第37話

「「かんぱぁーい!!」」


 ギルドでの長い報告を行った翌日。

 俺たちは約束通り、酒場での打ち上げを行った。


「っぷはぁー。大仕事のあとの酒は格別だぜ」

「ロイド君、本当に飲まないのか?」

「え、ジュースなら飲んでますよ」

「お子様ねぇ~。そっちのお嬢さんは?」

「ふぇっ!? あ、あの……ジュ、ジュースで」


 俺とルナが酒を飲まないというと、みんなが抗議の声を上げた。

 お酒は一八からって決まり事があるだろっ。俺、まだ一六なんだからさ!


「これとぉ、これ。あとこれも欲しいにゃ。ああぁぁ、これもいいにゃね~。それからこれとこれとこれもにゃ!」

「おいおいおいおい、この猫、俺の奢りだからって、何メニューの端から端まで指差してんだ。おい姉ちゃん、この猫の注文は無視しろ」

「ギルドマスター、奢るって言ったのあんたじゃないっすか。お姉さん、この猫ちゃんの注文、全部十皿ずつね」

「は~い」

「おいいぃーっ!?」


 打ち上げにはギルドマスターも参加している。

 ここでの飲食代は、彼の奢り──になっていて、にゃびが大喜びで大量のメニューを注文した。

 すみません、ギルドマスター。ゴチになります。


「それでマスター。査定っていつ終わりそうです?」

「あぁ? もう三日くれ。さすがに多すぎるんだよ」


 実は俺たち、スタンピードの殲滅作戦中のドロップアイテムも、ちゃんと拾い集めていたんだ。

 にゃびや他パーティーの斥候職の人、それに安全地帯に引き返す際なんか、防御役以外は一つ二つ拾っていた。

 それに最後のユニークモンスターを倒した後だ。

 範囲魔法スキルでぶっ倒しまくっていたから、そこかしこにアイテムが落ちまくり。


 俺はドロップ品の価値はよく分からないけど、他の人の反応からするとかなりいい物が出ていたようだ。

 ただスタンピード前に拾っていたものも全部混ざってしまっている。

 そこで話し合いをして、それも含めて全員で公平に分配しようってことになった。


 で、ギルドに報告した時に、拾ったものを全員が提出したんだけど──


「だいたいなぁ、荷車の半分ほどの量もあるドロップを拾ってくるなんざ、非常識だろうが!」

「ドロップ、そこにある限り必ず拾え──それあ冒険者の教えでしょうよ」

「ギルドの金をかき集めても、足りるかどうか……くそぉ」


 そう言いつつ、ギルドマスターの顔には笑みが浮かんでいる。


「ま、お前たちのおかげでスタンピード発生のからくりが、だいたい分かったよ」

「やっぱり地上のモンスターですか?」


 俺の問いにギルドマスターは頷く。

 昨日、俺たちが報告をしたあと、ギルドマスターは過去に起きたスタンピードの資料を探したらしい。

 この街の箱庭ダンジョンでは、過去に一度も発生していないが他のダンジョンではある。

 それらの資料は、各ギルド支部に配られているとのこと。


「いくつかの報告書には、直前に地上のモンスターがダンジョン内に入って行くのが目撃されたという内容があった」

「人の手によるものなのか、今回みたいにトレインした結果とかは?」

「不明、あとは追われた冒険者がっていう、今回と全く同じパターンもある」


 逃げていたのなら、故意ではないのだろう。


「ってことでだ。今回の件、全員、他言無用だ。いいな?」

「うにゃ? なんで内緒にするにゃか?」

「にゃびが、何故内緒にするのかって」

「んなこと外部の奴らに知られてみろ。特に、今回関係してる裏の奴らだ。これを悪用されて、故意にスタンピードなんか起こされたら……」


 そうだ……ギルドでは請け負わないような危険な仕事や、汚れ仕事。それを裏ギルドでは平然と請け負っているという。

 ヤバい仕事だと暗殺まで……。


「でもギルドマスター。酒場でそんな話、いいんですか?」

「あ? そうだな。ま、大丈夫だ。なんせここの連中はみんな、俺の部下だからな」


 そう言って彼はニィっと笑った。


 え、ここの店員さんって、冒険者ギルドの職員なのか!?






