第18話 学ぶ目的


「さて、レティシアお嬢様に魔法を教えるとのことですが……実はですな、アンリ様には最初お断りの返事をしていたのですよ」


(えっ!?何で……?)


 レティシアは内心で驚きの声を上げるが、一先ずは最後まで話を聞こうと大人しくしておく。


「あら、そうでしたの?では、今回お越しいただいたのは……」


「アンリ様からは、是非当人に会ってから決めてもらえないか?と言われましてな。……奥様は私が最初にお断りした理由は分りますかな?」


「……まだ5歳の娘には魔法を教えるのは早い、と?」


「その通りです。一般的には魔法を学ぶのは…早くとも10歳前後が妥当だと言われております」


「ええ、それは承知しております。その理由は、まだ分別のつかない子供に魔法を扱わせるのが危険だから…ですよね?」


「そうです。まだ魔力が少なく大きな魔法は使えないかもしれませんが…例え初級でも攻撃魔法は殺傷力がありますし、暴走させて術者自身が傷付く恐れもある。そのため、ある程度の年齢になるまでは教えないのが普通です」


「ええ、重々承知しております。つまり、アンリと話したのは……」


「ええ。実際にレティシア様にお会いして、年齢に関わらずそれだけの分別があるのかを見極める…ということです」


(ふむ……まあ、当たり前の話か。それでも、父さんは私の事を信じてこうやって先生を探してくれた…と。嬉しいね〜。自重しないで良かったよ!)


 自重する・しないなど、もはや忘却の彼方だったのだが…彼女は自分の都合の良いように解釈するのだった。









「では、見極めるにはどうすれば?」


「そうですな…アンリ様からは、とても5歳とは思えないほど、とは聞いておりますが……いくつかお嬢様に質問させていただきたい」


「はい!なんなりと!」


 レティシアは元気よく答える。

 問答の結果によっては教えてもらえない…そう考えると、否が応でも気合も入るというものだろう。



「先ず一番に聞きたいのは、お嬢様は何故魔法を学びたいか?ということです」


「何故……う〜ん?なぜ、と言うか…純粋に興味があったから…と言うのが一番なんですけど」


 改めて聞かれるとそうとしか言えない。


(ヤバっ…あまり良い答えじゃないかも?……でも)


「でも……あの、『魔道具』ってあるじゃないですか?私、ああ言う人の暮らしを便利にする道具を作りたいと思っていて…そのためには先ず魔法のことを知らなければ…って思ってます!」


「ふむ、なるほど…魔道具ですか。既に何か作りたいものがあるのですかな?」


 その質問に、我が意を得たりとばかりに即座に答える。


「はい!私は…乗り物を作りたいと思ってます!」


「乗り物?」


「はい!え〜と…たくさん人や物が運べて…馬車の何倍ものスピードで走る…そんな乗り物です。きっと、魔法の力が役に立つ…そんな気がするんです」


「…(随分と具体的なイメージがあるように聞こえる。子供の絵空事…と切って捨てるのは簡単だが……どうも、この子の話には不思議な説得力がある)」


「もしかして、工房に依頼していたのは…その乗り物の関係なのかしら?」


「うん、試作と言うか実験と言うか…まだまだ実現には程遠いと思うけど」


「「………」」


 やはり、レティシアはただの子供ではない。

 そう思ってアデリーヌもマティスも黙り込む。


 そして、マティスは決断をする。

 すなわち…


「分かりました。確かにアンリ様の言う通り、とても5歳のお嬢様とは思えませんな。…レティシアお嬢様が魔法を学びたい理由、中々に興味深い。私もそのお手伝いをさせて頂きたいと思います」


「!!あ、ありがとうございます!よろしくお願いします!」


「良かったわね、レティ。マティス様、娘のことよろしくお願いします」


「はい、お任せください」



 こうして、レティシアは正式に魔法を学ぶことになったのだった。


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