第34話:みんなをほにゃらら

「はぁ……覗き窓越しからだと、やっぱり魔法攻撃出来ないのか」

「そりゃそうだろ。キリク、フロイさん手伝ってください。すこーしだけ扉開けるんで、念のため俺たち三人で抑えましょう」

「分かった」


 俺のプチ・ファイアストームで、扉前のモンスターを焼き払う。

 一発じゃ倒しきれないが、ここには他の魔法職もいる。彼らの範囲魔法も加わって、扉の前は確実に清掃が完了。


「行くぞ!」

「"プチ・ロックウォール"!」


 扉の前は、正面と左右に通路が続いている。

 三方向から攻められたら耐えられない。だから左側の通路をスキルで塞ぎ、正面、そして右側の通路にいるモンスターに全力攻撃をする。


「「"シールド・ディフェンス"」」

「"ビルドアップ"!」


 ジンさんやフロイさん、安全地帯にいた他のパーティーの戦士も、防御スタイルだ。

 ジンさんのパーティーメンバーであるキリクさんは、アタッカースタイルなんだな。


 ユニークモンスターだと思われる奴は、正面の通路の先にいる。

 こっちで騒ぎを起こせば、音に釣られてやってくるかもしれない。

 ただその道には他のモンスターが大量にいて、そいつらを倒さなきゃ奴もこっちへは来れない。


 だから俺たちは、奴の方から来て貰うために安全地帯付近のモンスターを倒す。


「ひけっ。限界だ!」


 フロイさんの号令で、後衛から順に安全地帯へと飛び込んだ。


「"プチ・ロックウォール"!」


 左の壁に追加を加え、逃げる時間を稼ぐ。ついでに正面のやや奥にプチ・ファイアストームだ。

 正面左右。一か所でも崩れれば、一瞬にして俺たちは死ぬ。

 背後に安全地帯があるんだ。無理して止まる必要はない。


「はぁ……安全地帯の中でずっと攻撃出来れば、スタンピード潰しも楽なのになぁ」

「全くだ」


 全員が無事に中へと入ると、一息つく。

 体力もそうだけど、精神的にかなりくるな。


「でも安全地帯からずっと攻撃していたら、モンスターが引き返し始めたからこうするしかないですし」

「安全地帯からのずる防止が、スタンピード中でもしっかり生きてるってなんだよまったく」

「にゃびちゃ~ん。肉球マッサージ頂戴ぃ」

「……おいにゃ、マッサージ店でも経営するにゃかねぇ」


 おいおい、お前には何か目的があったんじゃないのか?


