第48話
ゴブリンキングの誘いに乗るしかなかった。
案の定、森の中が暗くて視界が悪い。
ルナやにゃびは暗視、そして種族特性として暗闇でもある程度は見える。
だけど俺には暗視スキルはないし、人間は暗闇で物を見る能力なんて持っていない。
「"プチ・ファイアストーム"!」
「ゴギャアアァァァァッ」
攻撃と同時に辺りを照らす。明るくなっているうちに、状況を確認しなきゃならない。
「"プチ・ファイア"!」
とにかく火を絶やさず、常に攻撃し続けよう。
「明るいにゃねぇ~」
「ロイドのおかげでよく見えるわ」
「お役に立ててなによりだ」
そんな会話をする余裕ぐらいは、まだある。
だが──
「ゴアアアァァァッ!!」
奴が動いた。
「"プチ・ファイア"!」
突進してくるゴブリンキングへと火球を放つ。
躱そうともせず、まっすぐ──うえぇ!? グーパンチで火球を払いのけてしまった!
そのまま、やたら幅広の剣を振り回し向かってくる。
ギリギリのところで攻撃を躱し、こちらも短剣を引き抜いた。
次々繰り出される攻撃をいなすので精いっぱいだ。
「くそっ。こいつ、魔法スキルを撃たせないつもりか!」
「ロイド、大丈夫にゃか!?」
「なんとかっ」
スキルレベルも上がった。ステータスだってそうだ。
ゴブリンなんて雑魚同然。そんな風に思っていたけど、こいつは別格だな。
とにかく攻撃が早い。息つく暇もなく、常にあの極太剣を受け流すので必死だ。
そうなると、辺りを照らす明かりがなくなる。
くそっ。
けど、さすがに目の前にいるゴブリンキングは見えてるさ。
「はは、残念だったな。陽が沈むにはまだ間がある。いくら曇っていると言っても、多少は明るいんだ。目の前にいるお前ぐらい、しっかり見えてるぞ」
「ゴホォ。グフフ」
笑った?
「ロイド、右!!」
「躱すにゃ!」
え──
二人の声が聞こえた直後、右足に激痛が走る。
「痛っ──」
「ゴホッホグフフゥ」
ゴブリンキングに気を取られて、周りの雑魚のことを忘れていた。
しかも俺には見えない距離から、矢を射ってきたのかっ。
くそっ。じきに陽が沈む。そうなったら今よりも更に見えにくくなるんだぞ。
魔法スキルさえ使えれば!
「"プチ・バッシュ"!」
「ゴブルッ」
くそっ。あっちも固有スキルかなにかなのか、相殺される。
「ロイド、おいにゃと変わるにゃっ」
「にゃびっ」
「おいにゃがロイドの目の代りになるにゃから、ロイドは安心して魔法を使うにゃ!」
ババっと飛び出してきたにゃびが、俺と入れ替わる形でゴブリンキングと対峙する。
距離を取れたことで、ようやく俺は魔法スキルを撃てるようになった。
「右手の方角にゃ!」
「"プチ・ファイアストーム"!」
「「ブギャアアァァァァーッ」」
にゃびが指示する方角に迷わず魔法をぶっ放す。
俺にとっては暗闇にしか見えないそこには、ゴブリンが群がっていた。
ゴブリンキングと対峙しながら、にゃびは雑魚ゴブリンが群れいる場所を的確に教えてくれる。
その言葉に迷うことなく、俺はプチ・ファイアストームを撃ち続けた。
今更ながら、にゃびと俺は従魔契約で繋がっているんだなと思う。
召喚士ではないから、特に何をするという訳でもない。
でもにゃびは確かに繋がっている。
コポトから託された絆を、感じるんだ。
そう……こんな風に胸が熱くなるような絆を……熱く?
その時、ブゥンっと音が聞こえた気がして視界に文字が浮かんだ。
【『見習い召喚士』にクラスチェンジしました】
【スキル『従魔同期』を習得しました】
──と。
その瞬間、これまで少し先は暗くて見えなかったのがハッキリと見えるようになった。
「おわっ!? え、ええ??」
ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。
ゴブリンだらけだ!
ちょっと気持ち悪いほどいる。
「どうしたにゃ!?」
「タック?」
「いや、あの……なんか急に世界が明るくなったなって思って。いや明るい訳じゃないか」
ゴブリンキングと対峙している時は、暗くても至近距離だったから見えていた。
その見えていた範囲が突然広がった感じだ。
見習い召喚士にクラスチェンジ……任意のクラスチェンジ以外もあるのか!?
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