第8話 生きる目的


 レティシアが前世の記憶を思い出してから一月が経とうとしていた。

 その間、本を読み漁って至った一つの結論が彼女にはあった。


 それは…



「この世界には……鉄道が無いっ!!」


 彼女は、邸の雰囲気から何となく文明レベルを察していたので予想はしていた。

 だが、一縷の望みを捨てずに様々な本を読んで世界の知識を学んでいたのだが、最終的にはその結論に至ったのだった。


 前世の記憶を取り戻した時と同じような絶望が彼女に襲いかかろうとしていたが、何とか平静を保とうとする。

 前向きに生きようと、家族を悲しませることはしないと決めたのだから。


 だが、どうしても落ち込んでしまうのは仕方のないことだ。


「はぁ〜……何てこと。せめて新しい世界でも鉄道の旅を楽しめれば…って希望を抱いてたんだけどなぁ……これじゃあ、泣きっ面に蜂だよねぇ……」


 新たな世界で生きるための希望と考えていたものが存在しないと判明し、一気に気分が落ち込む。



(調べられたのは殆どこの大陸の事だから…もしかしたらもっと文明が進んだ地域があるのかもしれないけど。それを期待するのは現実的ではないよね…)


 この世界…と言うか大陸の移動手段を調べても、徒歩か馬車、稀に飛龍なんてのもあるみたいだが、何れにせよ鉄道や自動車などの近世的なものは無かった。

 そもそも、いつも父が帰ってくるときは馬車に乗ってるので分かってはいたのだ。

 諦めきれなかっただけだ。


 だが、結論は出てしまった。



(でも…移動手段はそんな感じなのに、それ以外の部分では前世と遜色がないところもあるんだよね……例えば、この窓ガラス)


 窓際に立ち思案にくれていたところ目に入った窓ガラスを指でなぞりながら考える。


(透明で平滑で厚さも均一に見える。これを作るにはかなりの技術が要るはずだ。他にも…そういう物は随所に見られる。……もしかしたら、魔法があることが関係してるのかも?)


 魔法があることによって前世とは異なる文明発展の仕方をしているのかも…とレティシアは考える。


(加工技術は思いのほか優れている気がする。一方で電気とかは無いから家電は無いし、石油化学製品っぽい物なんかも当然無い。でも、電気がなくても魔法で明かりは灯せる……これ、魔道具って言うんだっけ)


 彼女は、今度は天井を振り仰ぎ、部屋を煌々と照らす明かりを見る。

 それは、部屋の入口にある金属板を操作すると明かりが点くのだが…

 何故、明かりが点くのか?

 それをエリーシャに聞いた時、この金属板に触れた者の『魔力』を吸い取って点くのだと教えてくれた。

 そういった魔法の原理を使って作動する道具全般を『魔道具』と言う事も。



(技術的な背景は思ったよりあるのかもしれない。だったら……!)


 再びレティシアの瞳に希望の光が宿る。


「…無ければ作る。それしかない」


 それは遠い道のりだろう。

 だが、自らの望みを叶えるには自らが動かなくては始まらない。

 何事も。


(やるかやらないか、二つに一つ。その選択肢ならやるしかないだろう。とことんやって駄目なら諦めだってつく。…多分)


 そうやってレティシアは決意する。

 この世界に鉄道を敷設することを。










(さて。やると決めたは良いけど…何から手を付ければ良いのやら)


 具体的な計画を立てるために、頭の中を整理していく。


(いくら前世の知識があっても、この世界の文明レベルで直ぐに使えるものは少ないだろう。基礎的な技術から多くの課題をブレイクスルーしないといけない。そして、肝になるのは魔法…魔道具なんじゃないかと思う。……そういえば、このあいだ母さんから『何か勉強したいことはある?』って聞かれたから、魔法を学びたいって答えたんだっけ。…あとは、やっぱりこの世界の知識を…もっと知らなければ。取り敢えずウチの図書室にある本はすべて読もう)



 そうして、レティシアはますます図書室に入り浸るようになるのだった。

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