第47話:襲撃

 敵だけを燃やす。

 ゴブリンだけを燃やす。


 つまり畑の野菜は無事!?

 っと、ちょっと不安に思いながらマホウスキルを使ってみたけど、これが大成功。

 野菜は無事。

 焦げたのはゴブリンだけだった。


「ゴ、ゴブ……」

「ゴブゴブブ」


 スキルの範囲外だったゴブリンたちが、恐れをなして後ずさりする。

 だけど背後から続々と増援ゴブリンが押し寄せてきているもんだから、すぐに雄叫びを上げてまた突っ込んで来た。


「"インパクトアロー"」


 畑の手前に矢が突き刺さり、特攻してきた増援ゴブリンを吹き飛ばす。

 仕留めそこなったさっきのゴブリンは、にゃびが既に倒していた。


「お、おいおい。お前ら、随分と強ぇーじゃねえか」

「ダンジョンで経験を積みましたから」


 その経験を、効率よく吸収する手段を得たからってのが一番大きいんだろうな。


 増援ギブリンが村の方へ行かないよう、プチ・ロックウォールで壁を作る。

 必然的にゴブリンたちは、俺たちのいる畑に進むしかなくなった。

 それが余計に苛立つんだろう。


「ギギャアアァァーッ!」


 奇声を発しながらゴブリンたちが駆けてきた。

 プチ・ファイアストームで遠距離から攻撃。接近されればプチ・バーストブレイクで蹴散らす。

 ルナとにゃびも連携し、ルナが遠距離から数を減らし、突破してきたゴブリンをにゃぎが瞬殺していった。


 やがて畑に近寄ろうとするゴブリンがいなくなり、にゃびがしびれを切らせて柵を飛び越えた。


「にゃびっ、深追いはするな」

「でもこいつら、弱いにゃよ。さっさと全部やっつければ、ゆっくりご飯も食べられるにゃ」

「にゃび、どうしたの?」

「ゆっくりご飯が食べたいから、あいつら全部倒すんだってさ」

「最後にはご飯に行きつくのね」


 とルナが呆れたように笑う。


「にゃ~。食べることは生きることにゃよ」


 深いなぁ。実に深い。

 にゃびの言うことにも一理ある。

 こいつら、怖気づいて近寄っては来ないけど、逃げもしない。

 逃げずに居座るなら倒さなきゃ、この村の安全だって守れないもんな。


 にゃびに続いて柵から出ると、ゴブリンたちは威嚇するように奇声を発した。


 群がるゴブリンに向かって、プチ・ファイアフトームを放つ。


「これでも逃げないのか?」

「おかしいにゃあ。ゴブリンは弱虫で臆病なヤツにゃ。こんなに仲間がやられてるのに、逃げないなんて変にゃ」

「ねぇロイド……森に向かってプチ・ファイアを撃ってくれない?」

「森の奥に?」


 ルナが森の奥を見つめる。

 するとにゃびが俺の体を駆け上り、肩に足をついて立ち上がった。


「何か見えるにゃけど、遠くだからよく見えないにゃ。ロイド、プチ・ファイアするにゃ」

「明かり代わりか。了解──"プチ・ファイア"!」


 攻撃には使わず、最大射程まで飛ばすことを意識して火球を放った。

 ゴブリンの頭上を飛び、木々を避け、最期はしぼむようにして消えた火球。


「見えたにゃ!」

「何あれ!?」


 俺にも見えた。ただシルエットが浮かんだだけで、ハッキリとは分からない。

 ちょっと大きなゴブリン、みたいな?


「ロイド、ゴブリンキングが出て来たにゃよ!」

「まるでオークみたい……武器持ちのゴブリンを従えてるようだわ」

「にゃびはゴブリンキングだって言ってる。まさか自ら出て来るとは思わなかったな」

「ゴブリンキング!? ど、どうするの?」


 どうするって……向こうの出方次第だな。

 村を襲おうとするなら倒さなきゃならないし、引くなら……いや、引くのか?

 引くためにわざわざ出てくるか?


「うにゃー。あいつ、動かなくなったにゃあ」

「止まったのか?」

「プチ・ファイアするにゃよ」


 にゃびに言われてもう一発投げる。

 たしかに、さき見えたシルエットの位置から動いてないな。

 なんでだ?


「くそ。賢い奴だ」

「コスタカさん?」

「奴はお前たちを森に誘い込もうとしているんだろう。森の中のほうが、ゴブリンにとって有利だからな」


 小柄な上に、足場の悪い森で暮らすゴブリンならにとって、あそこは独壇場って訳か。

 しかも森の中には明かりがない。

 たぶんもう夕方なんだろうけど、いつの間にか空には分厚い雨雲が立ち込めていた。

 おかげで森の中は夜同然に真っ暗。夜目を持たない俺では、まともに戦えないだろう。


 ダンジョンは常はどんな階層でも、ある程度の明るさがキープされている。

 地上との大きな違いはここだ。

 

 あいつ、分かっているから動かないのか。


「ここからじゃ魔法スキルも届かないし……くそっ。絶妙な距離に陣取りやがって」

「松明を持って行って、足元に置くしかねえか」

「でもコスタカさん。それだったら万が一木に燃え移ったら大変よ」

「そりゃ……そうだが……」


 夜になればゴブリンキングも動くだろうか。

 もう少し近づいてくれれば、村の松明で少しは明かるくなるんだけど。


 そんなことを考えていると、ヒュンっと音がして……

 プチ・ロックウォールの向こう側で、火の手が上がった。


「火矢を打ち込んだんだわ!」

「ゴブリンが火矢を!?」

「飛び道具を使ってきやがったか。テコでも動かねぇようだな、あいつら」


 奴らが近づいて来ることは……なさそうだ。

 なら行くしかない。


「にゃび、ルナ。準備はいいかい?」

「もちろんよ」

「もちろんにゃ」


 よし。


「コスタカさん。あなたは火を消す手伝いに向かってください。万が一、ゴブリンが村に来た時には頼みます」

「わ、分かった。いいか、絶対に無理はするな。家は壊れてもまた建てればいい。だが死んでしまったら……どうやっても元には戻らないんだからな」


 俺たちは頷いた。

 分かっているつもりだ。命が大事だってことを。

 命を見て来たから、俺たちは!

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