第45話:冒険者の仕事
停留所のある大きな町から町へ。そこからまた徒歩で移動し、森の町ポポロへと到着した。
「ここがコポトの故郷……にゃび、彼の家は?」
「こっちにゃ~」
にゃびの足取りが軽い。コポトのことを思い出して、悲しみに押しつぶされる──なんてことはなさそうだ。
「街のすぐ隣は森なのね」
「だから森の町って言うのかな。でも森と聞くと、どうしてもモンスターを警戒するものだけど」
「うぅん、この辺りに生息するモンスターは、基本的に弱い部類だと思うわ。転職した私やにゃびのレベルも、もう上がらなくなっちゃったし」
ポポロまで歩いてくる間に、数匹のモンスターと戦った。というか、ほぼルナひとりで倒してしまったけど。
だけど二人のレベルはもう1すら上がらなくなっている。結局、レベル6止まりだ。
「弱いモンスターだと、ある程度の人数が揃っていれば襲って来ないわ。私の故郷の森がそうだもの」
「そっか。森からモンスターを追い払うのも条件で、昔の領主は君たち兎人の居住を許してくれたんだったね」
ルナが頷くと、遠くで「遅いにゃー」というにゃびの声が聞こえた。
急いで追いかけると、町の端、森に近い所までやって来た。
「ここがコポトの家にゃ。おーい、コスタカァ。にゃびが帰ったにゃー」
「あ、おいにゃび! 勝手に入っていくんじゃないっ」
万が一、コポトの家族が引っ越ししていて別の人が住んでいたり──はしていないようだ。
戸口まで駆け付けると、にゃびの頭を優しく撫でる男の人がいた。
彼が振り返る。その顔は笑顔を浮かべていたけれど、俺たちを見て、そしてにゃびを見て……膝をついた。
「そうか……そうか……」
それだけ言うと、彼はすすり泣いた。
「俺は後ろの森で狩りをして暮らしてる猟師だ。親父もそうだった。そのまた親父もだ」
コポトのことはルナとにゃびから伝えた。もちろん俺は通訳をして。
話し終えてから暫くの間、彼は自室に篭っていた。何をしていたのかは分かる。
その間、にゃびも別の部屋──コポトの部屋に篭った。
部屋から出てきたコポトの父親は少し目を腫らしていたが、笑顔を浮かべて俺たちに夕食をご馳走してくれた。
「先祖代々、ここで猟師をやっていたんですか?」
「あぁ、そうだ。そんな俺の息子が、まさか魔術師になるとは思っても見なかったぜ」
「召喚士にゃ。召喚士は魔術師の上位職にゃよ」
「あ? こいつなんて言ったんだ?」
「コポトは召喚士だって」
「あー、そうそう。それだそれ。前に町に来た魔術師に聞いたが、魔術師の工程を通らずに上位職になる奴もたまにいるんだってな」
そうらしい。その場合、よっぽど適性が高かったってことだ。
コポトは召喚士の適性が高かったんだろう。
「そんでよ、五歳の息子がいきなり二足歩行のでけー猫を連れて来て『お父さん、猫飼ってもいい?』ってんだよ。そん時の俺の気持ちが、二人には分かるか?」
言われて俺とルナはにゃびを見た。
「あー、今より少しは小さかったけどな。まぁこれぐらいだ」
とコポトの父、コスタカさんが指で示す。5センチ程度だ。
今のにゃびを5センチ縮めても、普通の猫よりデカいって。そんなのを幼い息子が連れてきたら、そりゃ驚くのレベルを超えているだろうな。
「お察しします」
「だろ? だろ? それをあいつときたら『普通の猫だよ』とか言い張るんだぜ」
「あの時はおいにゃも無茶だと思ったにゃよ。けど猫だって言い張って、結局コスタカが折れたにゃよ」
寛大な父親だな。
死を悼むより、生前の楽しい話で盛り上がった。
外がすっかり暗くなり、俺たちはコポトの家に泊めてもらうことになった。
翌日の朝はゆっくり休んで、庭先にある畑から野菜の収穫を手伝う。
その最中に客がやって来た。かなり慌てている様子だ。
「どうしたんですか?」
対応していたコスタカさんに声を掛ける。
少し待て──というジェスチャーをされ、俺たちは待つことにした。
やって来たのは森向こうにある村の人だってのが会話から分かる。
ゴブリン?
ゴブリンが出たって話が聞こえるな。
「分かった。今日から行こう」
「助かるよ。ギルドのあるスワーズの町には使いをもう出してある。すぐに依頼を受けてくれる冒険者が見つかっても、村へ到着するのに二日掛かるんだ」
「二日ならなんとかなるだろう」
「頼むよ」
村人はそう言うと、慌てて出て行った。
コスタカさんも畑の収穫を止め、家に戻るという。
「あの森の向こう側に村がある。その村の向こう側に小さな山があるんだが、そこに二年ぐらい前からゴブリンが住み着いてな」
「それが暴れているんですか?」
「五日前に家畜が襲われたらしい。それで終わればよかったんだが、一昨日と昨夜、また出たと」
「家畜を襲っても反撃してこない。それを知って味を占めたかな」
「だな」
冒険者を雇おうにも、ギルドのある町に行くしかない。運よく通りすがりの冒険者でもいればいいが、近くにダンジョンでもなければ用もないのに冒険者がいるはずない。
ま、ここに用があって来てる冒険者がいるけどね。
ルナとにゃびを見ると、二人は頷いている。
「俺はこれから村に行って、家畜番をしなきゃならねえんだ。せっかく来て貰ったのに、悪いな」
「じゃあ俺たちも行きますね」
「は? 何言ってんだ」
「何って、俺たち冒険者ですよ」
冒険者なら、困っている人を助けるのは当たり前だ。
きっとコポトがここにいたら、同じことをするだろう。
「さぁ、行こう。冒険者の仕事だ」
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