 安全地帯から魔法で殲滅し続けられればよかったのだけれど、ダメだった。

 扉の前のモンスターを殲滅すると、後続が前進してくる。それをまた殲滅すると、後続が前進してくる。そいつらをまた殲滅すると……前進して来なくなった。

 回れ右してしまったので、慌てて部屋を出て、奴らを呼び寄せないと行けなくなったんだ。

 しかも次からは、最初の一発目のあとには回れ右するようになってしまったから出ていくしかない。


 何度も何度も繰り返し、そのたびに休憩を挟んだ。


 厄介なのは、倒した傍から湧いてくるモンスターだ。

 順番待ちの最後尾に湧いてくれれば問題はないが、割り込みで湧く奴もいる。

 十倒しても、結果的に捌けたのはその半分ぐらい。

 なかなかユニークモンスターの姿は見えなかった。


「でも続けるしかない」

「そうだな。どちらにしろ我々がここから脱出する手段はないんだ。僅かでも可能性があるなら、続けていくしかない」

「でもみんなお疲れだにゃあぁ」


 肉球もみもみは最初、魔術師、それと神官だけが必要としていた。

 だけど二時間も続けていると、前衛職の疲労も溜まって彼らにもにゃびはマッサージをするように。


「くそっ。ボクにもう少し火力があれば……」

「それを言うなら俺だって、モンスターの攻撃に耐えられるパワーがあれば」


 みんな同じ気持ちだろう。

 いくらマッサージを受けても、消耗した体力や魔力が一瞬で回復する訳じゃない。

 時間の経過とともに、通路で持ち堪えられる時間も短くなってきた。

 一度しっかり体を休めるべきか。


「おにゃか空いたにゃ~」

「ん? にゃびの腹時計が鳴ったのか」

「腹時計? あ……もう晩飯の時間だな」


 懐中時計を持った人が、時間を教えてくれる。


「こんな時ですが、夕飯にしませんか?」


 俺の提案は、満場一致で受理された。






「ルナ、にゃび。ちょっと手伝って欲しいんだ」

「なに?」

「にゃ?」


 このまま続けても、体力と魔力を消耗して動けなくなるだろう。

 安全地帯にいれば問題ない。

 だけど戦闘音がなくなれば、あのユニークモンスターが別の方角に行ってしまうかも。


「だからさ、みんなにはバレないように、彼らのステータスを弄ろうと思うんだ」

「だけどパーティーに入れなきゃいけないんでしょ?」

「バレるとダメにゃんか?」


 ステータスボードのことを知られれば、みんながこぞってパーティーに入れてくれと群がってくるだろう。

 中にはそれ目的で俺を脅し、囲う奴らも出てくるかもしれない。


 ここにいる人たちは悪い冒険者じゃないと思う。

 口止めをしたって、いつどこでポロっと口が滑るかも分からないんだ。


「試したいことは二つ。まず、パーティーを抜けさせた後にもボードが見えるかどうか」

「抜けられるの?」

「うん、ほらここ」


 今は俺たちにしか見えないステータスボード。

 ルナとにゃびのステータスが書かれている部分の右下に、小さな三画マークがあった。

 そこに触れると【パーティーから追放しますか】という文字が浮かぶ。


「つ、追放ってなんか……」

「嫌にゃあぁ」

「つ、追放する訳じゃないから。実験。ね?」


 にゃびが半泣き状態なので、ルナが検証してくれることになった。

 俺も正直心苦しい。でも戦力をアップさせなきゃ、スタンピードは乗り越えられない。


 ボードを操作して、彼女をパーティーから抜く。


「どう、見える?」

「ううん。急に見えなくなったわ」

「よかった。じゃあ再加入するね。ここでも検証したいんだけど」


 加入条件は相手に触れること。

 触れてパーティー加入の是非の文字が浮かんだ状態で接触を解くと、当たり前だけどステータスボードは消えてしまう。

 そこで、ルナの背後から触れてパーティーに加入させてみた。


「見える?」

「いいえ、見えないわ」

「じゃあ加入させてすぐにステータスボードを消すとして、次は隠れてボードを開いた時にパーティーメンバーに見えるかどうかだ」


 ステータスボードは小さくはない。両の掌を開いたのと同じぐらいかな。

 にゃびに部屋の隅に移動して貰い、俺はその向かい側の壁でステータスボードを開く──あぁ、見えてるのか。


「私が前を塞いだらどうかしら?」


 そう言ってルナが俺の前に立った。

 彼女の肩越しににゃびが走って来るのが見える。


「ルナがいたら見えなくなったにゃよ」

「障害物があれば見えないのか。そし、じゃあ二人とも、視界を遮るために俺の前に立っててくれるか?」

「分かったわ」

「オッケーにゃ」


 食事の準備をしながら、背を向けている人たちをそっとパーティーに入れていく。

 複数人同時にだと、視界を遮る面積も必要になるからひとりずつだ。


 習得しているスキルの中で、特に頻繁に使っていたスキルのレベルを二つぐらい上げていく。

 ステータスはその職業に必要なものに割り振った。

 ステータスポイントもスキルポイントも、全部は使わずに残しておいた。

 俺が勝手にやってることだし、悪い気がして……。


 食事を終えるまでに、なんとか六人ほど弄ることに成功。


「腹ごしらえもしたし、休む前に一度奴らをこっちに引きつけておきませんか?」


 休憩中も一瞬だけ顔を出して、モンスターの気を引きつけてはいた。

 だけど休んでいる時間が長くなると、モンスターは地上を目指そうとするので殲滅作戦を止める訳には行かない。


 まずはプチ・ファイアストーム。

 それから飛び出して行って左の通路をプチ・ロックウォールで塞ぐ。

 正面、そして右側通路に向かって全力で集中砲火を開始。


 攻撃して、攻撃して、攻撃して──フロイの号令がまだない。

 彼は最年長というのもあって、状況把握もしっかりした人物だ。

 その彼が、まだ行けると判断している。


 一分はとっくに過ぎた。

 そして二分が過ぎて、ようやくフロイから撤退の指示が出た。


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