第46話

 準備を整えてすぐに村へと向かった。

 村に到着したのは昼を少し過ぎた頃。

 森の近くにあるとはいえ、開けているので村には太陽の日差しがしっかりと届いている。

 

 地上に生息するゴブリンは、太陽を嫌う。

 日差しの届かない森の中なら日中でも行動しているが、基本は夜行性だ。


 到着してすぐに俺たちは村長宅で休ませて貰った。

 こんな時間だから熟睡は出来ないけれど、今夜は夜通し起きていなきゃならなくなる。


 陽が暮れる前にうたた寝から目覚め、食事をしてから村の周りをぐるりと一周。


「松明を増やしたほうが良くないですか?」

「そうだな。なければ焚火でもいい。とにかく明るくしよう。村長」

「すぐに村のもんに伝えよう」


 部屋を提供してくれた村長が、すぐに引き返す。

 太陽を嫌うゴブリンは、当然のように明かりも嫌う。

 村から少し離れた畑にも松明を掲げ、ゴブリンが襲って来た時にも姿を確認しやすいようにもした。

 それから──


「カカシ、ですか?」


 コスタカさんが、使われていないカカシを集めて欲しいと村の人たちに声を掛けている。

 

「松明から少し離したところでな、こいつらを立てておくんだ。そうすると、あいつらは人間がいると思って警戒するんだよ」

「ゴブリンはバカにゃからなぁ」

「ゴブリンは頭が良くないものね」


 にゃびとルナが同じことを言う。

 直接言葉のやりとりは出来なくても、同じこと考えてるんだよなぁ。


「こうしてカカシに武器っぽいものを持たせておけば、冒険者が来てると思わせる事も出来る」

「手伝います」


 作業は納屋で行った。ゴブリンに見られる訳にはいかないからな。

 村の人からナイフや斧を借りて、それをカカシに括りつけた。

 暗くなったら、これ見よがしに武器を手にした俺たちがカカシを運び出す。

 まるで仲間と談笑しながら歩いている──ように見せながら。


 成果があったのか、遠くからゴブリンの声が聞こえるものの姿を現したのは二度だけ。

 畑の方からやって来たゴブリンは、俺たちがあっさり撃退。


 東の空が白み始めたら、すぐにカカシを撤去。

 今夜また使うからな。まだゴブリンにはバレたくない。


「二回襲撃してきたけど、あの程度ならどうってことないな」

「そもそもゴブリンなんて雑魚だもの。五匹程度じゃ苦戦する訳がないのよ」

「うにゃ~」


 それでも、以前の俺だったら苦戦していたかもしれない。ひとりだったら確実にそうだな。

 だけど今は違う。

 ステータスボードのおかげで強くなったし、仲間もいる。


 だけどコスタカさんは浮かない顔をしていた。


 倒したゴブリンの遺体の傍に膝を突き、奴らの装備を確認している。

 まぁゴブリンの装備と言っても、腰に布を巻きつけ、木の棒を振り回すだ──いや違う。

 二回の襲撃は、どちらも五匹でやって来た。

 五匹のうち一匹は皮鎧を身に着け、短剣を手に持っていた。


「マズイな」


 コスタカさんが舌打ちする。

 ゴブリンは元々、単独で行動することは少ない。

 所謂雑魚モンスターだ。一匹では鍬を持った村人にすら負けてしまう。

 だから最低でも二匹、たいていは三匹で行動している。五匹で行動していることだって、そう珍しいって訳じゃない。

 ただ……


「まともな武器を持ったゴブリンが、最低でも一匹混ざっていた。あれは統率されたゴブリンだ」

「統率……まさか、変異個体が現れた?」


 変異個体──進化とも呼ばれるその個体は、同種の中でもずば抜けた力を持っている。

 知能、筋力、肉体。全てにおいて同種の中でも規格外だ。

 

 ゴブリンキング。

 ゴブリンたちを統べるもの。


 数百匹の群れが出来上がると、極稀に変異してゴブリンキングになる奴がいる。

 ゴブリンキングが現れたってのも脅威だけど、そこには数百匹のゴブリンの群れが存在するという事実がある。

 一匹では雑魚でも、数が集まればゴブリンでも脅威だ。


「今夜は襲撃回数が増えるかもな」


 コスタカさんはそう言って、村の北側にある森を見つめた。






 夜が明けて朝食を済ませてから眠った。

 夕刻前に起こして欲しいとは頼んだけど、やたらと慌ただしい起こされ方をした。

  

「大変だコスタカ。ゴブリンがっ、ゴブリンが森から出て来た!」

「んぁ? 村長──こんな明るい時間に?」

「寝ぼけてないで、起きてくれ」


 ゴブリンだって!?

 カーテンを捲って外を見ると、空は雲一面に覆われていた。

 太陽が隠れたことで森から出て来たのか?


「にゃび!」

「うにゃにゃっ。ご飯かにゃ?」

「寝ぼけてないで起きろ。曇ったせいでゴブリンどもが昼間から出て来たんだよ」

「うにゃー!」


 隣の部屋で眠るルナも起こし、すぐに俺たちは外へと出た。

 雲に覆われているとはいえ、黒い雨雲じゃない。

 日差しがないってだけで、外はそれなりに明るかった。

 こんな明るいのに森から出てくるなんて。


「ロイド。畑の方みたい」

「行ってみよう」

「おいにゃ先に行ってるにゃよ」


 にゃびが駆け出す。その足音は一切聞こえない。忍び足の効果だろう。

 

 畑へと到着すると、既ににゃびの周りにはゴブリンの死体が。

 でもまだゴブリンたちはいる。


「二十匹以上いるわ。こんな数でゴブリンが行動するなんて」

「なんかいやぁな予感がする」

「嫌なニオイもするにゃよ」


 畑を囲むようにして、森からゴブリンがどんどんやって来る。

 その中には皮鎧を着こみ、短剣や斧、そして弓を持つゴブリンまでいた。

 普通なら人間を見ればすぐに襲ってくるはず。

 なのに遠巻きから俺たちを観察しているのか、襲ってはこない。


 普段とまったく違うゴブリンってのは気味が悪いな。

 さっさと終わらせよう。


「"プチ・ファイアストーム"」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る