第35話:ユニーク
「なんか……俺のシールドディファンス……防御力上がってる?」
「俺のバッシュも威力が上がってる気がする……」
「も、もしかすると、窮地に立たされることで潜在能力が目覚めたっていう、アレじゃないですかね? ほら、俺がそうだって、ギルドマスターに言われましたし」
と先手を打っておく。
ギルドマスター公認の俺が言うんだから、みんなアッサリと納得してくれた。
ステータスを弄っていない人たちは、自分だってと奮起している。
だけどステータスを弄ったからって体力や魔力が回復する訳じゃない。
四つのグループに分けて、交代で一グループずつ二時間だけ仮眠をとることにした。
眠っている人には毛布を掛けてやる振りをしてパーティーに入れて、急いでステータスを弄る。
なんとか四グループ目の仮眠が終わる頃には、全員のレベルアップが終わった。
スキルレベルはせいぜい二つか三つしか上げていない。
だけど元々レベルの高かったスキルを中心に弄ったから、たかがレベル2でも効果が絶大だ。
最初は長くても一分耐えるのがやっとだったのに、今では五分近く持ちこたえることが出来るようになった。
そして──
「ロイド! 正面奥の曲がり角っ」
休憩明けの殲滅開始時。除き窓からルナが外の様子を確認すると、ついにその姿が見えた。
「あぁ、見えたよルナ。俺が見たのはあいつだ」
「八階にあんなモンスターはいなかった……間違いない」
「確かにデカいな」
安全地帯に飛び込んで十時間以上過ぎた。
よく上の階に行かず、俺たちを追いかけて来てくれたぜ。
「みんな、あいつを倒せばこのモンパレは終わる! かならず全員生きて、地上に出よう!」
全員を振り返りそう声を掛け……あ……お、俺、仕切っちゃった!
「あ、いや、すみませんすみません」
慌てて謝罪すると、どっと笑いが起きる。
「いや、君の言う通りだ。奴を倒し、全員一緒に地上へ出よう」
「これ終わったらさぁ、みんなで一緒に飲みましょうよぉ」
「お、いいねぇ」
「でもその前にベッドで眠りたい」
「俺も」
「あぁー、じゃあその後で」
その言葉に全員が頷いた。
そう。全員で──地上に出て、そして寝て、それから飲もう。
あ、でも俺、お酒飲めないんだった。
「"プチ・ロックウォール"!」
俺の役目は左右の通路を塞ぐこと。
正面のあいつを倒すために、左右から押し寄せるモンスターが邪魔になる。
余裕があればプチ・ファイアストームで援護射撃。
ユニークモンスターは、四種類ほどのモンスターを融合させた姿をしていた。
そんなモンスターが相手でも、なかなか順調だった。
全員のスキルレベルを底上げしたからかもしれない。
それとも生き残るんだという、強い意思かな?
勝てる──だけど同時に「この程度?」という不安が過ぎった。
「グルルオォォォォォォォォッ!!」
「気を付けろっ、何か仕掛けて来るぞ!」
そんな声が聞こえた瞬間。
目の前にモンスターが一気に湧いた。
「くそっ。"プチ・ファイアストーム"!」
俺の位置は後衛だ。左右の通路に立てた壁を見ていなきゃいけないから、この位置にいる。
そこへモンスターが一気に湧いたのだ。
魔法スキルを撃つ間に怪我人が出た。
「"サークル・ヒール"!」
「聖域をっ」
僅かな時間でもモンスターを防げればいいっ。
その間に──
「グルルオォォォォォォォォッ!!」
「くそっ。またかよ!」
前衛の援護をする余裕がないっ。他の魔法職、それにルナともうひとりの弓手もだ。
神官たちは治癒で手一杯になって、
ユニークモンスターって、こんなに強いのか!?
だってこっちは二十人だぞ。
けどこの状況はマズい。
後衛が攻撃出来ないから、前衛はモンスターの進行に耐えるので精いっぱい。
突然湧くモンスターから守ってくれる前衛がいないから、後衛は傷を負いながらそっちを優先して殲滅しなきゃならない。
前衛も後衛も傷だらけだから、ヒーラーは回復以外に手が回らない。
このままじゃいつまで経っても終わらないぞ。
どうするっ。
「ロイド、行って!」
「ルナ!? でもここを離れれば──」
「壁を三つ立ててっ。あとは私たちが踏ん張るからっ。あんたなら出来るでしょ! ひとりで前衛も、後衛も、そして支援も!」
前衛も後衛も支援も──
そうだ。
俺、究極の器用貧乏じゃないか。
専門職に比べれば見劣りするかもしれない。だけどそれはステータスボードのおかげで補えるようになった。
ただの器用貧乏じゃない。
俺はひとりで前衛も後衛も、そして支援だって出来る!
「"プチ・ブレッシング"! ジンさんっ、俺とスイッチしてくださいっ」
「ス、スイッチ!?」
「"プチ・ロックウォール"──"プチ・ロックウォール"──"プチ・ロックウォール"」
左側に三枚の壁を張ったあと、すぐに右側にも同じように三枚の壁を張る。
「こっちでヘイトを取って、即湧きモンスターから後衛を守ってくださいっ」
「わ、分かった。注意を引きつければいいんだなっ」
ジンさんに代わってもらい、後衛の位置に湧くモンスターの
スイッチした直後に、プチ・ファイアストームで後方のモンスターを一掃しておく。
これで立て直し時間を作る!
前に出て、プチ・ブレッシングでバフる。
「ちょっと効果は下がりますけどっ」
「十分!」
「"プチ・ファイアストーム"──"プチ・バーストブレイク"!!」
「はっ。魔法と剣、同時に使うか。器用貧乏より、オールラウンダーだろ」
オールラウンダー。なんでもそつなくこなす、万能職……か。
今の俺は、そう呼ばれてもいい領域なのかな?
怪我を負っている前衛には、プチ・ヒールの重ね掛け。
合間に範囲魔法スキルで雑魚を一掃する。
「アタッカーはユニークだけを狙ってくれ! 周りの雑魚は俺が消し炭にする!」
プチ・ファイアストームの連続で隙間が出来ると、その隙に後ろに下がって壁を追加する。
またすぐに前に出て、治癒と攻撃を繰り返す。
後衛に余裕が出て来たのか、バフと矢による援護が飛んで来た。
じわじわと俺たちが押し始めた。
だけどあなり長引かせたくない。
体力も、魔力も無限じゃないんだから。
勿体ない気もする。
だけどポイントはまた頑張ってレベル上げをすればいい。
人の命と天秤にかける必要はない。
だから──ステータスボードを開き、急いでスキルポイントを振り分けた。
『プチ・バッシュ レベル上限』
『プチ・ファイアストーム レベル上限』
「"プチ・ファイアストーム"!!」
唱えながら、マナハルコンの短剣に魔力を流す。
「にゃび! 挟み込むぞっ」
「うにゃー!!」
プチ・ファイアストームで周囲のモンスターは一層され、阻むもののいなくなった空間に躍り出る。
俺は右、にゃびは左から、それぞれ奴の首を狙った。
「"プチ・バッシュ"!」
「"爆連"にゃ!」
「くっそ、硬い!!」
レベルを上限まで上げたのに、切り落とせないのかよっ。
けど次の瞬間、ヒュンっと音が二つ。
首の中ほどまで食い込んだ剣のその先に、二本の矢が突き刺さった。
穴が開いたことで通り道が緩くなる。
剣を指したままの状態で、俺はもう一発放った。
「"プチ・バッシュ"!!」
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