第9話 本の虫とピクニック

 レティシアは、最初こそ図書室から本を持ち出して自室で読んでいたのだが、それも面倒になって最近では図書室に籠もって読んでいる。

 目立たないように…と言うのはもはや忘却の彼方だ。

 彼女は一つのことに集中すると周りが見えなくなるタイプであった。



「あの子…ちょっと図書室に籠もりすぎじゃないかしら?」


 当然、そんな様子を見ている家族はレティシアの事が気になるわけで。

 母アデリーヌは、そう苦言を呈する。


「確かに…あのくらいの子はもう少し外に出たほうが良いかもしれないね」


「だったら僕が誘ってみましょうか?」


「いや、それよりもだな……」













「ピクニック…?」


「はい、今回は旦那様も比較的お時間がとれるので家族サービスを…とのことで。あとは、お嬢様が最近図書室に籠もりきりなのを気になさってるようですね」


「う〜ん…言われてみれば、確かに不健康だったかも?」


 なにせ、朝起きてから食事時以外は殆ど図書室にいるのだから…

 流石にやりすぎだったか、とレティシアは思った。


(でも、ピクニックか……そう言えば、私ってあまり邸の敷地から外に出た記憶がないね?なんせウチって広いんだよな〜…庭を散歩するだけでも、それこそピクニックみたいなものだし。流石は公爵家ってとこだね)


 モーリス公爵家はイスパル王国でも有数の大貴族であり、王家にも連なる由緒正しい家である

 当然その邸は広大で、幼いレティシアだと一日では探索しきれない程だ。

 だから、これまで敷地の外に出なくても不自由を感じたことなどなかった。


 公爵家があるのは、かつて王都として栄え、遷都後もイスパル王国第二の都市として栄華を誇るイスパルナ。

 父や母に連れられて何度かは街に出たことはあるが、殆ど馬車の中だったと記憶している。



「うん、分かったよ。今日は天気もいいし、楽しそうだね」


「ええ。料理長も腕によりをかけてお弁当を用意して下さいますよ」


「うわ〜、それは楽しみだね〜」


 レティシアがこの世界で良かったと思ったのは、料理が前世と遜色ないくらいに美味しいことだった。

 前世では料理などしたことが無かったので、その点は大変ありがたかった。


(料理チートなんて出来そうにないしね。普通にお米とかあるし…和食っぽい料理もあるらしいし。そうだ、今度料理長に頼んで作ってもらお)


 図書室にある本の中には料理本もあったので、レティシアはこの世界の食文化についてもある程度の知識を得ていた。




「では、お支度をさせて頂きますね」


「うん、お願い」


 そうして、レティシアは外出の支度をしてもらうため鏡の前に座る。

 前世の記憶を思い出す前からやってもらっていたと言う事もあるが、女の子の支度なんて分からないのでそのままお願いすることにしている。



(しかし……客観的に見ても、私って凄く整った顔をしてるよね。ゆるふわの金髪に青い瞳…まさにお人形って感じ。将来は間違いなく美少女になるよ。…ちょっとナルシストっぽいな。気をつけないと)


 もともとレティシアはまだ幼かったので、自分の容姿の美醜にはそれほど興味はなかった。

 前世の記憶を思い出したあとは…あまりにも前世と違うので、自分自身の顔という認識があまり持てないのだ。


(ま、それもそのうち慣れるでしょ…)


 男から女に変ったのに比べれば些細なことだ…と彼女は思った。



 彼女がそんな事を考えている間にも、エリーシャはテキパキと髪を整え、クローゼットから選んできた動きやすい服に着替えさせてくれる。



「はい、これでいかがでしょうか。今日もとても可愛らしくてお似合いですよ」


「うん、ありがとう!エリーシャ!」


「どういたしまして。では、参りましょうか」


 支度を終えたレティシアたちは自室を出て、家族が待つ部屋へと向かうのであった。

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