第43話:お尻のこと?
「じ、自分で払うからっ」
「いや、三人で決めたじゃん。宿泊代と食事代、あと野宿やダンジョン攻略に必要な物は共通の財布から出そうって」
「まにゃか~。もうお腹空いたにゃよぉ」
宿に到着していつものように部屋を一室借りようとしたら、ルナが「ひとり部屋がいい」と言い出した。
それに関して断る理由もなく。だってルナは女の子だし、俺だって不都合なことがある。
最近暑くて、寝る時に長いズボンを穿きたくない。出来ればパンツで寝たい。でも彼女がいたらそれも出来ないし。
で、支払いで揉めた。
自分でお金を出すって聞かないんだもんなぁ。
「にゃびもお腹空いたっていうし、早く支払いを済ませよう」
「えぇ。だから自分で──」
と聞かないから、俺は二部屋分のお金をカウンターへどんっと置いた。
「はぁ、やっとですかい。もういっそ同じ部屋に泊まればよかったのに」
「そ、そそ、それはダメなの!」
渡された鍵を持って、ルナは階段を駆け上がっていく。
宿屋の主人と目が合って、「痴話喧嘩かい?」と尋ねられた。
「どう、なんですかね? なんだか急に機嫌が悪くなったみたいで」
「はぁ……ダメだなぁ兄ちゃん。常に彼女の機嫌には最新の注意を払わなきゃよぉ。で、いつぐらいからだ。その前後に何があった?」
なんだかいろいろ聞かれたけど、人の良さそうなおじさんだったんで話をしてみた。
こういう商売していると、いろんなお客から話を聞いたりするだろうし、人生経験ってのもあるだろう。
いつ頃からと言われると……レゾの町の宿かなぁ?
「はぁ? ケツの話をしただぁ? おいおい、若い女の子にんな話するほうが間違ってんだろう」
「う……そう、ですよね」
「にゃあぁぁぁ、ご飯。ごはぁぁぁん」
「つかお前ぇら、話聞いてるとまだ付き合ってないのか?」
付き合って?
同じパーティーメンバーとして一緒にいるから、付き合ってるってことになる?
きょとんとしていると、宿のおじさんが呆れたように俺を見た。
「はぁぁぁぁぁぁ。ま、頑張れよ」
「あ、はい」
「ごはあああぁぁぁんっ」
「うみゃうみゃっ。んっぐ、おかわり欲しいにゃ」
「小さい体のどこにそんなに入るんだ。すみませーん」
俺らルナより体は小さいのに、食べる量は三倍はある。にゃびの胃袋は空間収納袋なのかもしれない。
「ご馳走様。私……お風呂入りたいから先行くわね」
「あ、うん……あ、寝る前にこっちの部屋に来て貰っていいかな? 大事な話があるから」
斥候レベルが上がっているから、ポイントをどうするか聞いておきたい。
「だ、大事っ。大事な……ぁ……う、うん」
ルナは頬を赤らめ、慌てて食堂を出て行った。
彼女が走り去るのを見送っていると、入口から宿の主人が顔を覗かせてにんまり笑うのが見えた。
な、なんの笑み?
にゃびが満腹したところで俺たちも風呂へと向かう。
従魔は湯舟には入れないけど、少し大きめの桶を借りればその中でなら入浴は可能。
にゃびは嫌がるけど、たまに入れないと埃まみれになってるからなぁ。
「ぅに"ゃお"ぉ"ぉ"ぉ"」
「諦めろにゃび。三日入ってないだろっ」
「まだ三日ぎゃあぁぁぁ」
最後の断末魔みたいな声出すなよ。なんか悪いことしているみたいじゃないか。
にゃびの全身を洗い終え、次は水気を拭き取る。
タオルがずぶ濡れになると、今度はにゃび自身で水気を蒸発させる。
「それって魔法なのか?」
「んー、そういうのとは違うにゃぁ。ネコマタは水が嫌いにゃから、誰でも出来るにゃ。魔力を全身い張り巡らせて、ジュワワ~ってするにゃよ」
「うん、分かった」
分からないことが分かった。
ただ、毛についた水分が多すぎるとうまく蒸発しないそうで、だから軽く拭き取ってやらなきゃならない。
風呂を終えて部屋に戻ると、にゃびはさっそくコポトのマントに包まって眠ってしまった。
暑くないんだろうか。
「っと、おいにゃび。お前のレベル上がってるから、ステータスどうするんだ?」
「うにゃあぁ……」
目を擦りながらステータスボードを見つめるにゃび。
レベルはまぁ2しか上がってないんだけどね。
「にゃっ。これにゃ」
「ん? 『二刀修練』か。そうだな、二刀流のにゃびにはピッタリなスキルかもな」
「ポイント全部使うにゃ。ステータスは筋力でいいにゃよ」
「分かった」
スキルポイントは6あったので『二刀修練』に全振りっと。
二刀流の際、利き手とは逆の手による攻撃は、命中率やダメージが落ちてしまう。
この二刀修練はそれを補うスキルだ。
ステータスポイントは前回振らずにいたので、それも合わせて7ポイントを筋力に。
レベルアップによる自動上昇もあって、159だったのが174に増えていた。
振り終えるとにゃびは再び眠ってしまう。
いいよなぁ、にゃびとルナは。
レベルアップで自動上昇している数値が高くて。
俺なんて1しか上がらないのにさ。
暫くして部屋の扉がノックされる、かなり小さな音がした。
扉を開けると立っていたのは当然ルナだけど、また顔が赤い。
「長風呂した?」
「へっ。あ、待った? ご、ごめんなさい、うん、ちょっと長かったかも?」
「うん、別に大丈夫。顔が赤いからのぼせてないかと思って」
「だ、大丈夫よ。えぇ、うん。その……心配……ぁ──とぅ」
後半は声が小さくて聞き取りづらかった。
彼女を部屋に招き入れ、にゃびが眠るベッドに腰かけるように促す。
本当に大丈夫かな?
いや、昨日からずっとこんな感じだな。
「ルナ、本当に大丈夫? 昨日からなんかずっと顔を赤らめてばかりだけど。体調悪いとかは本当にない?」
「な、ないわっ。そ、それよりロイド……あの、その……大事な話って」
「あ、うん。斥候のレベルが上がってるから、どうするのかなと思って」
「え……」
「レベル2だけど、二人とも転職に喜んでいたし」
そう話すと、ルナは項垂れてベッドからよろよろと立ち上がった。
「ル、ルナ?」
「──めておいて」
「え?」
「貯めておいてって言ったの! 私、もう寝るわっ」
なんで怒ってんの?
お尻のこと、まだ怒ってるのかなぁ。
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