからさ、死んだらもったいない。てめぇらに差し上げる金武器はねぇってこった」
口悪くそう吐き捨てる彼に僕は若干口元を弛めながら、試合に集中する。
それから数分後、僕らのチームは最後の人チームと交戦した末、見事に勝利をもぎ取った。
画面中央にデカデカとvictoryの文字が表示されて、僕らは一旦ゲーム機を手放す。
「なんとか勝てた」
「いやぁやばかったな途中。もう全滅しそうだったし」
「運がよかったね」
僕が彼に向けてはにかむと、彼もにっこりと笑う。
「しかしまぁ疲れたわなぁ」
んー、と両の手を上に突き出して伸びをする航平。
卓上の時計に目をやると航平がウチにやって来てから一時間と少しは経っていた。
何戦かしていたわけだから別におかしいことはないもないんだけど、無意識とは言えここまでの間集中し続けているとやっぱり体に負担はかかっている。
「お腹空いたなぁ」
「そうだね。何か食べる?」
「おう。何かもらえるならありがたい」
彼がそう呟くので、僕はよいしょと腰を持ち上げる。
ちょうど僕もお腹が空いた頃だったし、喉もかわいたのでお菓子とお茶を取りに行こうと思った。
立ち上がった僕を見て「着いていこうか?」とベッドから動こうとしたけど、僕は数回横に首を振る。
「ありがとな」
ドアを閉めて階段を降りリビングに入って適当におぼんを一つ手に持つ。
冷蔵庫から麦茶のボトル、棚から二つのコップ、そしてカゴの中に放り込まれた数個のお菓子袋を数秒じっと見て、ポテトチップスの袋をおぼんに乗せる。
それらを持って上がると階段を昇る音で気が付いたのか、航平がドアを開けてくれる。円形のテーブルに置いてコップにお茶をつぐと、彼はポテトチップスの袋を開けた。
「そういえば昨日の追加のストーリも可愛かったよな、有田さん」
ポテトチップスを互いに何枚か口に入れた後、彼は言う。
「透輝も見てたんじゃないのか? 珍しくオンラインだったし」
彼の問いに僕はうんと頷いた。まだ口の中にポテトチップスが残っているので喋れなかったから。
なるべく早く咀嚼して、ウーロン茶で口の中にあるカスを流して後、僕は彼の言葉を継いだ。
「ちょっとした出来心で開けたんだ。ストーリーも見たよ、正直あんまりにも可愛すぎて絶句した」
素直な感想を口から出すと、隣に座る彼があははと笑う。
「ゾッコンだな、まったく」
「……仕方ないでしょ。自覚はしてるけども」
若干自嘲気味にそう言うと、「まぁ初恋だもんなー」と天井の方に視線をやって、どこか俯瞰しているような調子で彼は言う。
「ウブだしなぁ」
「……うるさいなぁ」
「そんな怖い顔すんなって、褒めてるのさ、俺は」
そう言う彼の顔はニンマリと歪んでいて、なるほど、僕をからかって楽しんでいるんだね君は。
不満に思ってその色を顔を浮かべてみると、彼は「ごめんごめん」と明らかに謝罪の意なんてこもってなさそうな声で言う。
からかって、楽しそう――か。
ふと、お昼にあった出来事を思い出した。
「そう言えばさ、今日、有田さんに喋りかけられた」
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