「じゃあ俺たち、宿に戻るんで」

「あぁ~、ロイホォ、まひゃなぁ」

「うふ、うふふ。ろいひょくんるにゃひゃん。ごゆっくいぃ。ひっく」


 ダメだこの人たち。完全に酔いつぶれてる。

 まぁ半日もここでずっと飲んでんだ。当たり前か。

 俺、これからも酒は飲まないことにしようと決めました。


「おぅ、ロイド。出来れば奴らの宿に行って、荷物を回収してくれねえか。今回の件に繋がるものがあるかもしれねえ。だが奴らがどの宿に泊まってんのか、さぱり分かんなくてな」

「分かりました。あの宿にまだ泊まっていたかは分かりませんが、行ってみます」

「頼むわ」


 ギルドマスターに頼まれて、ルイックたち・・・・・・の荷物を回収することになった。

 それにいてもギルドマスターって凄いな。

 みんなと同じペースでお酒を飲んでいたはずなのに、全然酔ってない。


 酒場を出て、まず向かったのは中程度の宿だ。

 俺がルイックのパーティーにいた頃、彼らはここに宿泊していた。

 俺だけが別の、格安の宿に泊まっていたんだ。


 宿の主人に尋ねると、彼らは今でもこの宿に泊まっているとのこと。

 そして主人が、四人が今でも冒険者だと思っていた。


「そうか……あのスタンピードで亡くなったのかい。ロイドって名前は、時々耳にしていたよ。もうひとりのメンバーだってね」

「はい……その、荷物を引き取りに来ました。ギルドマスターに頼まれていたので」

「分かったよ。ほら、これが部屋の鍵だ」


 鍵は二つ。201号室と202号室だ。


「男女で別の部屋を取っていたみたいだね。ルナ、女部屋の方を頼んでもいいかな?」

「分かったわ。荷物をまとめればいいのね」

「うん」


 201号室がルイックとバーリィの部屋だった。

 ルナに202号室の鍵を渡して、ルイックたちの部屋へと入った。


「うにゃ?」

「どうした、にゃび?」

「うぅぅ……この部屋には六人のニオイがあるにゃね」

「六人? ライザとブレンダも来ていただろうけど、六人?」


 にゃびは頷き、他の二人のニオイは薬品臭いと言う。

 薬品……嫌な予感がする。


 宿には金目の物は残されていないが、着替えや武器の手入れをする道具なんかは置いたままだった。

 ギルドマスターの言う、スタンピードに繋がるようなものは見当たらない。

 ブレンダの話だと、裏ギルドからモンスターを引き寄せる薬の検証をしていたってことだけど。ギルドマスターが言った、繋がる物ってのはそれのことだと思う。


「にゃび。粉はないか?」

「嫌なニオイは残ってるにゃ。けど外に持ち出されてるにゃね。どうしてか、この窓から出て行ってるみたいにゃけど」

「窓から? もしかして誰かが持ち出したってこと……か」

「証拠隠滅にゃねぇ~」


 その薬を、冒険者ギルドに持っていかれると困る奴らだろう。

 禁止とされている薬を使ったんだ。罪に問われるかもしれない。

 そもそも、スタンピードの原因がそこにあるのだから、当然だろう。


 残った荷物をまとめて、置いてあった鞄に詰め込む。


「隣の部屋へ行こう」


 隣の部屋では、ルナが同じように荷物をまとめて鞄に詰めていた。


「ルナ。薬品類はあったかい?」

「いいえ、こっちにはないわ。もしかしてそっちも?」

「うん。でもにゃびが、嫌なニオイは窓から外に出てるって」

「外にって……じゃあ裏ギルドの奴らが?」


 ルナの言葉に売れは頷く。ただし「たぶん」と付け加えて。


「じゃあ四人分の荷物を、空間収納袋に入れてしまおう」

「ロイド、これなんだけど……あのブレンダって人の荷物。絵本が二冊入っていたんだけど」

「絵本?」


 そういえば、ブレンダは最後に絵本のことを言っていたっけ。


 ──ダスティ……絵本、たくさん……買って……かえ……る。


 絵本ってことは、読むのは子供だ。

 ブレンダは俺よりひとつ上の十七歳だし、彼女の子供というのは考えられない。


「弟さん、かな……」

「じゃあ、これも持って行ってあげる?」

「うん。彼女がせっかく買った絵本だ。ちゃんと届けてあげよう」


 荷物を持ってギルドマスターを尋ね、宿でのことを報告。

 彼は驚いた様子もなく、「やっぱりな」とだけ呟いた。


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