第49話:暗闇の先にある光
視界がよくなると、一気に形勢はこちらに傾いた。
にゃびと協力してゴブリンキングと剣で対峙しつつ、プチ・ファイアストームで群れているゴブリンを焼き払う。
剣スキルの相殺も、一対一だからなせる業。
にゃびと俺が同時に攻撃を仕掛ければ、相殺出来るのはどちらか片方だけ。
見習い召喚士にクラスチェンジした影響なのか、にゃびが次にどう仕掛けようとしているのか手に取るように分かる。
きっとにゃびの方でもそうなんだろうな。
以前はチラりと俺の方を見ては、連携を確認していた。だが今はそのチラりもない。
なのに連携の練度は以前以上。
「にゃび、そろそろ終わらせよう」
「うにゃー。おいにゃとロイドで倒すにゃ!」
俺のプチバッシュと、にゃびの月光の爪。
俺のプチスラッシュと、にゃびの爆連。
そのうちゴブリンキングが疲れの色を見せると、スキルの相殺すら出来なくなった。
そして──
「ゴガ……ゴフッ」
ずどーんっと音を立て、ゴブリンキングは倒れた。
口から血泡を吐き出し、手足はピクピクと痙攣している。
それも数秒のこと。
ごぼっと血の塊が噴き出すと、それっきり動かなくなった。
「凄い! ゴブリンキングを倒しちゃうなんて、二人とも凄いわっ」
「いにゃ~。それほどでもあるにゃけどぉ」
「んー。ロイド、にゃびはなんて言ったの?」
「それほどでもあるってさ。謙虚さが全くないんだよ、にゃびって」
「にゅふふ~ん」
髭をぴーんっと伸ばし、鼻先を上にして腰に手を当てる。
そんな姿も猫故に可愛い。
「他のゴブリンは逃げていったね。追いかけるべきか……」
「うにゃ~。巣穴に逃げ帰っただろうし、明るくなってからがいいにゃよ」
「にゃびは何て言ったか分からないけど、ゴブリンは追わなくてもいいと思うわ」
「にゃびもそう言ってる。まぁ冒険者を雇いに行ってるし、彼らの分を残しておいてやった方がいいか」
それに、巣穴の中は迷路のようになっているっていうのはよく聞く話だ。
少ない人数で穴に入っても、取り逃がしてしまう可能性が高い。
逃がせばゴブリンはまた別の場所で群れを作るだけだ。
巣穴のゴブリンは根絶やしにしなきゃならない。
自分たちの王が倒され、今は恐怖で巣穴に引き籠るだろう。
明日は巣穴を探して、入口に松明を用意しておこう。
「はぁあぁぁぁ? ゴ、ゴブリンキングを倒しただと?」
村へ戻ってくると、火は全部消し止められていた。
燃えたのは古い納屋だけで、それも屋根部分を少しだけ。実害はほとんどないという。
森でのことをコスタカさんに話すと、彼は驚いたような呆れたような、そんな声を上げた。
「でも逃げ帰ったゴブリンもいるんで、後日、一掃作戦は必要かと」
「お、おう……ま、なぁその通りだ。っかし、本当に倒したのか?」
「森にいたいが転がってますよ。ダンジョンモンスターと違って、その場に残るし」
「そりゃそうだが……明るくなってから回収するか……」
もうすっかり陽も落ち、雨雲もあるせいで辺りは真っ暗だ。
そしてついに、ぽつ、ぽつと雨が落ちて来た。
村長さん宅に駆けこみ、ゴブリンキングを倒したことを報告。
すると村長は、雨が降り始めたというのに外へ飛び出して行って大声で叫んだ。
「ゴブリンキングを、やっつけたぞーっ!」
小雨なのもあって、その声は村中に響いた。
そしてあちこちの家の戸が開き、村人たちが歓喜の声を上げて出て来た。
笑顔の溢れるこの光景を見て、本当に来てよかったと思う。
ただ、風邪……ひかないといいなと心配にもなった。
念のため夜は交代で起きてることにしたけど、朝までゴブリンのゴの字もなく。
雨も止み、青空の広がるすがすがしい朝を迎えた。
朝食前に、村人たちと森に入ってゴブリンキングを倒した場所へ。
そこにはモヒカン頭のゴブリンが横たわり、近くには質素な王冠が転がっていた。
「この王冠からすると、ゴブリンキングに進化してまだ日が浅かったようだ」
「王冠で分かるんですか?」
拾い上げた王冠を手に、コスタカさんがそう話す。
「あぁ。この王冠は木製だ。石も一つしかハマってねえ。王冠は部下共が作る。鉄や黄金を扱えるゴブリンに育つまで、結構年数がいるからな」
なるほど。
群れ自体がまだ実力のついていない状態だったのか。
「ま、それはそれ。いくら日が浅くても、ゴブリンキングはキングだ。素人冒険者にゃ、絶対に倒せない敵だろうよ。お前ら、すげーなぁ」
「それはまぁ、にゃびのおかげかなぁ」
「ん? にゃびの?」
もしくは、コポトのおかげかなぁ。
昨夜、ステータスボードを確認したら、職業はやっぱり見習い召喚士になっていた。
習得スキルの項目に『従魔同期』というのが追加されていた。
このスキルは、ある程度の信頼関係がないと発生しないとあった。
短期間でにゃびと信頼関係が築けたのは、コポトとにゃびの信頼関係あってのことだろう。
人間と従魔は主と下僕の関係ではなく──親友だったからこそ。
コポト、ありがとう。
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